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天使憑き  作者: 夢籐真琴
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遺された者たち

伊奈の眼に映った物とはーーー















ゾンビ越しに見える大勢の兵士達だった

シティを縦断していく大勢の集団がいた

仲間か敵かーー

それは伊奈の鋭い観察眼ではっきりと捉えていた

紅い外套ーー

それは堕天使側を表す証拠

あの夢の中で天使さんに聞いていた

どうしてそんな目立つ格好をしているのかと


「それはね、血の紋章。血に染まる事を意味しているの」


その時はあっさり納得したが、今はそんな安易な感情はない

歩き方・銃の構え方・身体ーー

どれをとって見ても隙がない

今まで戦ってきた人間とは違う

その姿が雄弁に物語ってきた

(本気出してきた・・・)

身体の中で赤信号が点滅する

ここから早く逃げろと告げている

今まで戦ってきた人間は武器を持った事がなかったのだろう

ただ威力のある武器を片手に戦っていたのだ

もちろんそれでも多少は戦えるが本職の伊奈や零には対抗できない

分別のない子どもが包丁を振り回しているだけだ

それでも周りに多少被害を負わせるがそれでも本職には及ばない

もちろん生き残ってきたのは運も大きく作用したが、実際には実力の差が目立っていた


子どもに負けるはずがないーー


そう思ってきたのだが、本拠地までこっちが迫ってきたのでおそらく本気を出してきたのだろう

(まずい・・・)

相手が本気を出してきたのなら、こっちの2人で対抗出来るはずがない

おそらく本職か堕天使

これらを対抗するのは相手と同数を出してこないといけない

埠頭での戦いも見ていたが本隊もどうやら今まで自分達が戦ってきた人間と同じように本職は少ない

猪野は特別だったが、今思えば実戦を知っている物を先に投入して後はまともに戦えなくても数で押せばなんとかなるーー

そういった考えだったのかもしれない

その方が圧倒的に被害が少なくなる

ただ使い捨てには同意できないがーーー






そんな事を考えているうちにも周りに死体の山が築かれていく

どうやら無意識の内に派手な攻撃をしていたらしい

円が部分的にに潰されている

身体は堕天使のように真っ赤に染まっていた

両手には真っ赤に染まって切れ味が悪くなっているはずの刃物が握られていた

(我ながら何時の間に・・・?)

冷静にそんな事を考えながらも敵を葬っていく

(うわ、まず・・・)

冷静な思考をしていたが、まずい事を思い出した

相手が通っている道路にはそれなりに距離があるものの、ゾンビに囲まれて派手に蹴散らしている女が目に入らないはずがない

目立ちまくっている

ましてや相手は精鋭(エリート)部隊だ

良くて仲間と見られて助けに来るか、悪くて問答無用で射殺だ

(・・・勘弁してよ)

案の定気付いた何人かが警戒して近づいてくる

何かあればすぐに撃てる構えだ

一個隊で進んでくる

人数は8人程ーー

分が悪い

そう思っている間にも次々とゾンビを葬っていく

身体に反比例して内心は冷静だった

何故か昔のように血走って行動する事がなくなってきた

妙に冷めている

今まで気付かなかった事も気づくようになった

意識が覚醒している

いや、心の眼とでもいうのだろうか?周囲を余裕で見渡せる事が出来る

余裕で戦っているわけではない

いつもピリピリして緊張している


それなのに自分に天使が憑いたようなーーー


妙な事が起こっている

ここでも冷静にウエストポーチの中から円柱状の物体を取り出す

ずっしりとくるものの、走っているうちは違和感無かった

(これも天使の恩恵?)

そうしているうちにも片方となった左手だけで器用に刃物を操り次々と近づいてくるゾンビを葬りながら、機会を伺う

(来た!)

