忍び寄る魔の手
アメリカ、ロスアンジェルス市のあるビルの八階で、二人の紳士が会談していた。
「シンジ・コンドウは神の元へいきました」
「そうか、例のありかは突き止められたのか」
立派な椅子に座っている恰幅のいい紳士は葉巻に火をつけながら聞いた。
「それが、皆目見当がつきません」
髪の毛がブロンドの背の高い年格好が三十前のその男は、眼が大きく、鼻筋が通っており
かなりのハンサムといえたが、紳士の前で少しビビッていた。
「なんだと!判らぬと!それで俺の所へ平気な顔で来たものだ」
「ですが、ボス。シンジはなかなかの切れ者で、どこへ隠したのか家の天上から床下まで調べたんですが何も出てきません」
「友人関係は調べたのか?」
「彼の友人彼女すべて調べましたが、何も出てきません」
「電話の記録も調べたのか?」
不服そうに、そのボスは声を少し荒げて聞いた。
「もう一度調べ直せ。 I―netの接続も調べよ。 今度手ぶらで俺の元にきたら、すぐさま地獄に落としてやるからな」
「わ、わかりまた」
その男は脅えるような感じでドアから出ていった。
近藤慎一の葬儀の日は晴天のよい日和となった。修平は喪服を着て出かけた。会社へは欠勤する旨昨日上司の上田課長に伝えてあった。少し離れた所に見慣れぬ外人の姿があった。どうやら弔問客を一人一人チェックしているようだったが、誰も気に留める者などいなかった。修平は焼香が終わり、帰ろうと道路にでた。ふと、見た先に金髪の外人の姿が
あった。それも二人いた。何だろう?と思ったが、気に止めずに振り返って反対方向に歩きかけたその時、ふとある考えが浮かんだ。あの二人は、もしかして慎一を殺った一味?
謎の宝を追いかける人物?えっ?と、思い振り返って確認しようと思ったが、もし振り返って怪しまれたら大変と、そのまままっすぐ進み、道が交差している所まで来ると、右側に塀があり隠れ場所になるので、曲がった振りをして身を隠し、外人の方を見た。
二人ともサングラスをしており、顔ははっきりわからない。しかし、慎一の葬儀に出入りしている人物を見渡しているようだ。
(もしかして慎一の死に関係があるやつ?)
「おい」
誰かが背中をポンとつついた。修平はビクッとして後ろを振り返った。
「びっくりしたな、もう。弘治か」
「どうしたんだ?そんなにびっくりして。そんな所で何やってんだ?」
「しっー」
修平は弘治に静かにするように口に指を当てた。
「あっ!やばい!」
外人のうち一人がこちらの存在に気がついたのか、早い足取りで近づいてくる。
「逃げろ!」
修平は弘治の腕を掴み、必死で走った。二百mほどほぼ全力で走った。息が激しくしばらく話すことができない。諦めたのか後はもうつけられていなかった。
「ジョージ、わかったよ。近藤が連絡をとっていたところが」
「WHAT?ナオキ」
ジョージは直樹から近藤慎一の通話記録から有力な人間を見つけたこと、HPの存在も確認し、その鍵はその男−昔の同級生−が握っている事を聞いた。
「近藤はサーバーに鍵となるデータを隠していたんだ。そのパスワードはどこにも書いていない。誰かに密かに教えているに違いないと考える。その誰かかは、電話を直前にかけている一人。それが岡島修平だと考える」
「そのオカジマという男は何者か?」
ジョージは煙草に火をつけながら聞いた。
「それはまだ調べていない」
「すぐに調べるんだ!」
ジョージは手でピストルの格好をして直樹の頭を狙う格好をした。
「わかったよ。調べりゃいんだろう」
直樹は同じように手でピストルの格好をして、ジョージに狙いをつけながら部屋から出ていった。
週末の土曜日、修平の家に冴子がやってきた。
「おはよう、修平」
「おはよう。ようこそわが御殿へ」
「すばらしい御殿ね」
修平は冴子を居間に通した。
「何か飲む?」
「何もいらない。考えたらワクワクしちゃって」
「それじゃ、パソコンはこっちの部屋なんだ」
と修平は先に歩き、扉を開け、冴子を先に部屋の中に入れた。机とベットが置いてあり、机の上にはパソコンが乗っていて、幾何学模様のスクリーンセーバーが画面をにぎやかにしていた。
「じゃ、いくよ」
IEを起動し、アドレスを入れてOKを押した。
雷鳴が轟き、パスワードの要求が来た。修平はキーボードからパスワードを入れて、OKを押した。ハーケンクロイツのマークにやがてヒトラーの顔が出てきた。
「すごいホームページね。この先は?」
「ここから先が問題なんだ」
修平はハーケンクロイツのマークをクリックした。
「最初の難関です。キーワードを入れてください」
という文字が表示されており、入力を待っている。
「一度間違えると、YAHOOに移動してしまうようになっている」
「修平の渾名では無い訳ね」
「ヒトラーとか思い付くものを入れてみたけどだめだった」
と修平は思い付くものはもうないという風に両手を挙げた。
「ここは何?」
「ヒントがあるんだけど、何を意味しているのかさっぱり」
「ヒント出してみて、私にわかることがあるかも」
「だめだと思うけど、見てみる?」
修平はヒントな箇所をクリックして違う画像を表示した。
「何これ?どこ?どこかの宮殿の中?」
「だろう。これが何処で何を意味するのかわかるかい」
「無理みたいね」
冴子はわからなかった。今までヨーロッパの宮殿のほとんどは写真で見たことがあるが、この写真だけは全く記憶にないところであった。
