迫り来る怪異
今作から零目線に戻ります
ここまで耐え抜いてきた
今さら諦めるわけにはいかない
そして逃げ出すわけにも・・・
今まで大きな代償を負ってここまでたどり着いた
長かった
遠かった
そしてここ、堕天使の本拠地である城まで来た
ぶっ潰すーー
そう誓った
そのまま歩き続けた
城の中は迷路のようになっていて、敵の姿はない
いつどこから敵が現れるかわからず、常に緊張し続けなくてはならない
これは精神的にも疲れてくる
さらに連日動き続けてさっきの戦闘だ
疲れが無意識にも溜まってきている
足取りも遅くなっている
伊奈も見るとかなり疲れているようだ
無理もないーーー
男である零がかなり疲れを感じているのだ
女の中でも男顔負けの運動神経を誇る伊奈でも本質的な力は男である零にはどうしても劣ってしまう
それを見せずに行動してきたのは見事であり称賛に値するがここにきて疲れが見え始めたーーと言うより疲れがかなりきていて疲れを隠しきれていない
疲れを隠すーー
賛否両論あるがそれは大切な事だ
もちろん場面の違いを考慮しなくてはいけないが特に2人以上で行動している時は仲間の士気に関わってくる
もちろん素直に申告して相手に受け入れてもらうのも大切だが、伊奈の性格上そんな真似はしないだろう
零の足でまといになるくらいなら死ぬーーそんな意思さえも感じられる
特に零は今まで知らなかったが伊奈の兄の話を猪野から聞いて、その猪野が自爆し自分達を助けてくれてからは凄まじいまでのーー零が思わず下がってしまうまでの殺気を醸し出している
(凄まじい・・・)
そう内心思いながら共に進んできた
「休むか?」
伊奈にそう提案する
自分も休みたいのでそう言った
ちょうどいい具合にお城の部屋の一室にいてベットも高級そうなのがあった
「そうね・・・」
伊奈はさすがに疲れを隠しきれない口調でベットに倒れこんだ
ドアには鍵がかけられるようになっていて強引に外されたらすぐにわかる
窓はーーーここは3階だ
魔法を使えば入れないことはないだろうが、原則魔法は使えないはずだ
予防線としてドア、窓に手榴弾を軸とした罠を作る
それが起動すれば自分達は眼を覚ますことが出来るはずだ
伊奈が飛び込んだベットと逆側に、枕元に小太刀をおいて眠りについた
眼を覚ますと状況は変わっていなかった
窓とドアの罠は起動していない
何よりだ
重たい瞼を指でこすりながら時間を確認するーー
「おい・・・」
思わず独り言が口から出てしまった
自分達が眠りについたのがまだ明るい午後の4時でーー今は外が明るい
ここの時間が人間界と同じスピードで進んでいるかは別として今は朝ーーというより正午だった、つまり12時ーー20時間たっぷり眠っていた計算になる
一日近く寝ていたのだ
よほど疲れていたのだろう
身体はすっきりして疲労も取れている
疲労を取るのが睡眠が1番だ
そんなどこかのコマーシャルを思い出しながら周りを見渡していた
伊奈も零が起きたのを感じて起きたようだ
「悪いな、起こしてしまったか」
「いいよ~今何時?」
よっぽど疲れていたようだ
今さっき驚いた事実を伊奈にも伝える
「12時」
「嘘でしょ!?」
おもしろい反応が見られた
これはこれで収穫があったといえるのだろう
「本当」
エレベーターに乗って降りる時ーー
ジェットコースターの降りる時ーー
その時のような浮き上がるような感覚を受けた
(!?)
咄嗟にその場にしゃがみ込んで周りに注意する
(来るーーー)
そう第六感が告げている
脳内に赤信号が点滅する
(危険だーー)
目の先にあるドアの存在が大きく見える
あれを開けてはいけないーー
そう本能が告げていた
伊奈も同じ感覚を受けたらしく先程とは違った引き締まった表情をしている
(くそっ!どうする?)
『決まっているだろう』
心の奥底からそんな声がした
「だな・・・」
伊奈からみればいきなり独り言を言い出して意味不明な光景だろうが気にしない
何かに導かれるようにしてドアに近づいて、ドアノブを握りいきよいよく開いた
そこには出てきた時と同じように何の変哲もない廊下があった
周りには零が砕いた物が散乱している
しかしーー
一見何も変わっていないように見えるこの場所が寝る前とは同じとは考えられない
その本能を無視するほど零は図太くなかった
「伊奈!」
後ろから警戒して出てきた伊奈も違いに気づいたようだ
そしてーー
風の切るような音が零の目の前を通過する
そしてそれはナイフでーーー
廊下の一辺に突き刺さっていた
伊奈が投じた物だった
伊奈の意図がわかると人間離れした反射神経、脚力、そして脳の反応スピードで伊奈の投じたナイフの元へ走っていった
走りながら投擲用のナイフを掴む
利き腕の右手に投擲用ナイフを掴み、左手に普通の小太刀を握る
零は両手とも利き腕にさほど影響なく使えるが正確性を求めるには右手が必要だ
廊下の角を曲った瞬間彼の姿が見える
モーションのない鋭い投げ方で投げる
紅い外套に肉薄するが影響はなくそのまま逃げ続けていた
口の中が乾く
水分が欲しい
全力疾走をしているのもあるが緊張感が半端ない
何かわからない物に緊張している
(たちが悪いな・・・)
悪態をつきながら新しいナイフを握り直し彼の後を追っていった