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天使憑き  作者: 夢籐真琴
100/104

存在を賭そうとも

暗闇の中で1人だった

空中に浮いていた

(・・・)

意識が正しく覚醒していない

どこか他人事のようにぼんやりと靄がかかっているようだ

身体は眼を覚まそうと頑張っているのに、それに反して脳は起動しない

(・・・!?)

そこで初めて眼が覚めた

暗闇の中で完全に視界が塞がれていた中にいきなり光が見えたのだ

ずっと遠くにーーー

強い光だった

脳が一気に覚めた

そして身体は勝手にその場所に泳ぎだした

上も下も右も左もわからない場所ーー宇宙のような場所だーー平泳ぎで進み出した

目標が頼りない一筋の光なので、自分が何処まで進んだかはわからない

ましてや周りには何もない

それでも理屈ではなく本能で進んでいることがわかった
















光の側まで近づいた

そこで彼は泳ぎを止めた

そこには全身鎖で繋がれて磔のようになっていたのだ

身体を押さえる木は十字架はないが、空中で両手両足を空中で鎖に繋がれていた

その顔はつい先ほどまで彼と同じように虚ろで焦点があっていなかった

自分もそんな顔をしていた自覚があるので、何て情けない顔を・・・そう苦々しく思った

しかし彼はいたが発光限は見つからない

しかし光はここから出ていた

周りを見渡してそれをさがしたが見つからなかった

「ないな・・・」

磔にされている彼を救おうとは考えなかった

(触らぬ神に祟りなしってな・・・)

随分非情な事を考えていた


『その通りよ』

いきなり脳内に女性の声が聞こえてきた















そんな声が聞こえた時ーー

いきなり自分の脳に疑問が走った

(俺は誰だーー?)

自分の名前が思い出せない

それどころか今いるこの場所に辿り着いた理由もわからない

(嘘!?)

不安が心を蝕み始めた

どす黒い闇が心を包みはじめた

そんな時ーー

その私を救うかのように天使が現れた

羽こそ生えていないがゆっくりとおりてきた

(綺麗な人だな・・・)

人ではないがそう思った















彼女は降りてきて鎖につながれている彼にこう言った

「零ーー眼を覚まして」

優しい一言だった

聖母さながらだった

(さすが天使・・・)

完全に部外者を気取ってその光景を見ていた

すると焦点のあっていなかった眼に光が戻った

そして彼女を見つめた

何も言わなかったが彼の目には意思があった

(覚醒したか・・・)

「零、ありがとうね」

零と言われた彼の眼はーー

いきなり光出した

最初は濁った灰色からーー

零の眼に天使が口づけをしてーー

輝く白銀色へと変化した


(綺麗)

自分の記憶の事を完全に蚊帳の外において素直に感心する

それでもう一度記憶の事を思い出す

たちまち不安が蘇る

自分の名前がわからないというのはとても不安だ

今まで何をしていたのか?自分が誰なのか?ドラマのような話だが自分の身に起こってみると不安で仕方ない

心臓の音が聞こえそうだ

どくどく大きく音を立てている

何故かわからないが2人に聞かれるのはまずい気がして必死に動悸を抑えながら同時に飛び出し大声を出したい衝動を抑えていた














今まで私の事など見向きもしなかった天使が振り向いて目があった

(助かった・・・)

そう思い助けを求めようとして思い留まる

今までの零と呼ばれた彼とのやり取りを見ている限りとても優しかったからだがーー

間一髪言葉を発しなかった

何故ならーーー

天使の眼が冷たかったからだ

そして顔は無表情だった

業火のように怒っているのではなく絶対零度の冷たさで私を圧倒した

(え?)

今まで無害だと思っていたがいきなり怖くなった

(ちょ、来るな・・・)

声が出ない

出せない

現金なものだが天使に圧倒されて今度は彼女を拒否するが彼女の足は止まらない

『酷いわね・・・』

「ひぃ!?」

情けない声が口からこぼれた

この声は前に聞いた声と一緒だった

脳内に染み付く声はーー

(!!!)

頭がガンガンする

記憶が戻りそうだがーー戻らない、思い出せない

(くそ!)

悪態をつく

もうちょっとーー

もう少しで思い出せそうなのにーー

『私の事忘れちゃった?』

甘い声で脳を刺激する

そしてーー1つの事実に気がつき唖然とした

(何故この()は私と話せている?)

