序章
彼がその異変に気づいたのは
高校からの帰り道であった
何かが変だった
いつもの帰り道
いつもの自宅への登り坂
「な・・・!?」
音が聴こえない
匂いがしない
視界ははっきりしない
いや見ているものがまるでテレビを通して
見ているような感覚
そして手足は自分の思いとは反対に
止まらない
歩き続ける
右から車が
急ブレーキをかけられる
しかし車は急に止まれない
体は宙を浮いて壁にぶつけられた
痛みを感じない
車から男の人が降りてくる
何か言っている
しかし聴こえない
口を見ていると
「だ・い・じ・ょ・う・ぶ・か」
大丈夫か?
いいや、大丈夫ではない
身体からは大量の血が
「あぁ、死ぬのか 意外に早かったなぁ」
意識が遠くなる
自分が悪いのにこの人に迷惑をかけてしまったな
薄れていく意識の中
相手のことを考えている自分がおかしかった
毎日疲れてた
一眠りするか
彼は自分が死ぬのに未練を感じなかった
そして眼をとじた
野次馬が集まっているところを
遠くから見つめている者がいた
それは閑静な住宅街とは遠く離れた
学校の屋上だった
フェンス越しに見ていたが
やがて興味をなくしたのか
紅い服をひるがえして
校舎の中に帰っていった