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天使憑き  作者: 夢籐真琴
104/104

されど日々は美しく

眼を再び開けるとーー

神殿にいた

最初に連れて来られた場所と同じーー

堕天使の城とは違うどこか優しく、穏やかな安心できる空間だった
















そしてーー

眼の前の玉座に座っている1人の天使がいた

玉座に座っているーーイコール天使の総裁と見て間違いがないだろう

確かにそれだけの威厳を放っている

しかし零を見る顔は喜びを苦々しさが絶妙に混じっている器用な顔だった

実際零は異常な光景を無視してそんな事を感心していた

(人間っていろんな顔が出来るな・・・)

正確には人間ではないのだが、相変わらずどこかずれた感想だった

零は総裁の顔を見てもピンとこないで、

(はて?会ったことがあったか?)

と思いながら記憶を隅から隅まで探ってみるが心当たりがなかった

「誰かな・・・?」

思わず独り言が出てしまった

それとは対照的に総裁は零に面識があるようだった

しかもその顔は苦々しい

自分の知らない初対面の人間にそんな顔をされるのは零でも(普通の人間でも)いい気分はしない

さすがに不快感を感じていたがそんな事を思っているとは思わせない、まったく表情に出さない表情で総裁に必要な事を聞いた





「総裁さん?名前無いと呼びにくいから名前教えてくれない?」














零の言葉を聞いた伊奈は(忘れられていたがしっかりと伊奈もいた)誇張でも何でもなく本当にずっこけそうになった

零の言っていることは正しい

これ以上なく正しい

正しいのだが・・・

(時と場所を考えようよ・・・)

伊奈は伊奈でそんな感想を抱いて黙って第三者を貫いていた
















「名前?教える必要がない」

素っ気なくーーそして苦々しい口調だった

「じゃあ、総裁さんでいい?」

「・・・」

呆れたか諦めたかわからないが彼はこういった

「総裁ではない」

「じゃあ何?」

人間(・・)に教える必要はない」

「そう」

今度はあっさり諦めた零に彼は逆に不思議そうにした

しかし、それならば話が早いとこう重々しい口調でこう零に告げた

「お前が敵の頭領を殺したのだろう、よくやった。褒美をやる。何か欲しい物を言え」

「欲しい物?」

「ああ」

早くこの場から消え去ってくれという彼の思いが見えてくる肯定の声だった

「何でも?」

「早く言え」

低く警告する

「じゃあ・・・」







「ドロシーの解放」












彼は鉛を飲み込んだ顔になった

鉄を飲み込んだようでもあった

それ以上に厄介な物を飲み込んだようだった

「零ーー」

初めて彼は零の名前を呼んだ

「はい?」

「死んだ者は生き返らないーー自然の摂理だ」

「それを何よりもわかっております」

ふざけた口調だった

何よりも自分でそれを体験しているのだ

そんな事を言われても何も思わない

「しかし閣下、私はこの身で閣下の言われる自然の摂理に真っ向から対する事を体験しました」

(総裁を閣下に変えた)

そんな事を冷静に声に出さず突っ込んだ伊奈だった

「だからあいつは排除(・・)された」

たまたま零の方を見ていた伊奈は驚愕に身を強張らせた

零が身体から普段では考えられないほどの殺気を放っている

普段の何を考えているかわからないとぼけた表情とは違う本当の殺気が滲み出している

(怖い・・・)

ごく当然のーーそして正しい感想を伊奈は抱いた

殺気と言っても赤の沸騰を示す色ではない

逆にーー

絶対零度ーーを表すように・・・

零の周りの気温が下がっていた

そして今も下がり続けている

吹雪が零から吹き荒れていた

「排除したんだろ」

零が冷たく訂正した

伊奈にはさっぱりわからない話だったが賢明にも黙って場に溶け込んでいた

「間違えるな、あいつは禁忌を犯した。それにはもちろん罰が伴う事くらい承知のはずだ」

「初めて聞いたね」

「あいつは承知の上だった」

「!?」

零の表情が初めて変化した

「自分も助かるつもりなら白銀の眼など復活させない、無駄な魔力を使うからな」

「わかってやっていただと・・・」

「そうだ、規律を守るためには制裁(・・)も必要だ」

「・・・」

場に沈黙が走る

再び口を開いたのは零だった

「何故俺の白銀の眼を復活した事がわかった?」

意外に冷静な口調に伊奈は少し安心した

「私は天使を束ねる()だぞ。それくらいわかって当然だ」

(!?)

伊奈は少し驚いたが度重なる衝撃に耐性ができたのか意外にもすんなり受け入れた

(そんな雰囲気(オーラ)だしてるし)

「王なら相棒(ドロシー)の居場所は知ってるよな」

「何を言っている?あいつは死んだんだ」

「それこそ冗談。あんた知ってるだろ、(アイ)から小さいがドロシーとの同調が続いてる」

「何を!」

否定をしたが表情でばれていた

「相棒は何処だ?」

詰問の口調で零は言い放った
















天使の総裁であり王である彼はこう呟いた

「ドロシアは月だ」

「は?」

いきなり出てきた謎の表現に間抜けな面をさらした

「お前はあいつを光だと表現したが本当は違う。彼女(・・)()であり月天使(・・・)だ」

「・・・」

ますます話がわからなくなったので黙り込む

伊奈に関しては理解を放棄している

勝手にやってくれとでもいうようだ

「我々天使はお前達の言う地球」

(まさか!?)

