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天使憑き  作者: 夢籐真琴
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好々爺!?

本隊を乗せた船がだんだんと近づいているのがわかる

あと少しだがどんどんと敵味方問わず人が集まってくる

堕天使側も船から全員が降りてしまう前に船を沈めてしまえと一斉攻撃をかけるが上からの攻撃権を守り抜いた零達3人の狙撃と既に上陸していた人間がそれを妨げる

最初の時には考えられないような人数が堕天使側から出てきて、次々とこちら側の人間を殺していく

裸眼でも海が赤く染まり、船着場に大きな塊が積み上げられていくのがわかった

スナイパーライフルの装弾数は10発ーー相手の人数では10発ごとに入れ替えていては追いつかない

こんな時こそ連射速度のあるアサルトライフルの出番だが悲しいかな敵は遠すぎて弾が届かず届いても威力には期待出来ない

「切りがないぞ」

「全く同感」

通信機に怒鳴りながら撃ち続ける

これだけ敵がいると適当に撃っても誰かに当たる

それだけ多くの人数だった

もちろん堕天使側も負けていない

船は3隻あったがそのうちの1隻を沈没させた

「くそっ」

出来るだけ船に近づく人間を撃ち抜いているが3人ではさばききれない

船からの応戦もあるが船からと地上からの攻撃では全くの勝負にならない

「よし」

零が小さく呟いたのでその方向を見ていると一隻が上陸に成功した

歓声を上げて地上に降り立ちもう一隻を沈没させようとしている堕天使側に惜しげもない銃弾の雨を降らせる

(ようやく5分で戦える)

こっちからもライフルで射撃する

側面からの攻撃で崩れそうになった相手にとどめの1発をと次々と殺していく

やがてこの状況に耐えられなくなった1人が逃げ出しそれに続くようにどんどんと逃げていく

そして隊列が崩れ敗走になる

背中を見せて走し去る敵を追う味方

先頭を走って逃げる敵に照準をあわせて射撃する

1人、2人と倒れていく

背中を見せた相手ほど狙いやすい敵はいない

ここぞとばかりに一斉掃射している味方をスコープ越しに見ていてどこか哀れに感じた

そしてライフルを引いて射撃を止めた

何故かもう一度撃とうという気持ちにはならなかった

別に相手に情をかけたのではない

戦場(ここ)では情などかけたら死んでしまう場所だからだ

だがもう自分が撃たなくても追っている部隊がいる

射撃するだけ銃弾の無駄だーーーそう言い訳をして手を引いた

零の忘れられていたがしっかりと狙撃していた奈美も狙撃を止めていた

何時の間にか猪野と秋人も戻ってきていた

「甘いな、お嬢ちゃん」

からかうように猪野が放つ

猪野に言われなくても自分でもわかっている

嫌というほどわかりきっていたが・・・

「私が撃たなくても追っている人間がいる、先頭は崩した、後はあいつらの腕しだいだ」

心の中であらかじめ作っておいた言い訳を口にする

「ふ~ん」

納得は明らかにしていない表情で猪野は逃げて行った方向を見つめて呟いた

「哀れだねぇ・・・」

全くの同感だった










追跡を行った部隊が帰ってきた頃ーーー

伊奈達は埠頭に降り立ち本隊と合流する事になった

警戒する必要がないからか、みんなリラックスした表情をしていたが、伊奈達5人は厳しい表情を崩さなかった

たった1日でも本当の命の危機に晒されると気が抜けなくなる

そして全くの素人である秋人と奈美も今日はおそらく人生で初めて人を殺したのだ

警戒するのは当たり前だった

今は妙な感情の高揚があるだろうがそれが放たれた時ーーー罪悪感が大きく押し寄せるだろう

戦争とはいえ人を殺してしまったーーー今は殺さなければ殺されていたという正当防衛を言い張れるが元に戻ったらーーあれを回避する方法はあったのではないか?あそこで人を殺す必要はあったのか?

そんな気持ちが渦巻いてくるはずだ

そのくらいならーー死んだ方がマシだと思う

私だったら殺してあげるかもしれない

実戦で生きて帰ってきた生還者の中に多いのが罪悪感に押しつぶされて自殺をする人だーーそうなるのなら実戦で殺されてそのまま死ねる方が幸せなのかもしれない・・・と私は考える

だから殺すーーー



本隊の隊長に会うことになっているらしい

猪野に続いて黙々と歩く

船の中らしく次々と乗って行く

船長室とのプレートがある場所に猪野がノックする

「開いているぞ」

重い年期を感じさせる声がした

「失礼します」

いつもでは考えられないような真面目な声を出した猪野の後に零、秋人、奈美と続く

軽く礼をして(会釈程度で)部屋に入っていった










予想を裏切らず中で座っていたのは年輩(60前後に見える)だが身体も精神もとても若そうに見える初老の男だった

高そうな椅子に座って地図を見ていた

「みんなこちらの方は今回の任務を指揮しておられる総司令官の緒方(おがた)さんだ」

「君たちは無事だったか」

人のよい笑顔で迎え入れながらめ眼の厳しさはそのままだった

秋人と奈美は騙されたようだが、私達3人は騙されずにただ黙って立っていた

「なるほど、君たち3人だけか」

意味深な事を言った

だいたい意味はわかるが

「しかしそこのお嬢ちゃんもかね、それほどには見えないが」

私を見ながら軽く笑った

「何の事でしょうか?」

こっちからも仕掛けてやる

女だからといって侮られた事は多数あるが、その度に実力を見せて見返してきた

今回も例にもれず同じ事をさせてもらう

「わしとした事が、見誤ったらしいな」

「総司令官はそんなお年ではありません」

「若いお嬢ちゃんにそう言われると嬉しいよ」

「私はまだ若いだけですから、総司令官のように重みのあるお人には敵いません」

言葉の応酬をする

零は軽く笑って、猪野は

「偉いお方なのに・・・」

と小さく呟いたのが聞こえる

(知り合い・・・?)

一方事情がわかっていない秋人と奈美は目を白黒させて立ったまま何も出来ずにいる

「それで、総司令官。お話とは?」

咳払いをして猪野が聞く

お前はもう黙っていろとの睨みを受けて

肩をすくめて返事とする

「そうだったな、年をとると若い衆との話が楽しくてな、いかんいかん」

いかにも好々爺ぶった芝居に堪えきれず笑いそうになった私の足を猪野が踏みつける

(何時の間にかここに移動したの?)

変な疑問を感じながらもーーー

「先に上陸した部隊のうち生き残ったのは君達だけなのだよ」

「・・・」

本隊上陸の際の激戦の時に多くの犠牲をだした

それでほとんど散ってしまったのだろう

「それでだ、君達にはそのサバイバル能力を認めて本隊の中の潜入部隊に入ってもらいたい」

(やっかいな事を押し付けるな、この親父)

伊奈が内心悪態をついていたのを知らずーーー

「もちろん猪野君、断らないな?」

「は、光栄です」

「よし、それだけだ。帰っていいぞ」

「了解しました」

敬礼をして出て行った猪野を見てつられて下手くその敬礼をしていって出て行った秋人とは対照的に投げやりに礼をして出て行った零と伊奈だった

しかしその彼らにも知らない事があった

緒方が全員出て行って静かになった部屋で1人こう呟いていた事を・・・




「大きくなったな・・ーー」

最後を言おうとした瞬間無線が入る

「総司令官、会議が始まります」

「わかった、先に準備していてくれ」

「了解しました」

無線を切ってまだ元気な足取りで部屋を出て行った




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