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幻の輝き  作者: ながと
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暗号の糸口

 翌日の日曜日は朝からいい天気にめぐまれたが、修平は色々考えが頭の中を駆け巡りぐっすりと眠れなかった。9時頃起き上がるとカーテンを開けた。眩しい日光が部屋の中を照らし出した。トイレに入って用を足した後に顔を洗う間もなく、携帯電話をとり先輩に電話をかけた。

「もしもし、桃田さん、先輩ですか?」

「おう、その声は修平か?何だこの日曜日の朝に?」

「ちょっと話があるんですが、かなり重要でできれば会って話がしたいんですけど」

「何だかしこまって。彼女にふられたか?」

「いいえ違います。ちょっと大変なことが起きまして。電話ではちょっと」

「わかった。それじゃ、どこで会う」

「あまり人に聞かれたくないんで、できれば先輩の家が」

「そうか、それじゃ十二時に昼飯でも食いながら」

「はい、わかりました。十二時に伺います」


 桃田は修平と同じ名古屋中央大学の卒業で修平の二年先輩にあたり、卒業後はCBM株式会社に入社し、システムセキュリティの仕事を担当しており、特に暗号技術を利用したシステムは業界から賞賛される評価を受けている。

 桃田は地下鉄一社駅から徒歩で十分くらいの所にある建売住宅に住んでいる。二年前に結婚し六ケ月になる女の子がいる。修平は十一時四十分位に一社駅に到着した。ゆっくり歩いて十二時前には桃田の自宅のベルを押していた。

「こんにちは、修平です」

「おう、今開けるから」

 桃田はTシャツにジーパンの格好で玄関を開けた。

「おう、よく来たな修平。時間より早いじゃないか。珍しいな」

「先輩昔と違いますよ」

 修平は集合時間にはいつも遅刻していた常習犯だった。

「もうすぐ食事の用意ができるからな。まあそれまでこちらで座っていてくれ」

「では、お邪魔します」

そこはリビングとキッチンが一緒になった部屋で15畳程の広さがあった。キッチンでは

桃田の妻早苗が昼食を作っていた。

「こんにちは」

「いらっしゃい」

早苗は忙しく作りながらも笑顔で訪問客に挨拶した。

「修平俺たちの結婚式以来だな。丁度二年になるか」

「そうです。先輩!相変わらず元気溌剌ですね」

「そうか。おい早苗、覚えているか?俺たちの結婚式でスピーチしたけど」

「ええ、覚えているわ。絶対に忘れないスピーチだったもの」

「ところで、重大な話があると言っていたよな。まさか、結婚するんで式に出てくれって言うんじゃないだろうな」

「違うよ、もっと深刻な話だよ。先輩の知恵を貸してほしいんだ」

「高い報酬だぞ」

桃田は豪快に笑っていた。だが、深刻そうな修平の顔をみて真顔に戻っていた。

「何だ?」

「暗号を教えてほしい。謎解きなんだ」

「暗号だって?どういう事なんだ」

「それは」

「できたわよー」

早苗が昼食の準備が整ったので会話を邪魔するように少し多きめの声で呼んだ。

「食べながら聞こう、修平」

「はい、いただきます」

桃田と修平は食卓についた。そこにはおいしそうなオムライスがとサラダが載っていた。

「早苗の得意料理なんだよ、このオムライスは。どこのレストランにも負けないぜ」

「私はあちらの部屋にいますから」

と、二人の重要な会話を察してか、氷を入れたグラスに水を注ぐと出て行った。


 修平はオムライスをおいしそうに食べながら桃田に聞いた。

「先週、殺人事件があったのを知ってますか?」

「殺人事件?どういう?」

桃田は暗号の話ではなく殺人事件から繰り出した修平の言葉に戸惑った。

「話せば長くなるんだけど、うーん、殺されたのは僕の友人で高校の時のクラスメートだったんだ。警察には話してないんだけど、そいつ、近藤慎一って言うんだ。殺される前に僕に電話をしてきて、あるホームページの所在と暗号をメールでくれたんだ」

