使者召喚
それから10日程がたった平日、零はいつも通りに登校して授業を受けていた。大和、珠も当分は自宅で待機するとの事だ。最初に印象から大和とドロシーは仲が良くなさそうに見えたが、ドロシーが大和がゲームが相当強く、しかも大好きだという情報を聞き寄せ(ドロシーの相手に疲れていた渚情報)、大和を誘ってみたところ、それに乗ってきた大和がドロシー実力を認め仲が良くなったらしい。そしていつのまにかゲーム仲間となって結局零や渚も巻き込まれるという最悪な状況に変わりはなく、むしろ大和の参戦によってますますゲームから逃げられなくなって追い詰められていた
そんな平和な日は長くは続かず・・・
「零、人がいないところまで逃げて!」
いつになく緊迫したドロシーの声が授業中に聞こえた
(せめて休み時間とかあるだろ・・・)
ため息混じりの愚痴を叩いたが顔は真剣だ。とうとう来るべき時は来たという事だ
立ち上がってこう言った
「先生、諸々の事情で抜けます」
(こんな事前にも無かったか?)
非常に適確な感想を抱いていつかと同じくみんなの頭がついてきていないうちに教室を抜け出す
覚悟は出来ていた
荷物もまとめてある
二度と帰れない前提で物事を判断する
そのためにいつでも帰ることが出来るよう最低限の持ち物だけを机においてあとはめんどくさいが一々用意をしていた。そのために今のようにすぐ逃げることが出来る(正確には逃げるわけではないが)
「バイバイ」
教室を出たときに小さく呟いた零の一言は誰にも聞かれる事はなく風に流されていった
零はその時知らなかったが零が出て行ったあとすぐに反応した人間がいる
菖蒲だーーー
彼女ほどの人間が今の零の不自然さや、日頃の零の異常な行動を見ていて不審に思うのは当たり前だ
日頃使う事のない通信機を制服に目立たないように呟いた
「いくぞ」
そして彼女も行動を起こす
「私も用事を思い出した」
唐突でおかしい発言だが山蕗家の人間に逆らえるはずがない
小さく首を振って退室を許可した
その菖蒲にすら知らない事があった
菖蒲が退室したあと1人の生徒が立ち上がった事をーーー
「先生、私も抜けます」
ここまでくればあとは勝手にしろという気分に陥っていた教師はあっさりと首を振って椅子に座り込んだ
それをみた生徒は荷物をまとめて教室を出ようとしたところ2人の生徒があとに続こうとするのを見て首を振った
「ありがとう、でも私の問題だから」
同伴を拒否して菖蒲が向かったであろう場所をめがけて歩いた
少し歩いてどこに行こうか迷う
(人がいないところねぇ?)
この真昼間に人がいないところを探すのは厳しい
しかしここは天下の山蕗高校、広さには絶対的な自信をもっているーーーが面倒な事に監視カメラが設置されている
(どうするよ?)
少し考えていつもの場所を思い出す
そして強張っていた顔を少し緩ませ小さく笑う
(俺はあの場所しか行ってないな)
そして例の場所に向かってゆっくりと歩いていった
その場所とは屋上しかなくーーー
重い扉をゆっくりと開ける
風の威力で押し戻されそうな扉を開け、中央に歩いて行く
自分が流した血は既に消えており、いつもどおりの状態に戻っている
(やっぱ落ち着く)
何故か屋上は落ち着く場所で何かに困っていた時はたいてい屋上に来ていた
(随分世話になったな)
おそらく最後になるであろうこの場所に別れを告げる
戦争に出て行くのに帰ってこれるなど考えていない
ましてや自分だけが生き残れるなど考えていない
しかし全力を尽くす
それだけは決定事項だった
もう二度と会うことはないであろう人達の顔を思い浮かべる
菖蒲、伊奈、煌、良太、美夏・・・奈美、そして二度と会うことが許されない美奈ーーーあのあと美奈は救急車によって病院に運ばれたが既に遅く・・・頚動脈を始め首をすべて切られていたのだから当然といえば当然だった
しかし何故か自分は彼を恨まなかった。殺し損なって何処かで生きているはずだが、その彼には意外な事に何も思わなかった
その感情には自分でも驚いたーー動揺したが何故だろうか心の何処かで何かを割り切った感情があった
そして今ここに自分がいるーーー
それだけでいい
そう思えるようになった
「行くわよ、零」
自分しか聞こえない声が聞こえる
「ああ」
「ごめんね。巻き込んじゃって」
「覚悟は出来てるさ」
いつかと同じ言葉を呟く
「そう」
相棒にしては珍しく落ち込んだ声だった
自分の身体が足から順に消えて行くのが見えた
そしてキラキラと天昇していく
よくテレビやアニメなどであるが自分の身体がそうなっているのをみると決して気持ちがいいものではない
(よくあいつら耐えれたな)
アニメの主人公に同情の意を向け流れに身をまかせた