蒼白い月の空を(12)
奈美らが惚けていたところに、急いで戻ってきた者がいた
菖蒲だった
「おい、どうした」
誰もが起こったことに対して行動出来ないのを見て
「何をしているんだ」
独り言のようにいい舌打ちをしようとすると何やら見慣れない物がある
今度こそ痛烈な舌打ちをした
倒れている男2人ーーーそれも自分が見知っている顔だ 零が座っているはずの椅子が空
ついでに生徒達の惚けた顔をみれば、何が起こったかがすぐにわかる
手当たり次第カバンに教科書類を詰め込みそれを片手に教室から颯爽と去っていった菖蒲を見てこれまた、惚けてしまった奈美達であった
その数分後に教室に飛び込んで来たのが伊奈だった
「あらら、帰っちゃったか」
対して心配そうでもない口調で呟いて自分の教室に向かっていった
零が去ってから少し時間を置いて山蕗さんが帰ってきた
なにやら独り言を言ってから舌打ちをして教室から出て行った
ぼんやりとその行動を見ていると、次に山蕗さんと仲のいい女の子と言われる伊奈がやって来た と思ったらすぐに帰っていった
(なにしてるの?)
ふと前を見ると良太君と美夏ちゃんが眼を合わせてなにやら頷いている
(?)
「先生腹痛いんで帰ります」(良太)
「先生熱あるみたいなんで帰ります」(美夏)
同時に宣言して一瞬で荷物を片付けてしまう
そして私の所に来て
「ほら、奈美も!」
「美夏ちゃん?」
小声で誘われた
なにがなんだかわからない
「先生~嘉川が原因不明の高熱です ので帰るそうです」
「良太君!?」
悲鳴を叫びそうになった口を抑えられて荷物をカバンに押しこまされて教室を退室した
「ねぇ?何で帰るの?」
羽交い締めを解放されてやっと自由になった口で酸素と取り込みながら聞く
「行くわよ 山蕗家に」
「はい!?」
またも叫んでしまう
良太くんを見るも真顔で頷いている
「良太くんまで!?」
いつもならば考えられない事をすると言っているのだ。止めてるのは良太だけだと思ったのだが・・・
美夏ちゃんが見つめてくる
「このままでいいの?奈美!」
「!」
手を握りしめる
よくない
よくはないが・・・
「でも、宮西君とはもう関係ないよ」
「本当に?本当に関係ないの?奈美が身を引いただけじゃない!」
「・・・」
「来なさい」
「嫌」
「お取り込み中悪いんだけど」
聞き慣れない声がする
上を見てみると階段越しに伊奈が顔を出している
「あなた達菖蒲の家に行くなら一緒に行く?」
「いいんですか?」
「いいけど、結構遠いわよ」
「いいです。行きます」
美夏に手を引かれて走り出す
不思議とその手は嫌ではなかった
教室で黒服2人を倒したあと零は雅のあとを追って廊下を歩いていた
といっても既に雅の姿は見えないが・・・
「天使確認頼む」
一方方向での短い通信を送る
通信は片方が受信したくなければ勝手に切ることができる
よって片方は送る事が出来ないようになる
一種の着信拒否だが・・・
今まで零はそれを使ったことは無かったが仕方ない
今は緊急事態だから
自分に言い聞かせて昇降口に辿り着く
「かばん忘れたな」
かっこよく教室を抜けてきたのは良かったがあとの事を考えてなかった
(まぁいいか)
諦めて校門に止めてあるおそらく高級車であろう黒塗りの車に近づく
するとドアが自動で開いた
後ろに乗れという事らしい
(まあいいけど)
乗り込んで見ると驚いた事に雅も後ろに乗っていた
「寒いから閉めて」
「あ『承知しました』」
言葉を被せられて動けなかった
「あら、あの2人は」
「教室が気持ちいいから少し眠るらしいですよ」
「替えはいくらでもいるしね」
気に入らない
この人を見下した様な言い方は気に障る
いっその事撃ち殺してやろうかと思ったが
(まずいな)
賢明にもやめておいた