「なるほど。その謎解きをしているうちにわからなくなって俺の名前を思いだした」

「これには得体の知れないバックがあるように思います。僕の周辺を調べてたようで、昨日は留守の間に部屋に侵入してパソコンの中を調べたようです」

「で、この俺に解いて欲しいものは?」

「それがまだわからないんです」

と言って、修平は頭を抱え込んだ。

「えっ?」

と桃田はしょうがないやつだなと呆れたような顔をしたが、気を取り直して修平に聞いた。

「どこまでたどりついたか順序だてて話してくれよ、修平」

「はい」

修平は顔を上げた。

「修平、先に食っちまおうぜ」

二人は途中だった食事を急いで済ませた。

「先輩、ご馳走さまです。すごくおいしかったです」

「そんなことはいいから、早く話をしろよ」

修平は今まであったことを順序だてて話を始めた。桃田は一句一句聞きもらすまいと慎重に聞いていた。

「今の所はここまでです」

一方的に聞くと桃田は修平に聞いた。

「キーワードは隠されているが、暗号というほどのものではないな。何かメールで送ってきたものに記号みたいなものはなかったか?」

「そういえば古い地図みたいのが添付してあったけど」

「それだな、今持っているか?」

「僕のWEBの書庫に入っているので、ここで見れますよ」

「よし、じゃ俺の部屋にいこう」


 二人はリビングから桃田の書斎部屋に入っていった。コンピューター関係の書籍が本棚を埋め尽くしており、机の上にはデスクトップ型の十七インチデスプレイが置いてあった。

「さすが先輩、いいマシン持ってますね」

「おう、MBC性の最高マシンだ。二年前だけどね。いまじゃ2流にダウンだ」

桃田はパソコンの電源をONにしてレディ状態になるのを待った。

「俺の愛車だな。片腕としては最高のマシンだよ」

と桃田はパソコンを撫で回しながら言った。

「先輩はもうパソコンを完璧に使いこなしていますよね」

「もう一人の女房ってとこかな」

パソコンがレディ状態になったので、桃田はインターネットに接続を開始した。

「アドレスは?」

「僕が入れますよ」

と、修平はキーボードを借りて、アドレスをいれた。

修平が仕事上で使うWEBのデータ管理であり、そこの一つを使ってその地図は隠されていた。IDとパスワードで管理されてるので、一応安心といえる場所であり、まさかここに地図を隠しているとは誰も知らなかった。

「修平、隠す場所を考えたな。そう簡単には気がつかないぞ」

画面には、古地図が表示された。桃田は見た瞬間にそれが海賊が持つ宝探しの地図のような印象を受けた。

「これじゃまるで、海賊の気分だな。まずこれは古いものなのかだが?」

「先輩、これは近藤がどこかで手に入れたものだと思いますが、手がかりは近藤のHPから探すしかないということです。そのHPを見ますか?」

「うん、いや、その地図をもう一度拡大して見たい」

修平は拡大した。

「この地図には古い城と高く聳える山と鬱蒼としげる森、そして細く蛇行する川が描かれているだけだ。そして、一羽の鷹。隠しキーとなるものはない」

「そうでしょう。見ていても何もわかりません」

「だが、ちょっと待てよ、鷹の目の部分をよく見ると色が変だぞ」

「えっ、そういえば」

よく見ると鷹の目が黄色いのだった。

「こんな色は使わぬだろう」

「でもこれが何と結びつくのです」

桃田は大きく息をつきながら、少し考えこんでいた。そして指を鳴らすと

「修平この画像の形式は何だ?」

「JPEGだけど」

「JPEGって、ふーん?」

「だけど、原画はビットマップだよ。サイズが大きいから形式を変えたんだ」

「何だって?ビットマップはどこにある?」

「ああ、同じ場所に保管してあるよ」

と、修平は同じ場所から画像を表示した。ビットマップ形式だから表示には先ほどよりしばらく時間がかかった。

「よし、ひょっとするとどこかに暗号がかくされているかもな」

桃田は表示された画像を一旦パソコンに保存してから、メモ帳を開いてファイル名をクリックしてその画像の中身を表示した。修平はその訳のわからぬ内容を見てびっくりした。修平も長年パソコンをやっているが、画像データの中身を見て文字を探す行為は初めてだった。

