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天使憑き  作者: 夢籐真琴
72/104

それぞれの夜

明日に備えて解散となった

みんなが自分の部屋に戻る

そのまま寝る気もせず部屋についたのはいいものの特にすることがない

妙に気持ちが昂ぶっているせいか眠れない

外の空気でも吸うかと、外に1人抜け出した






(こっちでも夜は暗いのか)

月明かり以外の光はないーーーしかしそれでも十分な程明るい

(昔もこうだったのか・・・)

現代社会とは違う月明かり以外の光がない世界ーーこれがドロシーの故郷だと思うと不思議な感じがした

零は海の方に歩いていった

独り歩きは危険かもしれないが、その事は気にしなかった

こっちに来てから感覚が研ぎ澄まされるようになった

月明かりしかない世界でも不思議な事に海の色がわかる

透き通っている綺麗な海だった

魚が泳いでいるのがわかる程眼が研ぎ澄まされていた

(これも神様のおかげかね?)

ちっともありがたく思っていない感想を抱き砂浜に座った

砂を一握り掴むとさらさらとした細かい砂だった

後ろから砂を踏みしめて歩いてくる音が聞こえる

(・・・)

そのまま海を見つめながら身動きしない

彼女は隣に座った





2人共何も喋らず何をするでもなくただ黙っていた

陸からの風が彼女の長い髪を乱す

強い風だった

「お別れね」

彼女が言った

「そうだな」

それ以降何も喋らずただ海を見ていた

悪くない沈黙だった

「白銀の眼はね・・・」

「・・・」

「人間界での危険を防ぐために作られたもの、こっちでは使えない」

「ああ」

先を促す

「通信はあなたと私が同調しているから使えた」

「ああ」

「でも明日からは同調が切れる」

「・・・」

「当然通信は使えないし、同調が切れるとあなたの状態がわからなくなる」

「・・・」

「つまりあなたが死んでもわからない」

「俺もお前の状態はわからない」

「同調はあくまで一方通行、あなたは私の状態はわからないわ」

「理論上な」

「!」

「たまたまや偶然と言われたらお終いだが、俺はお前を感じ取る事が出来た。理屈じゃない、この自分の身体がお前と同調しているという感覚があった」

「理屈じゃない・・・ねぇ」

2人で空を見上げる

月しか無いと思っていたが実際には光り輝く無数の星があった

「綺麗ね・・・」

「綺麗だな」

首が痛くなるほど星を見上げていた

何も言わずーーー

ふと暗くなるーー

海を見ていたが上を見ると厚い雲が月を隠す

(!?)

顔を手で抑えられ唇が合わさる

いきなりの事でとっさに反応出来なかったが彼女の頬から伝ってくる涙を感じ、黙ったまま眼を閉じた

光の感覚ーーー雲が月から離れた瞬間に自分の身体から彼女が離れる

そして横に座り

「お護りよ」

「ありがたい」

「死なないで」

「お護りがあるから大丈夫だろ」

「そうね」

微かに震えて聞こえるのを気付かない振りをして、前を見つめる

そして今度は逆に隣にいる彼女をこちらに向かせて軽く唇を重ねる

「お護りだよーーーお前こそ死ぬなよ・・・俺が帰るまで」

そして立ち上がってそのまま自分の部屋に向かって歩いていく

後ろは振り返らずにーーー

波の音でかき消されそうな小さな嗚咽とーー自分の頬に流れる涙は誰が流した涙かと考えながら、唇を噛みしめ自分の部屋へとーーー









伊奈は解散宣言を聞いても寝る気にはなれなかった

廊下に出て夜の散歩をしているとドアから出て行く零を見つけた

零が外へ出て行くのを感じ自分も続こうかとすると、さっきまで集まっていた部屋から出て行く麗人を見つけ咄嗟に柱のそばに隠れた

彼女は零の後を追って外へ出かけた

(邪魔するのは無粋か・・・)

諦めて自室へと戻ろうとすると、向こうから歩いてくる菖蒲を発見する

片手をあげて合図を送るとそれを見つけ返してくる

「お前も眠れなかったのか」

「こんな時に眠れる程神経は図太くないよ」

菖蒲の顔が複雑になっているのを見て不満に思った

「そうだ、外を歩かないか?零も行ったぞ」

菖蒲の提案に速攻で反対する

とてもじゃないがこの空気の読めないお嬢様を外へ連れ出すわけにはいかない

「駄目、絶対に駄目ー」

「どうしてだ?別にいいじゃないか」

「菖蒲、私の今まで言っていた事に間違いがあった?」

「・・・無いな」

「外へ出たら駄目、OK?」

「わかった」

しぶしぶながらも諦めてくれた

取り敢えず一安心だ

「屋上にでも出る?」

代わりといっては何だが、寝る気分じゃなかったので誘う

「もちろんだ、行こう!」

案の定乗ってきた

階段を目指して雑談をしながら歩いて行った








「伊奈は後悔していないのか?」

屋上について冷たい風に当たりながら感慨にふけっていたところ、菖蒲に問われる

「何が?」

「この道を選んだ事」

「・・・」

自分の過去は菖蒲しか知らない

それの事を言っているなら

「してるわけないでしょ?」

「・・・」

「私にはそれしか道が無かった」

「・・・」

「あなたもそうじゃない?」

「そう・・・だな」

静かな夜風に当たりながら月を見る

この世界でも綺麗に輝いていた

「零を頼むぞ」

「頼まれてもね~」

いくら自分が気をつけても所詮人の身体だ、どうにかできるものではない

「実力を見て来い」

「生きて帰れたらね」

飄々と返す

これが私だーーー

「菖蒲に限ってないと思うけど死ぬなよ」

「私が勝つか負けるかは天の運次第だな」

「山蕗家の次期当主がこんなところで犬死してるんじゃないよ」

「それもそうだ、お父様を悲しませてしまう」

「あの人か~めんどくさそうね」

「まあどちらにせよ全力を尽くすさ」

「当たり前~」

沈黙で場が包まれる

「生きて帰ろう・・・」

「うん・・・」

「寝るか」

「うん」

風が優しくなった気がした











私達が休んでいた場所はホテルのようになっていた

そこのホテルの一角の自販機が置いてある場所で大和さんと珠さんと一緒に座っていた

キャップを開けて中身を飲む

特に味が感じられなかった

とにかく口が乾く

そのくせ味があまり感じられない

(緊張してるの?)

