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幻の輝き  作者: ながと
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出会い

 米田冴子はぼんやりと夕陽を眺めながらかって彼氏だった岡島修平のことを回想していた。付き合っていたのはほんの僅かの期間であった。あいたくてももうその姿はこの世になく、冴子の脳裏に残っている残像しかなかった。そしてもうひとつ。


岡島修平は三角(ミスミ)商事株式会社に勤務しており、今年で十年目を迎える。入社当時からシステム部のエンジニアとして、システム開発に従事している。彼には、同じ会社の庶務部に在籍している米田冴子という彼女がいる。彼女は短大を卒業して入社し、今年七年目になる。付き合い出してまだ三ヶ月である。

二人の出会いは同じ会社に勤務しているとはいえ、五百名以上いる社員の顔ぶれを知っているのはほとんどいない。二人が二年前知り合ったきっかけは偶然ともいえた。それも会社ではなく、アフターファイブの時にお互いの存在を知ったのである。

その日修平は久しぶりに大学時代のゼミ仲間と居酒屋“たこ八”に足を運んだ。同期の河本裕二が結婚することになり、さらに沢木憲一が加わり六人で祝宴をあげたのだった。当然、裕二のフィアンセが同席することになったのだが、彼女の方も一人ではなんとなく恥ずかしくもあり、別に友人二人を連れてきたのであった。その一人が冴子であった。話の合間に自己紹介も加わる。修平が三角商事に勤めてますと言うと、冴子の隣にいた横田君子が

「あら、冴子と同じ会社じゃないの」

と少し大きめの驚いたような声で言った。

「冴子、知ってる?」

冴子はいいえと首を振った。

「よろしく」

と修平が少し照れたように笑い、右手で頭の後ろをかきながら座った。その時は二人に何事もなく時間が過ぎ、祝賀会は終わった。みんな思い思いに帰途についた。冴子は帰る道すがら、修平のあの時の照れた笑いを思い出していた。それから三日が過ぎた。

午後六時過ぎ修平は仕事を終え、タイムカードシステムに退出時間をスキャンすると部屋を出た。システム部は八階にあり、エレベーターの前には同室の小柳武雄が降りてくるエレベーターを待っていた。修平が前まで行くと丁度、右側の一基が九階にいた。

「ラッキー」

と、少しはずんだ声で小さく囁いた。

「やっと来ましたよ、先輩!ここに来た時はもう二つとも下でした。」

エレベーターが止まり、扉が開いた。中に三人が乗っていた。ベーターは定員十二人の大きさである。二人は乗り込んだ。扉が閉まり下へと向かう。七階六階と通過し、五階で止まった。扉が開き、その前に二人の女性が待っていた。

「あっ、どうも」

乗り込む女性の一人に修平が頭を少し下げて挨拶した。

「お疲れ様です」

と、冴子が返した。

「知ってるの?」

武雄が右肘で修平の脇腹を突付きながら、耳元で囁いた。修平も左手でつつき返した。

エレベーターは一階に到着した。修平は玄関の所で武雄と別れた。

「また、明日な」

修平は地下鉄東山線で通勤しており、武雄はバスで通勤している。右に行くと地下鉄栄駅に通じる地下街へ行く階段があり、バス亭はまっすぐ歩いて久屋大通にあるオアシス21にある。

修平の前を冴子が歩いていた。同僚と話しながら歩いていた。五分ほど歩くともう駅へ通じる地下街である。改札を入り階段を降りて地下鉄のホームへ着いた。冴子は同僚とさよならの手を振って別れて並んで乗車を待っていた。偶然同じ方向であったのだ。修平は意を決して声をかけることにした。ドキドキであったが、とりあえず食事に誘うのに成功した。

私ここだから。本山の駅だった。冴子が降りていった。修平の顔にはうっすらと微笑みが残って、それが地下鉄のガラスに反射していた。

「じゃ、明日食事に」

「はい」

と、冴子はかわいらしく返事をした。翌日は金曜日であった。それから、二人は何気なく付き合い出し、毎週のようにデートを重ね、三ヶ月の歳月がたっていた。


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