蒼白い月の空を(13)
入る時には気づかなかったがこの車には特殊な細工がされているようで外が見ることが出来ないようになっている
何気なく外の景色を眺めようとした時に気づいたのだが、その時に表情を少し変えたのがわかったのか
「あら、外が見たいの?」
「悪趣味だねぇ」
「車は人を運べたらいいのよ」
「運転手さんも可哀想に」
かみ合っているのかいないのかよくわからない会話だったが、一応2人とも相手の言っている事は理解できたので問題はなかった
(それにしても)
菖蒲は気付いていたのか気になった
もし、この事を雅の独断で、菖蒲に知らせずにやったというならばわざと5時間目をサボったという事になる
しかしもしそうならば、自分は菖蒲の事を嫌いになる自信がある
もともと好きではないが、菖蒲のまとう雰囲気には少し惹かれていたのは確かだ
そして彼女の事を知りたいと少しでも思わされてしまった
奈美にはあんな事を言ったが、奈美に糾弾されても仕方ない事をしてしまった自覚はある
しかし、それはあくまでも菖蒲を信頼・信用したからだ。短期間だが、菖蒲は礼儀正しい事はわかった
そして零も信頼できる人間と本能で感じた者にはあっさりと背中(弱点)をみせる
あの天使もそうだ
その代わり裏切りは許さない
もちろん、現在の高校生がいうような嘘や裏切りレベルでは怒らない
笑って受け流せる
しかし零が望む絆は一般にいう絆ではない
絶望の淵で命懸けで守る価値のあるもの
自分が死んだとしても、相手を守れればいい
相手に何と思われようと平気だ
邪魔だと思われてもいい
無駄死にだと言われてもいい
ただ自分が好きなもの
それを守れればいい
そう思っている
その対象を探していた
今年の夏に出会った天使は信じてもいい
そう感じるようになっていった
そして菖蒲も少し信用していたのだが・・・
これをやられるといくら零でも手加減をしない
また菖蒲が気付いていなかったのなら気づき次第こっちに向かっていると思った
それくらいは自分の事を好きだと思った
車が静かに停車する
動き出してから30分程たっただろうか?
時計をつけていなかったのでよくはわからない
ドアが開き、壮大な景色が眼の前に現れる
「これまた、大変なお金が・・・」
眼の前に広がっているのは、雪景色の中に絶妙に調和している大豪邸だった
美夏の家が比べ物にならないくらいの大きな建物だった
まず敷地面積は予想出来ないが相当なもんで軽く庭だけで山蕗高校を超えている
「もったいないねぇ」
「そうかしら?そんなにお金はかかってないのよ」
雅が隣に立っていう
零は標準身長よりは高い
185cm程度はある
菖蒲が180cm前後なので立っていて大体釣り合うのだが雅も負けていない
180cmは届いていなくてもそれなりの身長をしている
おもわず見とれていると
「行くわよ」
歩き出したが、また驚く事が起きた
雪の上という事をぬいても全く足音が鳴らない
零も足音は鳴らさないがそれは訓練を積んだからだ
おそらく目の前の女性もそれなりに武道をしているらしい
少し笑って
「いざ 奈落の底へ」
「おいおいあと何kmだよ」
「そうね~100kmぐらい?」
「嘘ー!」
「マラソンかよ」
「そろそろ家の車来るから今のうちに距離かせいどかないと」
「美夏ちゃん~あと何時間で車来るの~」
「あと30分ほどよ」
「山蕗さんは?」
「菖蒲は山越えしたわね」
「山越え!?」
「近いことは近いけど結構しんどいのよ」
「結構ですむ問題か?」
「ナイスツッコミ」
「そりゃどうも」
雪の上を足を止めずに走って行く
美夏と奈美は長距離をやっていたので問題なく良太は部活で鍛えた足腰(何故?)があり、1番足手纏いになりそう伊奈が先頭きって走っている。しかも顔は涼しげで無駄口を叩けるだけの余裕を残して しかもかなり速いスピードで走っている
「陸上いけるだろ」
良太の呟きは風に乗って飛んでいった