「先輩、ここに何か隠されているんですか?」

「おそらくな。高度なテクニックだ。果たして解読できるかだが、できるだけやってみよう。時間はかかるぞ」

桃田は椅子を直してパソコンの画面と正対した。

「まずは、このデータを2進数に変える。そういえば紙テープを知っているか?」

「ええ、見たことはありませんが、講義の中でありましたので」

「紙テープは穴が1で穴なしが0だ。いわゆる2進数だが、うまく使えば暗号となる」

画面の文字が2進数で1と0になった。

「今度はこれでは人間がわからぬから16進数にする。16進数はわかるだろう」

「はい、入社当時プログラム作成の時に、漢字を置き換えてプログラムさせられましたから。大変ですよ。よくもこう考えたもんだ。漢字は大変だ。アメリカ人になればよかったと思いましたね」

「わかるなその気持ち。コンピューターに漢字を登場させた人には敬服するよ。よし16進にかわった」

「それからどうするんですか?あっ、わかった。イエローを探す」

「おう、気がついたか」

桃田はイエローの色を表す16進をいれて検索した。カーソルはそこで止まった。

「さあ、ここからが問題だ。鍵を探さないと暗号は解読できないからな」

桃田は一旦10進数に変換した。そのイエローの記号の前後を確認した。その後ろに“マ”

の字があった。

「何だろう?この“マ”とは」

「あっ!」

「どうした修平」

「先輩多分俺のあだ名ですよ」

「あだ名?」

「マントヒヒ」

「マントヒヒ?そりゃいい。暗号解読は近いぞ」

桃田はマントヒヒの文字を探し、その文字にあわせて配列を変えた。その文字をつなぎあわせると重大なことがその地図には隠されていることがわかった。

二人は顔を見合わせたまま言葉がでなかった。

 桃田はその言葉は16進で30BF30AB30E930DE30CEとあった。日本語にすると、タカラモノわかった。

「タカラモノ?何ですかね先輩」

「これだけでは何も解読にはなってないな。これはひょっとして偽装工作かもしれん」

「偽装?」

「そうだ。暗号は見破られるもの。それを防ぐためには色々な手段をとるんだ」

 桃田はそのあとキーワードとなるものを探したがなかなか見つからなかった。その日は結局他に何も見つけられなかった。

「なかなか難敵だなぁ。よほど重要な内容が隠されているかもしれんぞ。何せ命を狙われるぐらいだからな。後は俺に任せておけ」

「先輩!是非お願いします」

修平は充血した目をしきりに瞬きさせながら桃田に頼んだ。先輩だけが頼みの綱だった。


 桃田は2日間必死にキーワードを探した。すると、もう一つの言葉が発見された。それはジとマとンであった。桃田は何だろうこの言葉はと思った。組み合わせを変えるとマンジと読める。マンジとはあの卍のことだろうかと思ったが、それがキーだとすると何をどう解読したらよいのかわからなかった。桃田は夜9時に修平の携帯に電話をかけた。

「修平、俺だ」

「先輩!解けましたか?」

「うーん、それがなかなか手ごわい。修平マンジで思い浮かべることあるか?」

「マンジ?マンジってあのカギ十字?」

「ああ、もう一つ言葉が見つかったんだ。マンジとね」

「先輩、それですよ。HPにもハーケンクロイツの旗印が。あのヒトラーの」

「おう。ひょっとして。わかったまた電話する」

桃田はふとそのキーの意味するところが解読できた。パソコンの前に向かいその画像の中心から卍の形に切り取ってみた。そして、その中にかくされている言葉を分析した。格闘すること2時間、別の画面に解析された文字が浮かび始めた。

