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天使憑き  作者: 夢籐真琴
86/104

別れと誓い

何も出来なかった

目の前で死なれた

私達とは違う幸福そうな顔で

あれだけの傷を負っていながらもーー

その顔は満足そうだった












「俺は間違っていたのか?」

何をするでも無くただぼんやりと宙を見つめていた伊奈に聞いてくる

「さぁ?」

生返事を返す

そんな気分だった

何もしたくなかった

身体を動かすのも億劫で壁際にもたれ掛かっていた

零は奈美のそばでうずくまっていた

「俺達は隊長のそばにいたほうが良かったのか?」

それはないーー

彼は緒方の為に自分を、チームを犠牲にしようとした

彼と共にいた所で変わらなかっただろう

死ぬのが早かったか遅かったかの違いだけだ

「俺はあんな事をしなかったら良かった」

自分を責め出したので、否定する

「それは結果論だよ」

結果論ーーー

結果論だけで話すならすべてを後悔しなくてはならないようになる

「結果論だろうがなんだろうが、俺のせいで奈美は死んだ、これは厳正たる事実だ」

「だから結果論でしょ、話すだけ無駄」

「・・・」

結果論だからといって自分を責めないというわけにはいかないだろうが、これは仕方のない事だ

「そもそも俺だけだったんだ、ここに来るのは、戦争に出るのは!」

「・・・」

そう、もともと零だけが参加するはずだった戦争だった

忘れかけていたが、もともとは伊奈達は部外者だった

巻き込まれる必要のない人間だった

「零・・・」

「何だよ?」

言葉が荒くなっている

「私達がここに来たのは零のせいじゃない」

「!?」

驚いて顔をあげた零に詳細を話す

「零が教室を抜けて何処かに行こうとした後どうなったか知ってる?」

おそらく知らないだろう

伊奈自身違うクラスでよく知らない

菖蒲に聞いた話だ

「知らない・・・」

ポツンと呟いた

「その後を菖蒲が追った、そして私に知らせてくれて私も零を追いかけた」

「学校に通信機なんか持ってくるなよ、カンニングになるぜ」

小さい声だが皮肉を言える程まで回復したらしい、それはそれでいいことだがーー

「私は違うクラスだから当然時間は遅れる、その時何を見たと思う?」

「お化けでも見たか?」

「真昼間から出るお化けがあるわけないでしょ」

論点が激しく違うのだが2人は大真面目で話している

「それで、何を見たんだ?」

元気が戻ってきている

憂鬱な表情で話されるのは鬱陶しくて仕方ないのでありがたい

「私の問題だからと言って教室を出てきた奈美」

「・・・」

「前に山蕗邸に来ていた男の子と女の子、あの2人の同伴を断って出てきたのよ」

「良太と美夏か・・・」

小さく呟く零を無視して

「奈美は自分の意思で戦場(ここ)にやってきた、たとえ本人が戦場に来るとは思っていなくてもね」

「・・・」

「私達も同じーーー菖蒲も私も零を探していた、その気持ちの大きさがここに来てしまった原因だって言ってた」

天使さんがーーとは言わずに黙っておく

実際彼女がここに連れてきたわけではない

他の大雑把な天使がやった事らしい

「だからここに来たのは私達の意思、勝手に自分のせいにしないでもらいたいね」

微妙な言い回しだが、要約すると

落ち込むな、零のせいではないーー

という事だった

言い回しが難しいのは否定しないが・・・

「わかった・・・」

ようやく元に戻った零だった

(めんどくさい・・・)

