敗者の末路
シティの路上を走っていた
後ろから追手の足音が迫る
一瞬の隙をつき反転して銃をぶっ放す
追っていたうちの一人の人間が倒れーーー
怯んだ隙に一気に逃げ出した
「零!」
「了解、しゃがめ!」
咄嗟にそばにあった車の影に身を潜める
ドカーン
地面が震えるような地響きを起こし身体に衝撃が走る
塞がったはずの傷痕も再び開いた
プツっと熱い何かが流れる感触がする
身体が火照ってくるが休んでいる暇はない
新しい追手がくる前に呼吸を調えてーーー
「伊奈、次のターゲット発見!」
「元気な事で・・・」
ぼやきつつも零が指示した場所へと向かう
その時またもや大きな音が鳴った
発信源は零が指示した方向だった
一瞬静かになったシティに零の声がイヤホン越しに聞こえる
「目標消滅、他をあたるぞ」
「はいはい・・・」
背中に気配を感じる
反射的に飛びのいた場所に斧が突き刺さっていた
「原始的な・・・」
先程零が放ったのに直撃した人間だろうか?手足がなくなっている者が何人か見て取れる
銃を使う事は出来ないらしく残った片手で斧を振り下ろしたのだ
近距離戦では刃物の方が速い
だからといって直撃はしない
すんなり避けて斧を地面に突きつけて止まっている軽くなった身体を蹴り飛ばす
伊奈の力でも成人男性を飛ばすことが出来た
身体の部分がかけているからーー
ふらふらと倒れて泡を吐いて絶命した
ゾンビというものは決して嘘ではない
作り話でもないと伊奈は思っている
戦場ではゾンビがうようよしている
身体に重大な傷を負い死んでしまうといった時に特に多く見られる
脳が正常に機能せずに身体が勝手に動いているのだ
その証拠に銃は使えない
複雑過ぎるからだ
だが刃物ーー斧などの簡単な武器は使う事が出来る
ゾンビとなった人間は敵味方関係なく襲ってくる
時には同士討ちしていることもある
それほどの知能は残されていないーーーしかしトカゲの尻尾切りのように切られても少しの間は身体は動いている
しかし長い時間は持たずーーー
個人差はあるもののたいていはすぐに絶命してしまう
零の放ったロケットランチャーに中途半端に吹き飛ばされた人間が集まってくる
顔がない人間もいる
(何処で見てるのよ)
非常に的確な突っ込みをしつつ、銃を握って打ち付ける
耐久性には優れていないゾンビはあっさりとバタバタ倒れていく
銃弾は使わない
勿体無いからだ
どうせ死ぬゾンビに銃弾を使う必要はない
次々と華麗に葬り去っていく
女性である伊奈の力でも十分対抗できる
相手は知能がない
だからちょっと変わった動きをしただけでゾンビは何も出来ない
素手で襲いかかってきたゾンビを蹴り倒し、下から這いずってきたゾンビを踏み潰す
(変態)
その間にも手足は休むことを知らない
一体から抜き出した刃物が血に染まっている
段々切れ味が悪くなっているようだ
(マジ?)
ゾンビに対抗する上で気をつけないといけない事は2つある
1つ目は周りを囲まれない事ーー逃げ道を確保する事
ゾンビで恐ろしいのは集団戦法だ
集団で襲ってくるといくら弱くてもやられてしまう
この点はいきなり襲われたせいで守れていない
周りをすっかり取り囲まれて円を縮めてくる
2つ目はーーー
ゾンビに気を取られて人間の存在を忘れてしまうこと
それが一番危険だ
周りをゾンビに囲まれている奴ほどやりやすい相手はない
速攻で息を止める事が出来る
囲まれた時点で零に応援を求めたが来る気配はない
(銃を使うか?)
勿体無いけど・・・と付けたし周りを見る
円が小さくなっていく
(仕方ないかな)
これ以上派手に暴れると敵に自分の存在を知られかねない
それだけは避けたい
背に腹はかえられないーー
覚悟を決めて銃を構えた時ーーー伊奈の眼に衝撃的な光景が映った