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天使憑き  作者: 夢籐真琴
102/104

悲愴

四年前の事だーー














零は普通に中学校に通っていた

その時ーー

「そこの君」

明らかに怪しそうな男が声をかけてきた

まだ男になっていない大学生のような何処かに若さを放っている男だった

「どうかしました?」

声に返したのは気まぐれだった

いつもより速く家を出て学校に到着しなくてはいけない時間まだ十分過ぎるほど有り余っていたからだ

そうではなければ零は絶対に無視して素通りしていただろう

いくら紅い外套を着ていて胡散臭い事極まりない男で興味を惹かれたとしてもーー

「君才能あるよ、僕達と一緒に戦わない?」

初対面の男に(それも意味のわからない服装をしている)こんなことを言われる覚えがなかったのだ

この頃の零は普通の中学生だった


ーー精神(・・)を除いてはーー


「いいですよ」

逆に男の方が面食らったようだ

鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている

いくらなんでもこんなに簡単に了承してくれるとは思わなかったのだろう

「死ぬかもよ?」

誘っておいてこの言い草はないだろうが零は気にしなかった

「戦いってそういう物じゃないですか?」

逆に不思議そうに聞いてきたのだ

これには彼も苦笑するしかなかった

「確かにそうだけど・・・もしかして死にたいの?」

この質問には間髪入れず即答した

「そんなわけないでしょ。俺は生きているうちは生きていようと思いますよ」

笑って零は答えた

この頃の零はどこか破滅願望を持っていた

だが自殺までしようとはしないーーただ死ぬなら無駄に足掻きはせずにあっさり生を諦めようーーそんな思考があったのだ
















何時の間にか荒野に立っていた

目の前に広がるのは血の赤色だった

そして戦い続ける紅と白の軍団

圧倒的に白の軍団が有利だ

彼と同じ紅い外套を纏った人間達は(正確には人に見える)押されていて次々と倒れていった

「これが自軍(うち)の実状だ」

そんな言葉を聞き流しつつ零は冷静にこう考えていた

(こりゃえらい所に飛ばされたな・・・)

