諸悪の元凶
「お前はドロシーとどういう関係だ?」
「人間ごときに答える・・わかった、刃を引け」
顔を少し刃の先でなぞる
血が少し滲み出していた
色は意外にも人間と同じ赤色だった
「私の師匠がドロシアさんだった」
「あいつが師匠!?」
間抜けな声をあげる
どんなに贔屓目に見てもドロシーが師匠には・・・悪いが見えない
「ちなみに・・・何を教えてもらっていたのですか?」
丁寧にーー慎重に聞く
「ドロシアさんは魔法を使う天使が多い中で剣の腕を磨いていたーー今の様な状況になるとドロシアさんが正しかったとみんないうけど・・・前はみんな馬鹿にしてたのにいい気なもんだぜ」
吐き捨てるように言った
人間と同じような考えと言ったら失礼かもしれないが、ドロシーも人間側に属しているから何とも言えないが・・・
「・・・」
「わかったらどけよ!」
気づいたら馬乗りの態勢で短刀を突きつけていた
相手に敵意がない以上この態勢での話は失礼だが・・・
(危険性が消えてないしなぁ)
とか思いつつもあっさりどいてやる零もお人好しだが・・・
「もう一つ、何でお前ら俺を敵視してるんだ?」
「・・・」
答えづらそうに黙り込んだ
特に急ぐ用もないので相手が話したくなるのを待つ
「ドロシアさんは・・・」
「ん?」
ぼそぼそと呟くように言う
「私達に剣を教えてくださっていたのに、人間と組むと言って何処かに行ってしまった・・・」
「・・・」
「人間などと組むなんて・・・たった100年しか生きる事の出来ない動物に肩入れして、そしていなくなって苦しんで落ち込んで・・・そんな事をドロシアさんがする必要なんて無いのに・・・」
悔しそうに言っている。心底ドロシーの事を思って言っているのがわかるので何も言えないーー自分でも相手の言っている事に同意しているだけにーーー
しかしこの空気を払拭するために軽口を叩く
「お前ドロシーの事好きだろ」
「な!?」
わかりやすい反応をする
さっきから怒って顔が真っ赤だったが、更に真っ赤になって耳もかすかに色づいている
「わかりやすい反応だねぇ・・・」
零が笑って付け足す
「お前何歳?」
「生まれてからという意味なら15年経っている」
「なんだ俺より年下かよ」
道理で言動がサミなどに比べて幼いように見えたわけだ
「人間とは濃度が違う、生まれてすぐに学ぶようになる天使と人間を一緒にするな!」
やはり幼いーーー
相手の事を知らずに攻撃的だったのも頷ける
「それで?ドロシーの事好きなんだろ?」
「ドロシアさんには・・・憧れているだけだ!剣の腕を始め魔法の威力も凄いし!」
「そういうのを好きだって言うんだよ」
「違う!そうではない、人間風情に何がわかる!」
「ははは、可愛いねぇ表情に出てるぜ」
「く・・・」
顔を更に真っ赤にして(これは怒りか恥かわからないが)悔しがっていた
ただこれ以上からかうのも可哀想なので質問を変えてやる
「ドロシーは何歳なんだ?お前が憧れくらいだからそんなに年離れてないだろ?」
「ああ、ドロシアさんはーー」
「乙女のプライバシーを聞くのはあまり感心しないわね」
いきなり隣に出てきたかと思うと強烈なパンチを繰り出してきた
「危ねぇなぁ」
溜息をつきながらもしっかりと躱している
それ以上攻撃する意思はないようなので定位置に戻る
「マキ!乙女のプライバシーを喋るのは感心しないわよ」
「ごめんなさい、お姉様」
「お姉様!?」
これには反応した零にドロシーは呆れた風に
「この子私の事お姉様って呼ぶのよ、注意しても結局聞かないからそのままにしてるけど」
「似合わないな」
「失礼ね、それに乙女のプライバシーは聞く物じゃないわよ!」
「だから本人に聞いていないだろ?」
「そういう問題じゃない!」
「だいたいお前女だったか?」
「女よ!」
「しょっちゅう変わってるじゃないか」
このやり取りにマキはぽかんと口を開けて聞いていた
さらにいつの間にか周りに潜んでいた者達の姿も現れだした
「みんな、久しぶりね」
「お久しぶりです、お姉様」
「お姉様~」
甲高い女の子の声と思われる声を初めとして次々とドロシーに向かって小さな子が走って行って飛びついた
「・・・」
呆然としているように見せて実は現実を処理していた時間およそ3秒
(ここにいては危険だ)
こう判断すると周りから次々と小さな女の子が飛びついている、子どもホイホイ(ドロシー)から離れて器用に走ってくる小さな子たちをよけて輪の中から抜け出した
すると隣に呆然としているマキがいた
「壮観だねぇ」
零が声をかけるとそれには直接答えず
「この人数どう裁くんだろ?」
「歩く人間ホイホイだな」
これにはマキを始め全員が同意した
数10分後ーーー
「何で助けてくれなかったの?」
広い部屋の隅っこで零とドロシーが喧嘩を繰り広げていた
「あそこに助けにいける男がいたら尊敬するぜ」
「あなたがその男になりなさいよ」
「やだね、俺はこんなところで死にたくない」
「どうせこんなことぐらいで死ぬような身体してないでしょ!」
「精神的に無理だ」
「よく言うわね、殺しても死なないような身体なのに」
「俺も撃たれたら死ぬ」
「撃たせないけどね」
一時的に休憩になったこの場にさっきまでドロシーに殺到いていたうちの1人が叫んだ
「男だったら根性見せなさいよ!」
そうだそうだ、と賛同の声が挙がるが・・・
「お前らが諸悪の元凶だろうが!」
声に出して叫ぶ
しかしそれとが裏腹に脳では冴え渡っていた
「ドロシー、あいつらは?」
「迎えにきたのよ、みんな無事」
「そうか、帰るか」
「そうね」
脳内で通信をして身体の感覚が消えて意識が何処かに行く
変な感覚だった