戻すのに無駄な労力を使ってしまった

「ぶっ殺す!」

「えっ?」

「奈美を殺した堕天使を始め全ての堕天使をぶっ殺す!」

眼が本気だ

周囲に誇張でもなく薄っすらと燃えているオーラが見える

触ると火傷しそうな炎が零の身体に纏っている

若干引き気味でそれを見つめていたがーーー

「伊奈、行こう」

行く準備満タンといった零を戒める

「零ーー」

伊奈の低い声にさすがに尋常ではないと気付いたのか、話を聞く態勢をとった

「奈美の最後の言葉忘れたの?」

「!?」

表情に衝撃が走っている

「生きてーーーそう奈美が言った、どういう意味だか零ならわかるよね?」

「・・・」

「相手を潰すことは否定しないし、私もそうしようと思う。でも自分の命を捨てるのは違うんじゃない?」

「・・・」

さすがに応えたみたいだったので手を緩めてやる

「だいたいまだ朝食食べてないでしょ?腹が減っては戦は出来ぬっていう言葉知らないの?そのまんまの状況じゃない」

今の状況を表すのにこれほど適当な言葉はないだろう

「それにーー」

声を再び落とす

「奈美をこのまんまにして戦いに行くわけ?」

布団こそ敷いてあるものの、何もない部屋に奈美を置いて行くのはさすがに良心に咎める

完全に両方とも忘れてたといった表情の零を見てため息をつく

(まったく、男っていう生き物は・・・)

そう内心呟き零を呼んだ













不謹慎は百も承知で奈美の隣で朝食を食べる

死体が隣に(しかも自分の知り合いが)寝ている所で食べるのもぞっとしないがなんとか食べ終わった

ちなみに朝食はパンだった

菖蒲と同じく実家が和食店を営んでいる伊奈は朝食はパン派だが、この際そんな事を言ってられない

しかし身体は正直で空腹の中で食事をすると無性に眠たくなる

「・・・」

何も言わなかったがお互い暗黙のルールとして地面に寝転ぶ

幸い鍵があるので鍵をかける

「お休み」

「お休み・・・」

あっという間に疲れていたのか2人共夢の中へと落ちていった














「ん?」

身体に変な感触を感じて起き上がる

変な方向で寝ていたらしく身体の節々が痛い

「・・・」

何となく顔を向けた方向にはーーー

「うわ!」

びっくりして跳ね起きる

奈美の死体が目の前にあった

もちろん死体など珍しくないが目の前にいきなり出てくると驚く

血は綺麗に拭き取ったものの、独特の死体の匂いは消えない

(痛っ!)

たまたま寝返りをうった時に被弾していた肩が地面に触れる

顔を顰めながら傷口を調べる

(・・・)

白い肌に似合わない痛々しい傷痕

止血剤と正確な治療によって血は止まり壊死も止められているが、傷痕は痛々しい

(一生残るかも・・・)

そんな事を思いつつ包帯を巻き直す

一応傷口は隠れて衛生的になった

稼働域は問題なくちゃんと銃を握れる

そうやって黙々と作業をしていた所ーーー

「伊奈、お前その傷・・・」

零が起きたようだ

「おはよう、何でもないよ」

「何でもないって今さっきの傷痕は」

(あちゃー見られてたか・・・)

のんきにそんな事を思いながらーー

「貫通していたし問題ない、傷痕もすぐ戻るよ」

1つ嘘をついた

あまりにも悲しい嘘をーーー

「何処で?」

「うん?」

「何処で傷ついた?」

(そんな顔しないで・・・)

悲痛な顔を見たくない

今日の(昨日も)零は感情がおかしい

いつもなら気にもしない事を気にしている

奈美の死が相当応えたようだ

「反撃をしていた時にね、ドジって食らっちゃった」

わざと明るく言った

そしてもう一つ嘘をついてしまった

(この嘘は問題ない、零を守るため)

自分に言い聞かせる

これ以上零を傷つけたくなかった

「そうか・・・」

全然納得のいっていない表情でしょうがなくといった風に零が言った

「そうよ、奈美に手を合わせて」

当然2人共お経など読めるわけもなくーーー

手を合わせて毛布をかけてやる事しか出来なかった

(待っててね、いつかきっとそっちに行くから)

笑いながら[じゃあ待ってる]と手を振っている奈美が脳裏に見える

(じゃあね)

[バイバイ]

お別れをして銃を抱える

零も準備が出来たようだ

「いくぞ!」

「うん」

さっきまでの気弱さはなくなった零が声をかける

眼にはいつもの闘志がみなぎって炎も見え出した

(これでいい)

心に小さな棘を残し零の後を追った

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