敗軍の傭兵ほど無意味な事はないーー

「まぁこれは敵軍の土地だからな・・・自軍が負けているわけではない」

「?」

「まぁ総合的に見るとやや押されているが・・・」

少し笑いながら言っているので案外戦線は悪くないようだ

「俺はそうしたらいい?」

「君は銃器と原始武器ーー槍とか剣とか。どっちがいい?」

「あんたは?」

「俺か?」

「ああ」

「そ~だな。両方だな」

「じゃあ俺もそれで」

「おいおい・・・」

さすがにそれは無茶だと思ったのか制止してくる

ここまでくると零がまともだと思っていなかったのだろうが彼の行動は正しかった

「何事にも挑戦だよ」

何処かの名言のように言う零に呆れたように

「名前は?」

と尋ねた

今度は零が呆れる番だった

「あんた名前知らずに拉致してきたのか?」

拉致という単語がツボに入ったのか当分彼は笑いこけていた

「俺は零」

「お前のような奴を拉致してくるなんて恐ろしくてごめんだがな・・・ケイだ」

「精々期待に答えられるように頑張りましょ」

飄々と零が言った














ケイは感心していた

さすがに生身で拉致同然でさらって来たただの人間をすぐに実戦にだすわけにはいかない

いわゆる訓練所があるのだが、初対面の零の態度から興味が湧いて直接指導してみたのだがーーー

訓練を楽しんでいる

どんなに上手でもそのやることに興味が持てなくてはいくら鍛錬してもなかなか上達しない

もちろんある程度までは育つのだが伸びなやむのだ

しかし零は実力があり、意欲もある

どんどん上達していく

眼に見えるほどはっきりわかる

本人もそれが嬉しいようでより一層鍛錬に励むーーーこの良い循環で成長していった















1ヶ月がたった

零の到達レベルはすでに訓練所の指導員が手に終えないほどまでとなっていた

結果として零の指導に当たったのがケイでよかった

ケイも零の才能を認めた

天性の才能も合わせてケイの指導が効いた

実戦の第一線で戦って生きて帰れるほどまでになっていた

しかし訓練所(ここ)のルールでは1ヶ月経った訓練生は実戦に出される

それほど戦況は苦しくなっていた

近いうちにケイにも出陣要請がくるはずだ

指揮官にもそれらしきことをほのめかされた

そこに零を連れて行こうーー

異例の大抜擢だがそうケイは思っていた
















『第一線に出陣。敵を食い止めろ」

簡単に要点だけをついた指令がケイの通信に入った

ついにケイを初めとする精鋭部隊の実戦投入が決定された

第一線は酷い状況らしい

美しい街は敵の軍隊が制圧されて、人々の心を潤していた芸術品はすべて没収されたか壊された

戦火のよって逃げまとう一般人を人質に軍隊を潰すーーそういった圧倒的な攻撃を受けていた

第一線が敗れると自分達の本城が危険に晒される事になってしまう

それだけは防がなくてはいけないーー

そういった当局の思惑が見て取れた

しかしーー第一線は精鋭部隊でも制圧から取り戻すのは困難に思われた

実際無理だと判断している

指示の内容は簡単だが他の情報から合わせて考えると、精鋭部隊で何とか戦える状況を少しでも立て直してあとは全軍投入の総力戦にするつもりだ

要するに捨て石ーー

あわよくば戦況を少しでも好転させてくれというわけだ

精鋭部隊の出し惜しみで投入を遅らせて結局捨て石に使うとは無茶苦茶にも程がある

はっきり言って無駄使いだーー

猫に小判ーー

豚に真珠ーー

人間界での留学の成果が出て人間の四字熟語というものを思い出した

どちらも持っていても意味のないものの意味だったはずだ

(帰ったら辞書で調べようーー)

