決裂
上の扉を開ける
初めて地上らしき場所についた
そこは大きな会社にあるような小さな受付の場所に通じていた
普段は上からではわからないような作りになっていて、初めて扉を開けてわかるようになっていた
「普通の会社だな・・・」
猪野の呟きを聞き同意する
完全に地上に出たらしく会社の一階の部分にあたる場所にいる
窓の外には道があり車もある
ただ普段と違うのは、誰もいない事と車が走っていない事だ
人の気配をまったく感じさせないこの土地に改めて戦場にいるんだと実感する
外には誰もいなさそうだがこれからの行動を猪野に問う
「これからどうするの?」
武器工場でも結局戦闘となって何も出来ていない
だいたい地下通路が途中で途切れていた時から予想通りには物事が進んでいないのだ
「特にない、今回の任務はただ潜入してくるようにとの通知だ」
本格的に腹が立ってきた
好々爺ぶっていた緒方の顔が浮かぶ
(あの爺め!)
ここで死んで来いとの任務らしい
生きて帰ってこいとは全く思っていない任務だった
何も任務が無くただ戦場を彷徨いてろとは、死に直結する事間違いない
それをあえてやれと言うのだから・・・
ただ敵を倒していればいいわけではない
何もせずに先の見えない戦いは肉体的よりも精神的に身体を蝕む
先の見えない戦いーーーこれ程残酷な仕打ちはない
いっその事死んでしまいたいーーそう思ってしまう時点で死が決定している
「やってくれるじゃないか」
零が笑いながら話す
顔は笑っているのに、眼が笑っていない
物騒に煌めいてどうしてやろうかと語ってくる
「さっきの通路に戻って武器工場を強襲する?」
それも悪くないと言った伊奈だったがーー
「どうせならもう一働きしないか?」
猪野の言葉に耳を傾ける
「どうせここまで来たんだ、このビルを初め全てを制圧しないか?」
猪野の意見に疑問を覚える
最初から思っていた事だがーーー
口を開こうとすると零に先を言われる
「あんたは俺達の味方か、それとも緒方の味方か?」
そう、気になっていた事だ
今の猪野の発言はとてもじゃないが隊員の命を守ろうとする隊長に必要な意志は感じられない
緒方のために共に散ろうと言っているような物だ
それはお断りだ
死ぬ事については開き直っている、後悔をしないように人生を送ってきたーーそれだけにいつ死んでも後悔はしないが、人の我が儘に付き合って死ぬのはごめんだ
あくまでも自分の意志を貫いた死を望んでいる
だからこそ、こんな意味のわからない命令に首を縦に振るわけにはわかない
これに対する猪野の言葉はーーー
「・・・」
何も答えない
答えられないといったほうが正しいのかもしれないが・・・
「そうかい」
零の諦めたような声で自分の意志を決める
零も同じようだ
「俺達はあなたと共に行動するわけにはいかないーー」
そう言おうと思っていたがーー
「俺は・・・」
「ん?」
猪野が絞り出すように声を出す
「昔絶望の淵で緒方さんに助けてもらった事がある」
「・・・」
今度はこっちが喋れない
「自分の立場が悪くなるのを厭わずに・・・その時から俺は緒方さんのために死ぬと決めた」
「残念だがその話は隊長だけの物だ、俺達には関係ない」
零が冷ややかな声と眼差しで猪野を貫く
「彼は素晴らしい人間だ、私以外にも救われた人間はたくさんいた、それで人望があり各地に力をもっている程だ」
「私には興味ないし、それとそれはあなた自身の事だ、私達には優しくしてもらってない、それに隊長に従う筋合いはない」
冷酷にも突き放す
悪いが付き合いきれないーー
残酷なようにも見えるが自分達の身を守るためだ
自分達を巻き込まないで欲しい
それが本心だった
さりげなく自己擁護してみる
何処にも矛盾は無く、筋が通っている
正論だ
自分が悪くない事を証明して猪野を見る
これから告げられるであろう言葉に気付いているらしく、顔色が真っ青だった
弱っている人間にこんな事を言いたくないが仕方ない
それでもそういう仕事は自分がやると零がーーー
「ここでお別れです、元隊長」
元隊長を意識して放った零の言葉に猪野がうつむく
「さようなら、幸運を」
さりげなく何処かで聞いた事のある言葉を語尾に付けてその場を立ち去った
奈美は仕方なくついて来た