そう私は一言も喋っていない

という事はーー


ーー思考を読まれているーー


この事実に気付いた時ーー

「そうよ、いきなり何を言い出すの?あなたも散々やってきた事じゃない」

「ーーー!?」

今度こそ思い出した

苦々しく顔を歪める

「思い出した?」















「ドロシア」

「なぁに?」

いつもと変わらない声でーーそして顔は無表情でーー異常に恐怖を感じる

「彼はこんな芸当が出来るのか?」

するとドロシーは飽きれたように言い放った

「そんな事も調べずに攻撃仕掛けたの?それでこの様なのね」

「・・・」

何も言い返せない

ドロシーの言う通りだ

何も調べずに精神攻撃を仕掛けて彼の精神に負けてしまった

「神も大した事はないわね。地に落ちたものね」

「彼は誰だ?」

当然の疑問だったがドロシーは一気に冷めたように素っ気なく答えた

「あなたの知ることじゃない」

「教えられないか?」

揺さぶりをかける

しかしこんな物では当然のように彼女を動揺させられない

まったく変化がなかった

「知りたいなら自分で勝手にして」

「彼を生き返らせるつもりか?」

「そうだと言ったら?」

「全力で止める」

「この様で?笑わしてくれるじゃない」

確かに何も出来ない

今の私ではーー

しかし

「私だけではないぞ、お前を止めようとしているのは」

そう、私だけではない

神は12神いる

数では負けない

「数ではね」

「・・・」

「私は本気よ・・・」

「・・・」

「私が本気出したらあなたたちはどうなるかぐらいは予想がつくよね?()()

表情を精一杯苦々しく歪める

「たいした自身だな」

「あなた今何処にいるかわかってる?」

「・・・」

零の精神世界の中だーー

ここでは私の力は使えない

ましてや今身体を封じ込まれて身動きが取れない

絶体絶命だーー

そんな陳腐な言葉しか出てこない

「私はね。怒ってるの」

「?」

私達(・・)の世界に入ってきた邪魔者がいるから」

ギクリとする

背筋に冷や汗がつたる

非情に危険な気配を感じる

美しく整った無表情の顔が近づいてくる

「・・・」

紙一枚入る隙間しかないほど近づいた
















ドロシーは指を鳴らした

忌々しい顔が目の前から見える

「さて・・・」

振り返り鎖に繋がれている零を見る

この鎖は零が作り出したものだ

自分が死んだと思い込んで(これ以上ない事実だが)自分を繋ぎ止めているのだ

自分が死んだと自覚している者は決して幽霊(・・)にはならない

自分が死んだと認められない人間が地上に留まっているのが幽霊の正体だ

ところが、この頑固な男は自分が死んだ事を理解しきっているために鎖で冥界(ここ)から抜け出さないように留めているのだ

(厄介な男ね・・・)

死んでからも特別な男だった

零の目線がドロシーに向く

「零?」

最初から反応してくれることを期待せずに聞いてみる

「天使か?」

「!?」

相変わらず驚かせてくれる相棒だった

予測不可能というか何を考えているのかわからない男だ

「そうよ」

「ドロシー?」

「そうよ」

「ここは?」

「あなたの精神世界」

「そうか・・・」

そう返すと零は物珍しげに周りを見渡している

「どうしたの?」

「いや~生きているうちに自分の精神世界?が見れるなんてな。俺の死後の世界じゃないのか?」

「違うわよ、あなたは生きている」

零の顔が疑問の表情を浮かべる

「お前は知っているだろ?俺は死んだんだ」

「じゃあ今のあなたは誰?」

「お前が作り出したものじゃないのか?」

「・・・」

この世界もーーそう続けようとしたのが手にとるようにわかった

「あなたはもう一回生きない?」

「やっぱり死んだのか」

「答えが聞きたいわね」

「少し休ませてくれ」

「・・・」

「といいたい所だが・・・生き返らせてくれるなら感謝する」

「答えは?」

「もう一度やってみるのもおもしろいかもな」

カチカチと黒い世界が崩れていく

零の鎖も剥がれて行く

光が照らしてくる

その光は零を包み込んでーー

零はドロシーの方を見て驚いた眼をして手を伸ばしたーーー












零の手はドロシーに届かなかった
















たった1人になってしまった暗闇の中で自嘲の苦笑いをする

まさか自分がこんなにも人間(・・)に入れ込むとはーー誰も思わなかっただろう

視覚も聴覚・触覚といった全ての感覚を奪われた

たった一つ生きている感覚ーー思考だけだが・・・

この闇の中で1人で思考だけが生きているのは拷問にも等しい

随分嫌われたものだ

それはたんなる力不足で中途半端なだけかもしれないがーー

手の平に小さな光が弱々しく光る

(これだけか・・・)

こんな拷問を受けるのはごめんだ

神々の思い通りになるわけにはいけない

最後の力で自分に魔法をかける

思考を封じる

意識が薄れて行くなかでーー

ふとーー思い出した

零に託した小さな力ーー

(使ってね・・・)



ドロシーは永い眠りについた






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