そう呑気に思っていたケイは今第一線に向かうバスの中でゆられていた

隣には零もいたーーー














ガタガタと騒がしい道を登っていた

そこの道は真っ赤に染まっていてーー人型の物体が転がっていた

「・・・」

嫌悪感をあらわにする

砂漠の様な砂の上を走っている

上下の振動が大きいせいでゆっくりできない

それは死体を踏む事でもあり、砂の上を自由に駆け巡っている代償ともいえた

バスとはいえ防御にも手を入れられた戦車でもある

防衛はもちろん攻撃にも対応出来るようになっている

目的地であるシティを向かうにはこのデコボコの道が1番安全なのだ

それでこの不快感極まりない道を走行していたのだが・・・

「くそっ」

そう呟いて零に声をかける

「外へ逃げろ!」

言うと同時に自分も対攻撃様にしてある格子を外して外へ飛び降りる

零はもっと派手だった

ケイの言葉を聞くと同時に、手にしていた銃で格子ごと窓を破って外へ飛び降りた

その零が飛び降りたと同時にーー

精鋭部隊を乗せたバスという名の戦車は炎上していた















幸い下は砂だったので衝撃は少なかったがーーその後の爆風はもろに受けた

普段から危険を冒してでも自分の身に銃器をつけておく習慣があったのでこの砂原でも銃器は確保出来た

しかしそんな事は気にしていなかった

燃え盛るバスから断末魔の声が上がる

死にきれていない者たちが何人かいるようだ

思わず助けにいこうとするとーー

「ここは危ない、離れるぞ」

まだついていない手榴弾を初めとする爆薬に引火するとこれは大爆発をすることを言っているのだ

それは事実であるがーー

「ケイ!」

思わず非難めいた声が入った

まだ助けられる人を見過ごす事は出来ないーー

「正論だがそれでもする事があるだろう」

静かな声だが気魄がこもっている

そうとう怒っているらしい

これ以上話しかけるなとのオーラを出している

「攻撃されたのは装甲車用のミサイルだ、ここは既に敵の手の中だーーー逃げるしかない」

そう言ったと同時に敵が現れる

2人ともバスを盾にして配置をとる

そして息をつく暇もなく銃撃ーー

次々と敵を冷静に葬っていく

しかしきりがない

敵に場所を知られている以上ここに長居するのは愚の骨頂だ

「バスに火をつけるぞ」

まだ何人か残っているはずだがーーこの状況を打破するにはこの方法しかない

頷くとーー

「いい判断だ」

ちょっと褒めてくれて手榴弾をバスに放り込む

それと同時にスタートをきり、自分達の姿が敵の目の前に曝されるのを承知で逃げる

そしてーー

たくさんの人間を乗せたバスは爆発し、周囲にいた人間すべてを巻き添えにして派手に散った














花火よりも派手な炎を生で初めて見た

変な所で感慨にふけりつつも・・・

その場を尻目にシティに向かって走り始めたーー












ありがたいことにそれほどシティまでは距離がなかった

予想外といえば予想外だがあっさりとついたことに拍子抜けした

「意外に近かったな」

そう呟くとケイも頷く

「ありがたいことだよ」

そう言いながら銃弾を装填している

そしてシティに向かって一発放った


「・・・」


豪快な一発に派手な炎が上がった

シティのど真ん中にミサイルを放ったのだった

「おい・・・ここって俺たちの領地じゃないのか?」

「そうだけど?」

疑問で返されても困るのだが・・・

「ここを無血で奪還するのはまず無理だ、それも2人だぞ。可能性が高い方法を取るのが常識だろうが」

「・・・」

「冷酷とでも言うか?」

自嘲気味に言った

「俺たちには手段(・・)がない。それならばーーやることはわかってるよな?」

念を押される

もちろんだーー

わかってはいる

わかってはいるのだが・・・

割り切れるかと言えば話は別だ

こういう所が甘いと言われる所以なのだがーー

「別にそれでもいいんじゃないか?」

零の表情を読み取ったかのようにケイが言う

「そういう奴も必要(・・)だぞ」

必要ーー

この言葉に助けられる気がしたーー
















紅い外套を無視しても全身真っ赤に染まった

案の定ミサイルに動揺して出てきた者を敵味方関係なく撃ちまくる

そして切るーー

切れ味が悪くなった小太刀を何本変えたかわからない

何発撃ったかわからない

少し歩くだけでも血の音が響く

しかしそんな音は聞こえないぐらいの阿鼻叫喚が聞こえる

そんな時ーー

ビルの屋上の上から狙撃された

狙撃されたのはーー

ケイだった
















血が吹き出ている足を気にもせず的確に身を守りながらケイは狙撃者を撃ち倒した

零の呆然としながらもケイと同じように身を隠していた

(俺・・・)

何時の間にかきっちりとマニュアル道理に動けている自分に驚く

「ケイ!」

思わず我に返った零はケイに声をかける

「大丈夫だ、周りを見ろ」

表情に変化を見せずに零に答えた

しかも淡々と血を無視して銃を構えた

(・・・)

逆に感心を覚えるほどの強靭さだーー身体だけせはないーー

「零」

「?」

何も話さずに周りを見ていた零にケイが初めて声をかけた

「ここで別れるぞ」

「ーーー!?」















いきなりの別行動発言に驚きを隠せない

ただの傭兵であればこの指示は黙って聞くべきだがよくも悪くも零には心があったーーまだ戦争(ここ)に染まり切っていない心がーー

「拒否」

即答で答えて零は前を向き直した

「司令官の指示には従えよ・・・」

今度は決して今までのように強い口調ではなかった

驚いて後ろを歩いているケイを勢いよく振り返る

そして痛烈な舌打ちをした

そこには明らかに表情が悪くなっているケイがいた

思ってみれば当たり前なのだ

銃弾を身体に貫通してろくな治療もせずに歩き続けてきたのだ

体調が悪くなるのは当たり前ーー

普通は出血多量で死んでしまう

ケイの表情が変わっていないから油断した

余裕そうに歩いていたのを拡大解釈しすぎた

余裕なはずがないーー

ケイにかけよって肩を支える

「零ーー聞け!」

「嫌だね!」

「零!」

「!?」

「俺は生きて帰る、信じろ」

決して強くない声だったが意志がはっきりしていた

まだ目の色が死んでいなかった

生きて帰る意志が見えている目の色だった

「・・・」

「零」

今度は優しい声だった

「お前はここに来て良かったか?」

「もちろん」

するとケイは穏やかに笑ってこう言った

「そりゃよかった」

「何で?」

「お前を戦場(ここ)に連れてきたのは間違いじゃなかったかもしれないからだ」

「もちろん、俺はここでの生活では生きていた」

ゆっくりと笑いながらケイは零の話の続きを促した

「俺の現世の生活は生き地獄だった、生きた屍だった」

「・・・」

「ここでは生きれていたよ、ありがとう」

「そうか・・・」

一時的な静けさの場所に騒音が戻ってくる

銃声が鳴り響いたーー轟始めた

「零!」

銃を構えて装填する

「生きて帰れよ」

いつもと同じ変わらない穏やかな声だった

「ケイもーー」

「零ーー生きろーー!」






2人の間を挟んでいた車が爆発したーー








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