   ハプスブルクノダイヤレッドマリーハアンゼンナトコロニカクサレテイル

   ソノバショハイズレアキラカニナル

画面に浮かび上がった文字を読んで桃田の心は動揺した。

「こ、これは」

桃田は携帯を手にして、修平に電話をかけた。

「おい、修平!ついにやったぞ。解読成功だ」

「やった、先輩!さすがっ」

「すごい内容だぞ。いまその内容をメールで送る」

 桃田はメールソフトを起動すると、解読文をコピーして修平宛に送信した。もちろん万一のために暗号化していた。

 修平はメールを受け取るとすぐ暗号を解凍してその内容をみた。携帯はそのままつながった状態だった。

「先輩!これはすごい内容ですね。近藤の命が狙われたわけがわかりました。財宝をめぐる争いに巻き込まれたんだ。今度は俺らの番か。ハプス」

「修平シッ!電話は盗聴される恐れがある。これ以上は明日会って話そう」

桃田は明日仕事が終わった後、午後六時に栄の中日ビルで会うことにした。

道路の脇に車が止まっていたが、修平はもちろん何も気づいていなかった。


 桃田の妻早苗が書斎の扉の向こうから声をかけた。

「あなた、お風呂沸いてますよ」

「おい、早苗!」

早苗が扉を開けた。

「はい?」

「おまえ確か大学の専攻は西洋史で卒論はハプスブルクを研究していたんだよな」

「えッ?そうよ。よく覚えていたわね。だけど、なに?」

「うん、いまちょっとしたことから、ハプスブルクの財宝の話が出たんだ?」

「ハプスブルクの財宝?」

「それも高価なダイヤモンド」

「うーん、それならマリー・アントワネットが夫ルイ16世から贈られたホープダイヤね。

サファイアブルーのダイヤはその所有者に不幸をもたらした呪われたダイヤよ。今はスミソニアン博物館にあるはずだけど」

「ヘェー、すごいダイヤがあるんだな」

「レッドマリーという名前のダイヤは聞いたことある?」

「いいえ、その名前は知らないけど。マリーと言われるからにはアントワネットと関係があるかもしれないわね。面白そうね。探検みたい」

「それがそうじゃないんだ。こないだ修平が来ただろう」

「あっ、大学の後輩の」

 桃田は早苗に今までのことを詳細に話した。早苗の表情はだんだんこわばっていった。

「怖い。かかわって大丈夫?」

「うん、でも放っておくわけにもいかないし。大学の教授で詳しい人知っているか?」

「えぇそうね、名古屋中央大学の渡辺誠司教授がいいと思うわ」

「明日電話して聞いてみるよ。ありがとう」

「あなた気をつけてね」


 桃田は翌日渡辺教授に電話をかけて、色々と質問をした。

「わたしもそのレッドマリーの事は聞いたことがないね。そうだ、ミュンヘン大学にハプスブルグ研究の第一人者がいるから一度尋ねておくよ」

「ありがとうございます。勉強になりました」

「あまり役にたてなくてすまない」

「いいえそんなことはありません。では失礼します」

 桃田は電話を切ったが思ったように成果はあがらなかった。

「あなた、だめだったみたいね」

 早苗は桃田の顔の表情から成果を得られなかったことを察知していた。

「うん、行き詰ったよ」

「ハプスブルグの財宝は膨大な量よ。レッドマリーはその中のたった一つのもの。どんないわれのあるお宝かわからないけど、きっと何か手がかりがあるはずだわ。それも行方知れずになっている大切なもの」

「だろうな。それも正体のわからない組織がその獲得に乗り出している?」

「わたしも色々と調べてみるわ」

「あぁ、頼むよ。じゃ行ってくるよ」

「はい、いってらっしゃい」


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