両手が塞がっているので口で引きちぎって近づいてくる彼らに投げ込む

そして自らゾンビの多い方向ーーすなわち彼らとは逆の方向に頭から飛び込む


ドゴーン


伏せていたので爆風を避けれる

しいていえば飛び込んだ際にできたかすり傷くらいか

爆風に巻き込まれ飛んで行くゾンビを尻目に立ち上がって銃を構えながら逃げる

一瞬伏せる瞬間に見ていたが何人かは手榴弾に反応してそばに飛び込んでいた

何人かは生き残っているだろう

「零!堕天使の本隊が出てきた、今までと違う!」

通信を入れながら、後ろを時折向き銃をかっ飛ばす

やはり追ってきている

車の影や建物の影に隠れて上手い事かわしてくる

「ちぃ!」

舌打ちした瞬間には走っている

手榴弾に反応して避けるとは相当の実力を持っていると判断して問題ない

こっちもジグザク走りながら後ろからの追撃をかわす

(冗談じゃない!)

ふと交差点で左を見ると堕天使側の人間がこっちに向かってくる

全身針鼠になって右手に逃げ出す

「伊奈、影に隠れろ」

全く通信がなかった零から突然の指示がある

何故かを聞かずに咄嗟に路上に停めてあった車の影に飛び込む

交差点の十字路で爆発が起こった

車が動きかけてフロントガラスが割れた

爆発の威力は半端なかった

車の影から様子を伺う

足音が後ろから聞こえ銃を向ける

何とか引き金を引かずに済んだ

大型銃器を担いだ零だった












「相変わらずやることが派手なのよ」

「悪いか?」

いけしゃあしゃあと零が聞いてくる

「遅いし、もうちょっとで死んじゃいそうだったのよ」

「悪い」

悪いとは全然思っていない顔で返してくる

しかし今までの無駄話とは一変した零の顔で何かを言ってくる事を察し無言で促す

「スコープ越しだが、俺達の本隊がシティに入った」

「!?」

確かに自分達がシティに潜入してから何日か経っている

攻撃に入ってもおかしくない日が経っていた

「おそらくさっきの奴らは俺達の本隊を対抗するためだ」

「・・・」

何も言えなかった

どうしたらいいか脳はフル回転しているのに正解が見つからない

「なるようになるさ」

「・・・」

伊奈の心境を読み取ったように零が言う

「ケセラセラ・・・ね」

「俺達は未来は見えないんだ、前しか向けないのにな」

遠くを見て零が言う

「はい、名言頂きました~」

からかいの口調で言うが動じない

(強くなった)

奈美の死を力に変えたようだ

こういう人間は強い

負けない

では私はどうか?

どうなんだろう

生きる?死ぬ?

そんな事はどうでもいいんじゃないだろうか

今を生きている

未来(さき)は見えない

じゃあ今を精一杯生きる事しか出来ないんじゃないだろうか?


「生きて」


奈美の言葉を思い出す

もしかしたらーーー

私は小さい事にこだわり過ぎたのかもしれない

奈美はそれを伝えようとしたのではーー?

そういった感情が伊奈の中で吹き荒れていた











そうやって考えている間零は何も言わなかった

伊奈の意見を尊重してくれていた

何も言わず何をするでもなくただ周りの警戒だけをしていた

しかしそんな時間も長くは続かずーーー

「伊奈、来た!」

振り向くと10人程が向かってきていた

零と顔を合わせて頷くと逆の方向に逃げ出した

これもまた分が悪い

取り敢えず有利な場所を取らないといけない

今までもそうしてきた

伊奈が引きつけて零が撃つ

これが何時の間にか暗黙のルールになっていた

最初は零が惹きつける役をしたそうだったがそこは無理やり伊奈がやった

零よりも機敏な動きが出来るからだ

しかしここは有利な場所ではない

取り敢えず逃げるしかなかった

それでも適度に銃を連射して追ってくる敵の足止めをあいたかったが・・・

2人で止まって射撃しても食らってくれない

「冗談だろ!」

零の心境をマイクが拾う

それは伊奈の心境でもあった

出来るだけ使いたくなかった手榴弾に手を伸ばそうとした瞬間ーーー

「何だ?」

零の視線の先にはーーー














紅くない部隊がいた

20人程の中個隊だ

我に返って車の影に身を隠す

すると紅くない部隊から今まで追ってきていた紅い軍団に射撃を繰り出した

身を隠さずに堂々とした20人分の射撃である

さすがの精鋭部隊としても圧倒的数の前に次々と崩れ落ちていった

もちろんその間2人は傍観していたわけではない

隠れた敵を違う角度からの攻撃で殺していった

ものの数分も経たぬうちにシティの道路は真っ赤に染まった





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