閃光の喜劇
神殿にたどり着いた零達が目にした物はーーー
「何じゃこりゃ」
伊奈も零に同意した
零がすっ飛んだ声をあげるのも無理はない
神殿と聞いていたのに一見したところ城だった。正確には吊り橋が掛かっていて城壁が見えていたのだがーー
「どこが神殿だよ・・・」
零の呆れるような声を聞き流し周りを観察する
今までは寝る暇もないくらいうじゃうじゃ湧いてきていた敵が誰も襲ってこない
というよりも人の気配を感じない
「狐に化かされた・・・?」
思わず出てしまった独り言に零が突っ込む
「狐というより・・・天使か神だろ」
天使はともかく神という言葉をいかにも無神論者ですという顔をしている零に言われると違和感がある
そんな思いが顔に出ていたのか零が苦笑してこの無言の問いに答えた
「俺は神を信じているか、否かと問われれば普段なら否だ。でもここでは違うだろ?ここは神が絶対だ。ここを作り出したのも神、俺達を戦わせているのも神だぜ。ここでのルールは神が作ったものだ」
「悔しくないの?」
「悔しいか否かと問われればもちろん悔しい、でも既に出来上がったものを壊すのには労力と力がいる。ならばその世界で動ける限り動いた方がいいと俺は思うぜ」
全くの異議なしの意見なので無言で頷くとーーー
「さあ行こうか!地獄の底へ」
「地獄ねぇ・・・」
銃を構えながら吊り橋を零に続き渡っていった
城門の前に立つ
こうして見るとかなり大きい事がわかる
見上げていると首が痛くなる
そうした思いは一緒なのか零は
「立派な門だね~」
皮肉交じりの口調で言うと伊奈も
「どれくらいのお金をかければこんな豪華なお城を作れるのかしらね?」
息があっているのかいないのかわからない、論点のずれまっくった主張をお互いにして、大きな城門の下についてある豪華な門とは比べ物にならないような小さなドアを開けて中に飛び込んだ
それなりに音を立てて入ったのにも関わらず誰もいない無人の広場に出た
周りを城門に囲まれているような形で正面に城の本丸がある
上から狙われるとひとたまりもないような場所で正直生きた心地がしなかったがそこに出た
身体中に鳥肌があっていた
今までとは違うーー
誰もいないにも関わらず、無言のプレッシャーを感じる
零も同じようで表情を固くして黙って歩いている
油断はしていなかった
警戒心も緊張感も保っていた
しかしーーー気付かなかった
「後ろだ!」
零の声を合図に横に飛び退く
それと同時に銃の引き金を引くがーー
(弾が出ない!?)
何度やってみても弾が出てこない
それは零も同じようでーーー
「くそっ!」
何時の間にか距離を縮めるのを許してしまっていた
操るナイフに肉薄して微かな痛みを感じる
そして攻撃をそこまでにさせて全力で走り距離をとる
「所変われば品変わるってか?」
零の声と同時にーーー
伊奈を狙おうとしていた襲撃者の身体から赤い血が吹き出した
零の操る小太刀に切られたーー哀れな襲撃者はそこに倒れこみ絶命した
続々と哀れな襲撃者に続いて奥から人間と同じ体格でも素人目でもわかるほど人間ではないーーおそらく堕天使が出てくる
城の中はかなり大きく遠くから次々と湧いてくるがまだこちらとの距離は開いている
零が静かな口調で話し出したーー
「ここは銃器厳禁らしいな」
「そうね。出ないし」
しゃかしゃかと銃の引き金を引きながら答える
一向に銃弾が出てくる気配がない
(・・・)
少し呆れながら銃を見て拳銃とライフルを捨てる
「役にたたなさそうね」
それを見た零もそれに倣う
しかしアサルトライフルだけは手元に残して置いた
機動性があり、かつ威力がある武器を後がわからないのに捨てるわけにはいかない
拳銃は使えない事もないが、威力が弱すぎて刀代わりにも使えない
アサルトライフルなら咄嗟の時でも身を守るくらいの事ならば出来る
そういう判断だった
「おそらく銃器が使えないのは、相手の本拠地だけだ」
「初耳ね」
(そんなこと天使さん教えてくれたかしら?)
そんな事を考えつつ零の話を促す
「ここまで俺達は・・・」
後は言わなくてもわかっている
ここに生きて立っているのは2人だけという事だ
「多くの犠牲を払ってきた」
言いにくそうにしていたのでかわりに伊奈が言った
「ここまでたどり着いた」
「そうね・・・」
「長かったな」
「ええ・・・」
ーーー長かった
長い長い道のりだった
いつも死と隣り合わせという緊張感に潰されそうになりながら生きてきた
戦ってきた
逃げ続けてきた
それで多くの犠牲を払った
多くの人間を亡くした
仲間だけではないーー
相手もだ
どちらに罪があろうが関係ない
相手が攻撃してくるから自分も受けて立つ
その精神で戦ってきたのは伊奈だけではないはずだ
そして何も関係なく連れてこられた人達を殺し殺されてきたーー
罪悪感があるわけではない
それは仕方ないと最初に実戦に出た時から割りきっている
いるがーーー
今回の戦争は酷かった
自分の知り合いがいたからかもしれないが精神的にダメージを負った
こんな体験は久しぶりだった
兄が消えた時以来ーーー
そんな昔の話だった
そんな回想をしながらも手足はきちんと動いていた
拳銃とライフルに必要な物を捨てて、太刀に切り替えていた
はっきりと顔まで認識出来るようにまで接近したところでーー彼らが遠くからは何か持っているなという認識だったが実は刀や薙刀などを持っているのがわかった
これで自分たちの予想があたっているのがわかった
「行こうか」
ここまで来たら死ぬ気はさらさらない
小太刀を手に飛び出した