蒼白い月の空を(14)
零は広い座敷の真ん中に座らされた
眼の前には雅
年齢不詳だが姿勢がいいのがあるせいかとても若く見える
雅は正座
零も正座
零は正座が好きではないが、この状況で胡座をかくのは流石に礼儀に反している
だから正座を礼儀正しくしていたのだが、優に30分が経ってた
既に足はしびれて感覚がない
本来正座などしないのだから仕方がない
何も考えずにただ座っていたのだが、雑念が入ったのがわかったのか雅が
「足をほどいていいですよ」
「今頃ですか」
「もう少しです」
「?」
疑問に思いつつも足を崩す
じわじわと足の感覚が戻ってくる
(なんで最初に言っとかないんだ)
30分以上経ったあとに始めての言葉がそれでは、なんだか拍子抜けする
零が正座が嫌いなのは直ぐに動き出す事が出来ないからだ
もちろん毎日のようにやっていれば問題は無いのだろうが、流石にそれ程暇ではない(あまり暇は関係ないが)
そうした理由で、山蕗高校には珍しい(武道推薦かお嬢様達が集まってくる山蕗高校には正座は普通にやっている)部類に入ることになる。まぁ零も出来ないわけではないし、単純にめんどくさいからだが・・・
足の感覚が戻ってきた時に雅が立つ
やはり女性としてはかなり大きい
見上げていると
「宮西零来なさい」
「ほいよ」
もう逆らうのを諦めて立って歩き出す
道場に着いた
雅のあとを歩いてきたわけだが
着いた場所が道場だ
流石に訝しげな顔をしていると
「宮西君 今から菖蒲と戦いなさい」
「はぁ?」
言っている意味がわからなかった
いや、確かに道場に連れてきた意味ならわかったが何故自分が菖蒲と戦わなければいけないのか
「おや、来ましたね」
零も気付いていた
菖蒲が後ろで肩で息をして立っている
おそらく走ってきたらしい
「ほいよ」
タオルを投げてやる
冬だというのに汗をかいている
ちょうどその場に駆けつけた4人がいた
「零ーー」
良太が叫ぶ
そちらを見ていると
タオルを受け取れず顔にかかったままの姿で菖蒲が怖い声をだす
「お前何してるんだ」
「いや、お前汗かきすぎだろ 風邪ひくぞ」
微妙に外れた返答に菖蒲以下全員呆然となる
まぁ1人だけ例外はいたが
「菖蒲速いね~私達車で来たのに」
その事実を思い出した奈美以下2人はまたも意識を失いかけるが
「お前は何故ここにいるんだ」
「それはお前のお母様に拉致されまして」
「お前が拉致?ふざけるな どうやってお前を拉致できるんだ」
「脅されたからな」
「何て?」
「ついてこないと妹さんにいらない傷を負われてしまうと言われたからな」
雅以外の顔色が変わる
「・・・」
「そんな脅しをされたら来るしかない
なぁ雅さん」
「そうでもしないとあなたはついて来なかったでしょう」
「確かに目的を達成するための手段としては間違ってはいないが俺相手にそんな脅しをしてはいけなかったなぁ 雅さんよ」
零が一般人(奈美、美夏、良太)がいるにもかかわらず戦闘態勢をとっている(本気で怒ってはいないが)。零が珍しく怒っている(学校では怒ることがない)のを見て一般人一同は察しよくそこから退く
「私と戦ってもいいけどラスボスは最後ね まずは菖蒲に勝たないと私には勝てないわよ」
「俺は女相手に本気はださん」
「あら私は女だけど」
「人を脅すようなやつを放っておく道理はないからな」
「お母様、零」
みかねたように菖蒲が入ってくる
「私も同じです 零と戦う理由がありません」
「あなたは興味があるのでしょう」
「!」
「この宮西零に興味がある どれ程の実力を持っているのか試したくないのかしら?」
「今戦う必要はありません」
「私もこの子を見ていて思いました あなたは堅気ではありませんね」
自分に向けられた質問に苦笑して答える
「よく言われるが正真正銘の堅気だぜ」
「嘘を言うな」
菖蒲親娘の声が重なる
「わかった。俺が菖蒲に勝てばあんたとやれるんだな」
「それであなたは戦う理由ができましたね」
「私は戦いません」
「それならあなたは二度と宮西零君と会えなくなりますよ」
「う」
「先入ってるぜ」
零は道場の中に入って中を見渡す
「おもしろい」
武器となるものは端の壁にある
しばらく物色する事にした
菖蒲は戦うつもりなどなかった
理由が無いから戦う必要が無い
単純な理由だがそれが菖蒲には大切だった
戦う事を身につけたのはこんな事をするためではない
しかし零がやる気でお母様が脅して来るならば仕方ない
「わかりました」
零と同じように歩いていった