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魔導師がユメみたセカイ。  作者: 津森太壱。
【魔導師がユメみたセカイ。】
12/18

11 : 描いたミライ。2





 嘘だと思った。

 嘘だと信じたかった。


 世界は美しい。ゆえに、醜い。

 人間が怖い。人間が、恐ろしい。人間に、恐怖を感じない日など、ない。

 そう、世界は恐怖だ。

 どうしようもなく、恐怖に溢れている。

 自分の想いが、世界を恐怖と感じている。

 生きることも、死ぬことも、人間も世界も、すべてが恐ろしくて、怖気づく。


「イーヴェ……」


 カヤの世界をそんな恐怖に陥れた師の死が、目の前にある。

 生を望んでここまで歩んだからこそ、その恐怖は呆気なく、訪れた。


 理解できなかった。

 なぜ死んだのかわからなかった。

 なぜ死を選んだのかわからなかった。

 イーヴェが死ぬわけがなかった。

 殺せと言ったのはイーヴェだ。

 死ぬわけがない。

 そう、カヤが手をかけるまで、たとえ切望していたとしても、イーヴェが死を選ぶわけがなかった。

 イーヴェを殺すのはカヤだ。

 こんなに呆気なく、イーヴェが死ぬなんて、あり得ない。

 イーヴェの死を軽んじられては困る。


 怒りに目が眩んだ。


「おまえは……っ」

「下がれ、ロルガルーン」


 イーヴェの死を軽んずるな。


「下がるのはおまえのほうじゃ。イーヴェはわれわれで天にお返しする」

「イーヴェを殺すのはおれだ。そう約束した。おまえらに殺させやしない」


 怒りのまま、邪魔をする者は排除する。

 イーヴェの死を、呆気なく受け入れる者たちに用はない。


「やめぬか!」

「おれは下がれと言った」


 イーヴェを殺すのはカヤで、それはまだ成されていないのに、死が訪れるなんてありえない。


 どうしてそれがわからないのだ。


「王陛下の御前であるぞ、堅氷の! イーヴェだけでなく、王陛下までも愚弄する気か!」


 邪魔をするな、そこを退け、イーヴェの死を認めるな。


「下がらぬか、堅氷の!」


 なぜわからないのだ。

 死ぬわけがないのに、なぜ死んだと認めるのだ。

 なぜ。

 なぜ。

 どうしてそんなに呆気なく、死を許すのだ。

 許していいわけがない。

 許せないだろう。

 なのに、なぜ。


「……邪魔だ。退け」


 立ち塞がる者が増える。


「わたくしが愛してあげる」


 予想もしていなかった言葉、意味もわからない言葉、けれども聞こえてくるはっきりとした声。


「わたくしが、あなたを愛してあげる」

「……なんのことだ」

「だから認めなさい、堅氷の魔導師」

「おれはイーヴェを殺しにきただけだ。そこを退け」


 イーヴェの死を軽んじた者に、邪魔はされたくない。

 だのに、その声はよく響いて来る。耳を、穿ってくる。


 信じたくないものを、信じさせようとしてくる。


「そこを……退け」

「イーヴェは死んだのよ」


 聞きたくもなかった言葉に、身体が強張った。


「街の住人を庇って、護って、イーヴェは死んだの。あなたが殺したくても、もうどうにもならないのよ。いくら大魔導師のイーヴェでも、生き返ることはないわ」

「……おれは、イーヴェを」

「もう殺せないの。死者は生き返らないのだから」


 受け入れたくない。

 認めたくない。

 殺さなければならなかったのだ、イーヴェを。


 だのに、見つめてくる蒼い双眸が、思い出させた。


「泣いていいのよ、堅氷の魔導師……いいえ、カヤ」


 カヤ。

 イーヴェと同じ声で、そう呼ぶひと。

 ヒュー。

 ヒューはどこにいるのだろう。

 ヒューはイーヴェの死を、軽んじたりしない。カヤと一緒に夢を見た。未来を見た。

 そのヒューは、いったいどこに、いるのだろう。


 ふと、ぬくもりを思い出した。

 蒼い双眸が、そのぬくもりまで思い出させた。


「イーヴェは、カヤの師……あなたにとっては、唯一の家族だった」

「……イーヴェ、は」

「悲しいわね、カヤ。寂しいわね、カヤ。わたくしも、悲しくて寂しいのよ」


 ああそうだ、悲しい、寂しい。

 イーヴェは親だ。自分と、ヒューの、父親だ。家族だ。


 だから。


 死を受け入れたくない。

 受け入れられない。


 なのに。

 どうして、それを思い出させるのだ。


「わたくしが愛してあげる……だから、もう、泣いていいのよ」


 愛しているなんて、言われたことはない。けれども、愛情は感じていた。

 あの眼差しが。

 あの微笑みが。

 あの、手のひらが。


 殺せるわけがなかった。


「イーヴェ……」


 愛している。

 愛していた。

 師と尊敬し、親のように。


 なぜ、どうして、死んでしまったのだ。

 これからの未来を、描いていたのに。

 間違いが正されようと、していたのに。


 なぜ。

 どうして。

 ヒューを置いて逝った。

 おれを置いて逝った。


 描いた未来があったのに。


「天に安らぎを、地に恵みを……われらが至上の世界に」


 あなたを殺さない未来があったのに。







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