零は賢明にも気づいてしまった

「そして、お前は太陽(・・)だ」















「もちろんお前自身は太陽ではない、あくまで天使が人間と契約を結んだ時にそういう関係になるということだ、普通は・・・」

(普通は?)

「ドロシアは月天使、お前は太陽だったんだ」

「俺が太陽?」

「そうだ、本来はそういう関係を比喩していうだけだったが、お前達の場合は違う。関係が強すぎてお前達は比喩通りにそういう関係になってしまったのだ」

「・・・」

次元が飛んだ話についていけない

「この3つの関係は知ってるよな」

「・・・!?」

「太陽からは月は見えない。あくまで輪郭が地球の中に見えるだけで月本来の姿は見えないんだ」

「おい!」

あまりにも滑稽な話だが結果が見えてしまった零はあせって詰め寄った

「これはもちろん比喩だ、だがお前は一生ドロシアに逢えない

二度とだ

ドロシアはお前の中に閉じ込められた」

零はその端整な顔に絶望的な表情を浮かべた

















「ドロシアの魂はお前の中に閉じ込められた」

「当然の事だがお前を助ける代償としては当たり前だ」

生き返らせてくれた人にーー

自分の命を犠牲にして助けてくれた人にーー

二度と逢えないーーー

厳しすぎる代償だった

見えないーーしかし背中にくっきり浮かび上がる十字架を背負って生きていかなくてはいけない

これは残酷な事だ

(これが代償(・・)かよ)

「もちろん彼女(・・)は死んでいない。ただ生命活動を一時的に静止させているだけだ」

その言葉に僅かな希望を見つけたがーーその希望をも打ち砕く事を彼は無情にも言い放った

「お前の生命活動が静止した瞬間ーー彼女は復活するーー」

頭を金槌なり何なり大きく重い物に叩かれた気分だった















事実上の死刑判決だった

零は石像化した

一瞬自分でも生命活動が停止したかと思った

伊奈は伊奈で驚愕で表情を一杯にしていた

まさかの王の言葉に何も反応出来なかった

残酷な結末ーー

この言葉がぴったりと当てはまった

「零・・・?」

口にすることは出来なかった

零の表情を見ていると何も出来なかった

完璧な無表情になっていたーー















「相棒を助ける事は?」

やっと口を開いた零が言ったのはその言葉だった

「無理だ

お前が生きている限りはな」

無情な答えに零は動揺をしない

「それが(あんた)の答えか」

「ああ」

重々しく彼は言った

「もう一度聞く、あんたの名前は?」

「ナムル」

名前を言い終わらないうちに零は飛び出していた

片手には相棒と同調したーー同調していた共鳴剣ーーナムルの身体の前で立派な剣になった

(悪いな・・・)

誰に謝ったのかはわからない

剣を振り下ろす

このタイミングでは彼はよけきれない

(勝った)

だがーー

「えっ」

思わず声を出してその場に剣を落としたーーー















「サミさん!?」

零の復活した白銀の眼はしっかりと捉えていた

サミが零を止めた瞬間をーー

そして零は倒れ落ちたーー

王であるナムルは侮蔑した目線で零を見ていた

「馬鹿な奴だ、少しは骨のある奴かと思っていたが・・・見誤ったな」

そう呟いて玉座の前で崩れ落ちている零を足で蹴り落としてサミに指示を出した

「こいつを廃棄(・・)しておけ」

「かしこまりました」

サミは跪きーー伊奈が我に返って零に駆け寄ろうとした瞬間ーー




眩しい閃光が伊奈の視界を奪った

















見慣れた風景だった

何処か寒空でーー

見渡す限り田んぼーー山ーーに囲まれた

山蕗高校の屋上だった

そして伊奈はそこに立っていた

随分長い時間旅をしていたはずだが・・・

「2時間・・・ね」

ちょうど授業を抜け出してきて放課後の時間帯だった

寒空にも関わらず元気にグランドを駆け回って部活をしている生徒が見える

(元気ね・・・)

味気ない感想を浮かべたあと大切な事実に気が付いた

「菖蒲?零?」

何処にもいない

そして零の家族の誰1人としてあの世界に行った人間はいなかった

















ちょうどその頃ーー

「零、悪いな・・・」

そう謝りながら息耐えている彼の身体を丸いカプセルの中にゆっくりと寝かせた

もう彼の身内は生きていない

「ゆっくり休めよ」

そう言い残してその部屋を退出した

すると同時にドアの鍵が閉まり、カプセルの中に冷気が部屋を充満したーー



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