「やっぱり、ヒトラーの事を調べましょう」
と冴子は修平に早く図書館にいこうと言った。二人は支度を整え、愛知県立図書館へと
向かった。
二人が外出した後に三人の男が修平の家の前にいた。 一人は家の外にいて見張りの役であり、手にはトランシーバーを持っていた。 もし、緊急事態が発生したら、危険を知らせるためである。 当然その役目は日本人だった。 後の二人はラテン系の顔立ちなので、外で通行人に見られるだけでも覚えられやすい。
「どうも留守のようだ 」
「じゃ、手筈通りに事を運べ」と流暢な日本語で一人のラテン系は答えた。 それがリーダーのようであった。
その扉はリーダーとは別の男がいとも簡単に開けた。
「ちょろいもんさ」
二人は中に入り扉を閉め、トランシーバーで中に入ったことを告げた。 二人はあたりを物色したが、机上のパソコンを見ると近づき、スイッチを入れた。パソコンが立ち上がるとマイコンピューターを開いてディスクの中を調べはじめ、次にインターネットに接続を開始した。接続を完了したパソコンの画面はYAHOOのホームページになっていた。次に
オプション設定を開いて、最近開いたアドレスを調べ始めた。
「あったぞ」
その男はにやりと微笑むとそのアドレスの場所を書きとめた。そして、そのアドレスをキーインして問題のHPを閲覧した。
「ふふふッ」
HPは雷鳴が轟き、パスワードの要求が表示された。通称ビリー呼ばれている男はその欄にShuuhei と入れてEnter キーを押した。だめだった。
「クソッ」と言いながら次の文字を打ち、再度ログインしようと試みたがだめだった。
「このアドレスがわかっただけでも収穫さ。あとはプロに頼もう」
アプリを終了して電源を切断した。
「こちらコヨーテ。作業完了」
リーダーは見張り役の日本人にトランシーバーで連絡した。
「ハゲタカは飛んでいない」
見張り役はしばらくして応答を返した。侵入した二人は玄関から出て鍵を元のように閉めた。三人は周囲を見渡すと何食わぬ顔で近くに止めてある車まで世間話をして歩き、車に乗り込むと走りさった。
修平と冴子は図書館につくと百科辞典でヒトラーの事を調べ、西洋史のコーナーに行き第二次世界大戦の中からヒトラー関連の書物を調べた。
「わからないな?あの宮殿みたいなのはなんだろう?」
「修平、でもきっと何か関係あるものがあるのよ」
冴子はヒトラー関係の書籍は見るのを止め、宮殿の載っている書籍を探してめくり始めた。
ヨーロッパの宮殿関係の写真集や書物も意外と多い。3冊目に手にした本をめくっていると、ふと見覚えがある小さな写真があった。それはあまりにも小さすぎてそのページをめくりすぎてしまったが、アッ!と思い元へとページを戻した。
「あった!修平。あったよ。ここだよ」
修平は手に持っていた本を棚に置いて冴子の所に急いでやってきて、その小さな写真を見た。まぎれもなくHPで見たものと同じ宮殿であった。
「名前はアルトシュテッテン城。えーと、一九一四年サラエボで暗殺されたフランツ・フェルディナントの居城ね」
「ヒトラーと何の関係?」
「多分関係なしね。ハプスブルクとは関係があるけど。なにかしら。しいていえばヒトラーも第一次大戦には出征している」
「??」
修平は考えた。
「ということは」
「ヒトラーは目をそらすため。相手をごまかすためかも」
冴子は修平の考えていたことを先に口に出した。
「感がいいね。でも、それだけだろうか?」
修平は親指を立ててやったねと言いたげだった。
「私、冴子だもん」
「フッ、やられた。よしすぐに帰って続きだ」
「うん」
修平の家に帰った二人は、太陽も沈み始めて暗くなりかけていたので電器のスイッチを入れて灯りをつけた。
「私お手洗いかりるね」
冴子はトイレに急いで入っていった。
修平は自分の部屋にあるパソコンにいき電源をいれた。だが、ふと先ほど出かけたときと違うように感じた。冴子がトイレから出て部屋に入ってきた。
「どうしたの?」
「確かここに置いたはずのペンがここのペンケースに入っているんだ」
「エッ?」
「変だな?」
その数分後、修平はその事実は真実だということに気がつくことになる。
修平はパソコンのセキュリティをチェックしたが、ウイルスの存在は確認できなかった。
だが、何かおかしいと感じて電源とファイルの動作確認システムの監視状況をみてみた。そこには、外出している時間に電源が起動されたこと、ファイルがコピーされていることがわかった。
「何だ?大変だ!」
「どうしたの?」
「誰かが僕たちが留守の間にここの家に侵入して、このパソコンからファイルをコピーしていったんだ」
「エッ、なんですって」
冴子は鳥肌がたってきているのを感じていた。
「それも、今僕たちが探しているものをだ」
「・・」
冴子はもう怖くて声が一瞬でなくなっていた。修平はこれはただならぬものにかかわってしまったと思った。
「警察に電話しましょう」
と冴子が声を震わせながら言った。
「電話をした所で何も出ないだろう。指紋なんか残して置く訳ないさ。こちらもスペシャリストが必要だ。明日先輩に頼んでみよう。君はこれ以上は危ないから手伝わなくていいよ」
「うん」
と言ったものの冴子は怖いもの見たさも心の片隅に残っており、修平だけに危険な負担をさせておくのも自分に許せないところもあった。
「今日はこれまでにしよう。家まで送っていくよ」
「はい」