剣道の大会でもこれほど緊張した事は無いのに・・・

何もすることが出来ず、眠れないのでここの自販機が無料だと聞いていたので(ここは人間用に作られたホテルらしい)お茶を飲みにやってきたのだ

そこで会った自分の両親も同じように喉が乾いていたらしくここで話すことになった

幸いこの階に人の気配は無く自分達の貸切状態だったので、ここで時間を潰す事にした

「大和さんも昔天使さんと組んでいたの」


大和と珠は自分の事をさん付けで呼ぶようにーーお父さん、お母さんと呼ばせないように教育してきた、そのせいで零も渚も両親をさん付けで呼ぶようになった


この質問には大和は答えず珠が答えた

「ええ、お綺麗な方でしたよ」

「珠さん知ってたの?」

母が知っていたのは驚いた

「ええ、私達結構長い付き合いなのよ、家も近かったしね、よく上がり込んだの。その時ドロシーさんみたいな天使さんがいらっしゃってね」

「・・・」

では母は大和が天使と組んでいるのを承知した上で結婚した事になる

「それで・・・いきなり居なくなった」

「大和さん」

今まで口をつぐんできた大和が喋りだした

「私はこの世界に来ることが許されなかった、何故だかわからないがね」

「それで天使さんは亡くなった?」

「ああ、イムといったが・・・それから1回戦争が起こったようだが、その時も私は招集されなかった・・・今回は呼ばれたがね、とうとう天使サイドも人数が不足したかな?」

笑いながら言っているが明らかに自分を責めている

何も言えず黙っていると

「零は良かったのかもな・・・一緒に戦う事が出来て」

兄貴と組んでいるドロシーさんの顔を思い出す

素敵な笑顔だった

疲れた時もあったけどあの笑顔に癒された

だから、剣道の練習で疲れた時も彼女のゲームに付き合った

あの笑顔が見たかったから

(何考えてるの、私は?)

苦笑しながら自分に問う

しかしあの笑顔が好きだったのは否定しない

むしろ肯定するーー

(がんばろ!)

自分の心の中から不安が消えて行くのを、不思議に感じながらもドロシーへの感謝をしていた渚だった












そして最後の彼女はーーー

(何も考えたくない)

その一心で外へ出ていた

そうすれば美夏なり良太がきてくれるような気がしたのだ

外の風は気持ちがよく、ここが天界だとは思えない程人間界と似ている

(だれか嘘と言ってよ)

そう思っていたが誰も自分には近づいてくれないーーーむしろ自分を追い詰めて来る

攻撃班か防衛班かと聞かれた時わかったーー自分は死ぬ場所を選ばされているんだと、全員の眼が自分は役にたたないと語っていた

それならばーーとわざと攻撃班に回った

自分でもやれば出来るという事を証明してやるーーそんな気持ちだったがあとになって考えてみると、みんなはそんな事どうでもいいのかもしれないーーと思うようになっていた

みんなが実戦の準備に追われているのに自分はどこか遠くから眺めているようでーーそう夢のように考えていた。しかしみんなが話しているのを聞いているとやっと実感が湧いた

それと同時にこんな疑問が湧いてきた


私は人を殺せるのか?


みんながあっさりと攻撃班は危険、防衛班の方がいいーーと言っていたが誰も殺す話をしていなかった

だからなのか実感が湧かなかったが、彼を見たときに一気に眼が覚めた


彼は泣いていた

彼の眼から光の滴が落ちていた

盗み聞きする気は無かったがたまたま通りかかった海で2人がいた

私をここの連れてきた人達がーーー

木に隠れて遠目に見ていると

(!?)

声にならない悲鳴が漏れた

2人の影が繋がった

それは自分が彼と少しの時間一緒になった時とは明らかに違う2人の姿だった

(・・・)

どうにもならない感情が溢れ出しているのを自覚していてもどうすることも出来ない

ただ息を殺して影を見ていた


しょっぱいーーー

なんで?

雨が降っているの?

頬が濡れている

なんで?

目の前が見にくい

あ、泣いているのか

そうか私は泣いているんだ


そう思った

何も出来なかった

そこで足音が近づく

息をひそめ動かない

彼は気付かなかったようだがーーー彼は泣いていた

自分と同じように・・・

砂浜に1人残された天使さんを見る

彼女も泣いている?

肩が震えているようだ


(なんで?)

何故自分がここも連れてこられたのか?

何故天使さんが泣くのか?

天使さんと私は何が違うの?

なんで天使さんなの?

何故みんな泣くの?

言葉にならない多くのなんで?ーーーが溢れてくる


ああ、わかった。私は死ぬんだ


ようやく一つの結論にたどり着いた

ようやく死の実感が湧いてきて涙がまた溢れてきた

ホテルに向かって足音を殺して歩き出す

「なんで?」

彼女の小さな呟きに答えてくれる人は誰もいなかった







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