決戦前夜
「よう!」
片手をあげて返事をする
零は身体が消えたと思っていたが実際は窓から入ってくるような形で部屋に飛び込んだようだ
全員が絶句しているなか菖蒲が呆れたように言った
「お前なぁ・・・どうせなら窓から入って来い、なんで額縁から出てくるんだ」
そう、零が出てきたのは立派な絵が書いてある額縁から這い出してきたのだ
数少ない常識人である奈美と渚もこのくらいでは驚かないようになっていた
渚は若干耐性が出来ているのか、諦めた表情で奈美に関してはこれくらいではもう驚かないという風に見つめている
「天使さんは?」
非常識人の1人である伊奈が聞いてきて始めてドロシーがいないことに気が付いた
(まだやってるのか?)
先程の集団を考えるとぐったりとする
気力がなくなるような光景だった
「零危ない!」
「ん?ぐあ・・・」
上から重たい物が落ちてきた
「どっから帰って来てるんだ」
零だけには言われたくない一言を言われたドロシーだった
「いや~疲れた・・・あそこから抜け出すの大変だったわ」
「おまえどけよ、重・・・」
「何か言ったかな~?零君~」
笑顔が怖い
手には例の武器が握られている
「いや~ドロシーさん、軽いですね~このままでもいいんですけど話しにくいのでどいてもらえますか?」
「仕方ないわね~」
身体が窮屈な格好から解放される
(自由っていいなぁ~)
どこかのCMよろしくそんな感想を抱く
そして立ったドロシーが手を前に出すとそこには机と椅子が現れていた
「・・・」
みんなが沈黙を守る
「適当に座って」
またも無言で近くの椅子をひき、腰掛ける
全員が座ると電気が自動で消えて中央に立体映像が現れる
一見すると城のように見える
ドロシーの説明が始まる
「これが私達の防衛する神殿」
さらに映像が変わる
「そしてこっちが私達が落とす神殿」
「・・・」
全員が沈黙を守る
「攻撃班はーー銃器専用の人間はここを攻める
防衛班はーー昔の戦のように銃器を使わずに戦うならばーー」
さっきの映像に戻る
「ここを守り抜くのよ」
電気が自動でついて部屋が明るくなる
ここに来てからほとんど全員真剣な顔をしているがさらに強張ったように見えた
「それで、作戦会議とは?」
誰も喋らないので自分が聞く
「ええ、今日は防衛班と攻撃班を決めるわ」
「わけるのかね?」
大和が手を挙げて発言する
「そうね、みんなが攻撃班、もしくは防衛班というのでもいいけど」
再び沈黙に包まれる
重苦しい空気が漂う
「俺攻撃班」
ドロシーを見て発言する
ドロシー以外の全員がこちらを向いて目を見開く
菖蒲が焦るように言った
「零!お前は防衛だろ、銃器よりこっちの方が上手いだろ」
「それは俺の自由だ」
「じゃあ私も攻撃にまわる」
伊奈も挙手してドロシーを見る
これには菖蒲は反対しない
どうしてかを尋ねてみようとすると
「私は訓練を積んでいるから、こっちのほうがいいわ」
先に言われたーーー
経歴がわからなかったがやはり菖蒲と同じように訓練を積んでいたらしい
伊奈がにこっと笑ってこっちを見る
「零だけを危険な目に合わせる必要はないよ」
いつものテンションで、いつもの声なのが不思議と安心感があった
「他の人はーー防衛でいい?」
ドロシーが他の全員に聞く
菖蒲も渚も防衛で問題ないだろう
大和と珠もそれなりの実力はある
問題は奈美だーーー
同じ事を思ったドロシーが奈美に聞く
「奈美ちゃん?どうする」
これは結構な酷な質問だった
間違いで連れて来られたとはいえ、菖蒲を始め全員がそれなりの実力を持っている
それなのに奈美だけは普通の女の子だ
武道の経験もないのにこんな所に放り込まれて、死に場所を選ばされるようなものだ
答えられない奈美の代わりに答える
「防衛のほうがいいだろ、危険が少ない」
その言葉を聞いた奈美は違うところに食いついてきた
「攻撃のほうが危ないの?」
戸惑いながらも
「そうだな、銃器だと狙ってなくて殺される可能性があるし、遠距離からの攻撃が可能だからな、そういう意味では危険だろ」
「じゃあ何で宮西君も伊奈ちゃんも危険な所に行くの?2人共防衛になればいいじゃない!」
すぐに答えられなかった零とは対象的に伊奈が優しく答える
「私は訓練を積んでいる、銃器が専門なの」
「宮西君は訓練を積んでいないよね!」
「ああ」
この期に及んでまだ嘘をつくかといった表情の菖蒲と伊奈を無視してこう言った
「早く戦争を終わらせるのはこの方法しかないんだ」
「・・・」
「俺が相手の頭を殺せばいい」
「他の人だって・・・」
「人には戦う場所があるんだ」
「始まってしまった以上早く終わらして被害を最小限に抑える
それをやらなくてはいけない」
重い沈黙が流れる
「奈美ちゃん、どうする?」
ドロシーの優しい問い掛けに奈美は・・・
「私は攻撃班に行きます」
ドロシーと零以外全員が驚いた表情をするが奈美の眼はもう決まり切っている眼をしていた
珠が奈美に問いただす
「奈美ちゃん、私と一緒に戦わない?こっちのほうが危険は少ないわ」
正論ではあるが奈美は頷かない
「私は剣など使えません、でも銃器なら何とか使えると思います」
これまた正論だった
剣などの武道は鍛錬しないと実力はつかないが、銃器はたまたまでも殺せるし、剣などより扱いやすいといえば扱いやすいだろう
「そう、では全員決まったわね」
ドロシーがそんな発言をしたが、1人聞いてない人がいる
「お前はどうするんだ?」
相棒として今まで組んできた
その相棒が何処に行くのかを知る必要があった
一方ドロシーはこちらを向いて少し微笑んだ
女神の微笑みだった
「私は神を護衛する任務があるわ」
つまり別れて戦うという事だ
「そうか」
何やら不思議な感情があったがそのまま黙る
最後の締めにドロシーが宣言する
「明日が開戦よ」
一瞬ざわめいたが予想はしていた事だ
「みんな、死なないでね」
死なないーーー
これ以上難しい事はない
「みんな、生きて会おうね」
これまた難しい事を言う
だが、それも悪くないと思った零だった