上陸作戦決行
ひとまず仮眠を取ることになった
さんざん寝ていたはずだが、不思議な事にさっきまで緊張をしていたせいか、どっと疲れが出た
眠れないと思っていたはずなのに、もううとうとして意識が飛びかけている
船の揺れも気持ちがよく、眠りに誘われる
任務の内容を頭の中で反芻して、再び眠りに落ちた
気持ちのいい世界を排除する音が聞こえる
それでも伊奈はすぐ起きて目覚まし時計を止め、脳を覚醒させた
時間を確認するーーー22時、上陸用の船に乗り移るのが24時だと聞いていたがそれまでに詳しい説明があるという
船橋に集まるようにという事だったので(先程集まった所だ)持ち物一式を装備して向かう
猪野がこの船には5人しかいないと言っていた。しかし実際にはかなりの上陸部隊が乗っているそうだが、各部隊を独立させる目的でそれぞれが会えないように魔法をかけてあるらしい
しかし油断することは論外なので銃を片手に零、奈美と合流して船橋に向かう
コツコツと足音が響く船の中は正直気味が悪かったが黙々と船橋に向かって歩いていった
ドアを開けると既に2人は到着していた
地図を見てなにやら話していたようだ
「よお」
片手をあげて私達にあいさつした猪野だったが、完全に気持ちは地図の方にいっていた
私も気になって覗いて見ると海岸線が書かれていて、そこはおそらく埠頭だった
「おー、ここに上陸するんだが・・・」
赤のボールペンでくるくる囲む
埠頭から離れた森がある場所ーーー一番西の方の箇所を示した
零と秋人も熱心に見つめる
「ある意味安全といえば安全だが正面に森があるだろ」
そう、そこが気になっていた
森の中に潜まれていたら一溜まりもない
「もちろん上陸ポイントは多数あるから、こんな不便な所に人数を割かないとは思うが・・・」
「暗視ゴーグルにも限度があるからな、むしろ月明かりの方がありがたい」
窓を覗いて見る、一面真っ黒で月明かりは出ていないようだ
「ペンライトで行く、暗視ゴーグルは視野が狭くなるし、油断が出来やすい」
「そうだな、それが適当だろう」
零も賛同する
「上陸したあとはどうするの?」
作戦は大まかな事だけしか聞いていないので聞く
「まず埠頭周辺の敵を殲滅、本隊が入っている本船が沈められたら洒落にならないからな、朝までは最小限に攻撃、明朝に本格的に行動開始だ。そして埠頭制圧後は本隊と合流、都市部に向かって進軍する」
ペンの先で行軍の道を示す
この地図では詳しくはわからないが東京並みの都会のようで高層ビルも多数並んでいるようだ
「埠頭はともかく・・・都市部は厳しそうだな」
「ああ、高層ビルが多い分進軍に時間がかかるし狙撃の可能性が高い」
そう話す零と秋人を横目に埠頭の地図を暗記する
まずは埠頭で生き残らなければならない
土地の高低差や住居の確認、隠れられる場所を頭にインプットしていく
「なぁ、ここ扇状地だよな」
それがどうしたと零を見つめる秋人だが伊奈には言っている意味がわかった
「・・・埠頭制圧したあと山越え?」
もちろん平地でつながっている道路はあるようだが、道は細くて長い
こんな所を馬鹿正直に歩いていたら狙撃してくれと言っているようなものだ
山越えにはなるだろう
「奴さんの兵力にもよるが・・・上陸するのは俺達だけじゃないからな、まぁその辺は後で話せばいいだろう」
「了解」
「みんなに1つ言っておきたい事がある」
真面目な顔をするのでみんなが構える
「俺はお前達の隊長である以上、お前達の安全に配慮し、危険から救わなくてはならない
ただし、1人のために全員を殺すわけにはいかない」
つまり誰かが危険な目に遭っていても、全員の身を守るためなら見捨てるぞ、という事だ
指揮官としては正しい態度だろう
毅然としてその通りに行動するべきだが・・・
「俺も言おうと思っていた、俺は逃げるぞ」
堂々と公言すべき事ではないが零が言った
「悪いが俺は人を庇って戦えるほど強くないし、戦場はそんなに優しくない」
伊奈は黙っていたが同意していた
これは奈美に向かって言った事だろう
「悪いが自分の身は自分で守ってくれ、俺には死なれない理由がある」
「正しい態度だぜ、伊奈ちゃんは」
猪野が振ってくるので答える
「右に同じ」
「そうかい」
この5人の中でまともに戦えるのは、猪野と零と伊奈だけだろう
実戦の経験があるかないのでは大きく違う(零は一貫して否定しているが・・・)
「だが俺は隊長の指示に従う、チームだからな」
零の言葉通り、チームで戦うわけだから隊長の指示に従うのは当たり前だ
指示されて動く私達のような存在に本能的に染み付いている習性だ
そしてチームを信じる
それしかない
「私はこのチームを信じて戦う、隊長は全員の命を預かって行動するわけだ、私はその指示に従う」
「プレッシャーかけるね~」
本気でプレッシャーを感じているような表情に零と2人で少し笑う
「わかった協力する」
秋人がそう言い、奈美も
「了解」
硬く小さな声だが意志ははっきりしていた
(これなら大丈夫)
ほっと安心して零を見ると同じように表情が柔らかくなっている
「嘉川ちゃん~もっと楽に行こう」
猪野なりの気遣いか奈美に声をかけておいて、その返事を聞かず時計を見て焦りだした
「やべ、出航だよ」
みんなで荷物を抱えて地下へと走って駆け降りた
伊奈達は海の上にいた
いわゆる海上にだ
それに関しては仕方ない
上陸作戦である以上文句の言いようがない
文句の言いようはないのだがーーー
「何で手漕ぎ?」
何回目であろうかの心の中の疑問をついに口にする
「モーターじゃ音でばれるから」
「何でこんなに遠いの?」
「本船が沈められたり、座礁する可能性が高いからだとさ」
前が見えない
一応方向については自動で舵を取るようにしているそうなので大丈夫だが・・・
「舵が自動で取るなら、何で音がたたないモーターみたいなのを魔法でしないの?」
「魔法は使えないんだと」
これには零が答える
「この舵は?」
「一応機械だろ」
「人間界にあったっけ?」
「魔法で作ったんじゃないか?」
実際には知らないが・・・
「音のたたないモーターも魔法で作らなかったの?」
「時間が無かったとか?」
「舵を作った時間があったのに?」
「う・・・」
零を黙らせる事に成功した
しかし文句をずらずらを並べながらもしっかりと船を漕いでいる
地図でもしっかりと目標地点へと近づいている
「そろそろ、通信機使って話すぞ」
上陸ポイントが近づいて来た
イヤホン型の通信機を使って話す事になるが話す内容は見つからないし、緊張のせいか全員押し黙ってオールを漕ぐ音さえ最小限に抑える
「上陸」
隊長の声が耳から聞こえ船を捨て水の中に飛び込む
もうすぐで座礁してしまうような地点だったので膝くらいまでが水面だった
砂浜に上がり円を組むようにして背中がなくなるよう銃を構える
「上陸成功」
イヤホンから小さく声が聞こえてきた