共闘
走り回ってたどり着いた扉を開けるとーーー
盛大に舌打ちをした
回れ右して今来た扉から出て行きたい衝動を必死に抑えて伊奈の到着を待った
零が必死に走ったのにも関わらず、ほんの10秒ほど遅れて伊奈はこの部屋にたどり着いた
そして同じように、表情を固くして扉を後ろ足で器用に閉めた
(やられた・・・)
(やられたわね)
時同じくして2人共同じ事を考えていた
大きな部屋だった
長方形に長い形をしており、今入ってきた扉は長方形の短い部分にあたる所でーーー
部屋の両隅には大きな柱が何本もあった
そこには多くの気配を感じた
(まんまと誘い込まれたか・・・)
油断していた事は認めるが、ここが敵の本拠地だという事をすっかり忘れていた
そのせいでこの様だーー
(くそ!)
投擲用のナイフをさりげなく戻して両手ともに小太刀に持ち直す
「寝起きの全力疾走の後にこれやるの?勘弁してよ・・・」
伊奈の愚痴めいた独り言を華麗にスルーして言い返す
「手間が省けた」
つまり相手を探し回る手間だ
いつ出てくるかよりもこっちのほうが気持ち的にありがたい
とかなんとか言い訳を考え、自己擁護してみる・・・
「言い訳になってないわよ」
伊奈の冷静な指摘に何も言い返せずーーー全ての原因は何も考えずに追った零にあるのだが・・・
「いくぞ!」
「あ、ごまかした」
気の抜けるような言い合いをしながら敵の大群に向かっていった
時間にする事およそ30分ーー
お決まりになってきているが、ほとんどの敵は消滅した
死体がそこら辺に多く転がっている
零と伊奈の2人だけでの戦闘にしては異常だが、ここにいるのは最初の戦闘で敗れた者と奥で待機していた堕天使だ
奥で待機していた堕天使はともかく、最初の戦闘で戦った堕天使に関しては零達にとってとるにたらない敵でーー
眼をつぶっていても勝てるーーそう言えるほどの弱い敵だった
そういうわけでーーー
あっさりと全滅寸前まで追い込む事が出来た
(楽勝か?)
そう戦いながら思えるほど楽な戦いだった
そう思いながら戦うこと更に30分ーーー敵は全滅した
「面倒事は先に済ませるに限る」
「自己擁護になってないわよ」
「いいだろ、結果生きてるんだから」
「終わりよければ全てよしって便利な言葉ね」
「・・・」
容赦ない伊奈の攻撃に身を打ち砕かれる
堕天使との交戦よりもダメージを負った
(女は強い・・・)
しみじみとこんな感想を抱いているとーー
「変な事思ってるんじゃないわよ」
「すみません・・・」
何故かばれてしまい謝った零だった
部屋に充満していた人の(正確には堕天使だが)気配は消え去った
しかしある種の不安感は消えなかった
「何でだ・・・?」
つい独り言が出てしまった
それくらいの不安があった
気持ちも不安定になっていた
心が奥底から触れられたような感覚ーー
いやーな感覚だった
しかし伊奈は何も感じていないようだった
一仕事終えて安心したのか鞘に小太刀をしまっていた
顔は緊張が解けて緩んでいる
(俺だけーー?)
そんな不信感が押し寄せてきた
今までは伊奈も自分も同じような場面では同じようにその状況を読んでいた
しかしここでは意見が(状況の読み方)が違っている
(俺の気のせいか?)
こういう勘は外れた事がないが伊奈は違っている
自分と同じような実力を持っている伊奈とは意見が違っている
他の大多数の奴なら気にせず自分を信じていたが、伊奈は戦友だった
それだけ自分は伊奈を信じていた
「ん?どした?」
小太刀を仕舞わない零に不信感を抱いたのか伊奈が聞いてくる
そして伊奈も再び小太刀を取り出した
良くも悪くもそういう関係になっていた
お互いを信じあえるような関係に
ここは引いて伊奈を信じてみるのもいいかと思い、小太刀を仕舞おうとすると
(ーーー!?)
再び小太刀を抜き出し、鞘を放り捨てた
眼の前を神がーー通り過ぎていく
神ーー堕天使が
彼がーー
鞘で相手の勢いを躱し後ろに飛び退く
零だから出来る芸当だった
「久しぶりだな・・・」
豪快な再会の攻撃をしてくれた彼に言い放った
いつかの屋上での対戦をした彼だった
「久しぶりだな」
紅い外套を身に纏っているのは変わらなかった
相変わらずな物言いも
しかし更に一つわかった事がある
戦場だからこそわかったこともあった
彼は強い
その事がここでは際立っていた
異常だった
今までの堕天使とが格が違った
飛び抜けている
前は銃があったが今はない
接近戦での小太刀しかない
(まずいな・・・)
そう思いさり気なく後ろに移動して攻撃に備えた
それと同時に伊奈も零とのコンビネーション攻撃が出来るように位置を変えていた
そういった息も合うようになってきた