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魔導師がユメみたセカイ。  作者: 津森太壱。
【魔導師がユメみたセカイ。】
6/18

05 : 悲しい生きもの。3





 少しどころかかなりぼんやりとした印象のある幼い少年は、カヤより四つほど歳下で、ロザヴィンといった。魔導師の力が制御できないらしいと聞いたが、カヤが見る限りでは、ロザヴィンは単に己れの力がわかっていないように感じられる。壊れている、と思ったのは、そのせいだ。力がどんなものかわかっていないから、扱いもわからなくて、ほとほと困っている状態なのだろう。そう説明すると、イーヴェが「なるほど」と頷いた。


「そういえばおまえは、自分の力にあまり驚いていなかったね」

「使えることが当たり前だと思っていた」

「……おまえらしいね」

「おれにとって魔導力は、自然に力を貸して欲しいと頼むことだ。応えてくれなかったことはない」

「それは、おまえが特別だと、そういうことなのだがね」

「おれにとっては当たり前のことだ」

「人が誰しも自分と同じだとは限らないのだよ」

「そうらしい」


 無意識にせよ使っていたものが、自分だけの特別なものだと思えるほど、カヤは自惚れていない。力を自覚した今でも、それは変わらないことだ。


「その小さいのも、おれと同じだ」

「どう同じだと?」

「力を使えることが当たり前だと思っている」

「……そのようだね」


 ふう、と息をついたのはイーヴェではなく、ロザヴィンを連れてきたロルガルーンという魔導師だった。


「できればおまえに預かって欲しくて、こうしておまえを捜して、ここまでロザヴィンを連れてきたのだがな」

「子どもの面倒はカヤひとりで充分だよ」

「そのようだ。おまえも随分と厄介そうな力を持っとる坊主を見つけたな」

「これにはわたしの名を継がせる。そのために弟子にした。ああ、そろそろ王都へ行こうと思っていたところだよ」

「もはや魔導師と名乗らせるか」

「一年経つ。充分だ」

「おま……どれだけ扱いたんだ」

「失礼だね。これは勝手に育ったのだよ」

「……。おまえ、よく弟子なんか取ったな」


 半眼したロルガルーンは、改めてカヤをじっと見つめてくる。そんなに見つめられても困るのだが、と思いながらも、カヤも見つめ返した。すると視線が反らされる。


「ものすごい力だな……抑えられんのか」

「そういえば制御の仕方は教えてないかな」

「! 一番に教えることだろうが!」

「これは勝手に育つのだよ、ロルゥ」

「おまえは師だろうに! 師が弟子の面倒を看るのは当然だろう!」

「めんどくさ……」

「おまえほんとよく弟子なんか取る気になったなっ?」


 ロルガルーンがイーヴェに怒鳴る、それはカヤにはなんというか珍しい光景のような気がした。イーヴェが誰かと親しげにしている、というのは、想像するに難しいのだ。


「カヤ!」

「ん」

「と、言ったな」

「おれのことか?」


 イーヴェを怒鳴っていたロルガルーンが、再びカヤを見やってくる。なんだ、と顔を上げて首を傾げると、意外と間近にロルガルーンの顔があったので吃驚した。


「な、なんだ」

「あいつでは教えられんことを教えてやる」

「は?」

「この子と共に、その力を制御する方法を学べ」

「……。なぜあんたにそんなことを言われなければならない」


 ロルガルーンは、まだ寝ぼけている少年ロザヴィンをカヤの前に突き出し、カヤとロザヴィンの間に移動して身を屈めると、頭の上に手を置いてきた。


「魔導師になると決めたなら、魔導師の因果を知れ」

「……魔導師の、因果?」

「わしらが持つ力は、護りたいものを護れる力だ。だが、その力が及ばぬこともある。わしらは限界を知らねばならない。まあ、おまえさんほどの力であれば、心配するようなこともなかろうが……おまえには、『あちら側』へ行く要素が多くあるように思えてならん。だから学べ、幼き魔導師よ」


 ぽんぽん、とロルガルーンは頭を撫でてくる。イーヴェ以外にそんなことをしてくるのは、ロルガルーンが初めてだった。


「わしは大海の魔導師、そしてユシュベル王直下魔導師団の師団長だ。その権限に置いて、おまえを魔導師と認めよう。学べ、幼き魔導師。そして知るのだ、魔導師の因果を」

「……大袈裟に聞こえるが」


 頭を撫でられるのが照れくさくて、ロルガルーンの手から逃れながら距離を置く。笑ったロルガルーンは、イーヴェの顔を見やってまた笑い、立ち上がった。


「戻ってくるのだな、イーヴェ」

「……わたしは守護者の名を継いだ魔導師だからね」

「宿舎にあるおまえの部屋はそのままだ。邸は……陛下が護ってくださっている。陛下に感謝するのだな」

「あのおバカは……本当にどこまでもおバカなのだね」

「陛下に対して失礼な発言は許さん。ほれ、戻る気になったのなら準備せい」

「はいはい。……カヤ」


 なにやら勝手に話が進められていたが、カヤを見下ろしたイーヴェは、どこか複雑そうな顔をしながらも「行くよ」とカヤを促してきた。


「どこへ?」


 問うと、イーヴェは空の向こうに視線を流した。


「悲しき魔導師が辿る道は、この世界と共に在る。諦め、嘆き、絶望し、それでも魔導師は存在し続ける。その始まりの場所へ、連れて行こう」


 まるでそれは宣告だった。

 未だイーヴェの言葉で理解できないことはあるけれども、その中でもイーヴェが悲しいと言うことのそれは、カヤにもなんとなく理解できるものだ。

 魔導師とは悲しい生きものなのだと、けれどもイーヴェのように生きなければならないのだと、このときつくづく感じた。







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