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魔剣の君  作者: Blood orange
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太陽の君の笑顔(改)

謁見の間から王達が去って行った後、ジャンヌは大きく背伸びをすると父ベンジャミンの後を追って別邸に帰って行った。

ジャンヌは、少し不思議に思っていたのだ。あの2人の王子達は、髪の色や瞳の色、それに身に纏うオーラが違うからそっくりとは言えないが、とても良く似ている。何故..?

ジャンヌが首を傾げて考えていると、ベンジャミンが聞いて来た。


「どうしたのだ?私の可愛いお姫様は? ああーそうか、使者の方に礼儀作法を相当扱かれていたから、疲れてしまったのか?ジャンヌ」


ジャンヌは、チラリと父の顔を見てプウッと頬を膨らませた。

そんな可愛い子供じみた事をするジャンヌをベンジャミンは、とても可愛がっていた。

怒ってそっぽを向いたジャンヌは、少し淋しそうに俯いていた。


「ーねぇ。父様、あの2人の王子様達は、どうして同じ年なのかしら? とても良く似てらっしゃるんですね。ただ髪の色と瞳の色が違うだけで、顔は瓜二つだもの」


「それは、王子様達が双児だからだよ」


「双児ですか….」


そこへ母様がジャンヌに教えてくれたのだった。


「第一王子の名前は、アウグスト様。金髪碧眼。第二王子の名前は、ディートリッヒ様。腰までの長い銀髪は、それは月の光を一糸に集められたようでしょ。彼の瞳はまるで暗い湖の底の様に蒼い双眸。

淑女達の間では「太陽の君」と「氷の君とかまたは冷酷の君」と呼ばれているのよ。アウグスト様は、ダンスの名手なのよ。それに乗馬に、でも普段は王宮の図書館で本を読んでいらっしゃるのよ。 学問の才もあるお方なのよ。 ディートリッヒ様は、剣の達人なの。あの方は王立魔法学校でも優秀な成績を収められている方でね、魔術師の資格も持っていらっしゃるのよ」


ま〜よく知っていらっしゃる事。ジャンヌは呆れた様に母親のジャックリーンの情報網には、脱帽していた。

まるで昼と夜の様に対照的な2人の王子様達だったけれど、氷の君と呼ばれているディートリッヒ様は、とても気さくなお方に見えたのだけれど…。

太陽の君と呼ばれているアウグスト様は、本当に寂しそうだったわ。

自分を必要とされていないみたいに…。


一人っ子のジャンヌには、到底理解知り得ない事なのだろう。

ジャンヌは、自分の横を歩いていた父の顔を見る。ジャンヌは笑顔で「ちょっと別邸の庭を散歩してきます。」そう告げると、ベンジャミン達の返事を聞く前に、走りさってしまった。

森の奥に入っても、其処からはお城や別邸が見えていた。

ジャンヌは大きく欠伸をすると、ゴロンと草の上に寝転がると目を瞑って、「結界」そう一言呟いた。ジャンヌの周りには、綺麗な弧を描いた様に蒼い結界が張り巡らされた。 結界が無事張れたのを確認すると、ジャンヌは すうすうと寝息を立てて眠ってしまった。

いつもジャンヌは、こうやって結界を張って草の上で寝転がっているのが好きなのだ。でも、そんな所を父様やお城の使者達に見られでもしたら、またお小言を言われかねない....と言う事で誰にも見られないように結界を張れば、結界の外からジャンヌを見る事は出来ない。ただし、魔力の強い者であれば、ジャンヌの結界を見破れるのだが、そのような高い魔力を持ち合わせている者は、そんなにこの世には居ない。

ジャンヌは、既に熟睡中。長い金髪に草が絡まっても、そのままだ。


丁度その頃、別邸の様子を見に来ていたアウグストは、森の奥で何かが蒼く光っているのを見つけ、急いで光のする方へと走って行った。

すると、蒼い光の中心に昼間、謁見の間で会った女…..確か、名前がジャンヌとか言っていたな。彼女が草の上でごろんと気持ち良さそうに寝ていた。

この光は、結界を張っているのか…。アウグストは、フフッと微笑みながら人差し指で、その蒼い光をチョンと押すとスルッと自分の指が入って行くのが分かった。

自分の指が中に入れると言う事は、体も当然この結界の中に入り込める事になる。

アウグストは、躊躇する事無くジャンヌが張った結界の中へと入って行った。

無邪気な寝顔で草の上に寝転んでいるジャンヌを見て、アウグストは、ジャンヌの髪をそっと撫でていた。


「不思議な娘だ。一目オレを見ただけで、俺の心が分かってしまうとはな…」


アウグストは、ジャンヌの顔にそっと近づいた。朝から昼過ぎまで、ぶっ続けで謁見の儀の練習をさせられていたジャンヌは、泥の様に眠っている。ちょっとやそっとじゃ起きなかった。

そんなジャンヌを見て、アウグストはクスッと笑うと唇を重ねた。


「こんな小娘が、俺の将来を…いやこの国の未来を握っているなんてな….。」


そう言うと、アウグストはもう一度ジャンヌの濡れた唇に口付けをした。

閉じられていた瞼がピクリと動くと、ゆっくり開いた瞳は、まさしく銀色だった。


「無粋ですわね。眠っているその小娘にこのような真似をなさるなどとは…。心寂しい子供が目新しいおもちゃに執着を持っている様にしか見えませんがね。そのような事をなさるのなら、私が起きている時になされば良い」


眠っているとばかり思っていたジャンヌから、言われた言葉に思わずカァ〜ッと顔を赤くしたアウグストはジャンヌの顔を凝視した。

アウグストの孤独な心まで見透かすような銀の双眸でジャンヌは、アウグストを見ていた。


「お望みとあらば….」


ジャンヌにそっと覆い被さる様に自分の顔を近づけるアウグストは、ジャンヌの唇に自分の唇が触れる寸前で止めてしまった。

(こ、この女....震えるかと思ったら、変に度胸が据わっている。そんな吸い込まれるような銀の瞳で見られたら、嫌な事を思い出してしまう....。)


「アホくさ…。またお前に寂しい子供が強請っている様にしか見えないとでも、言われそうだからな」


「そうですね。全くです」


「お前に遠慮と言う物は、ないのか?」


「ありません。特に、私の事を名前ではなく『お前』と呼ばれる方には」


アウグストは、怪訝な顔をしてジャンヌを見ていた。今まで生きて来て、此処まで自分を真正面から否定したり、意見して来る女は初めて見てなのだ。

こいつは、本当に面白い。アウグストは、いつものような微笑を浮かべるとジャンヌを見つめている。


ジャンヌは、太陽の君と呼ばれているこの王子がどれだけ孤独だったのかを知っている。ジャンヌの意識がアウグストの中に眠る過去の記憶の中に入って行く。

あの太陽の君と呼ばれている人は、子供の頃から周りの臣下達に冷たい仕打ちをされて来たのだ。彼の瞳を見ていると5才くらいの色が青白く痩せ細った子供の姿が見える。

ーああ、これは彼なのだ。

例え、名ばかりの第一王子だと言っても、体が弱ければ誰も自分を守ってくれる者も、側に着いて来てくれる者も居ない。いつも孤独と死への恐怖だけが、彼の心を支配していた。

そんなアウグストをいつも側で見守っていたのは、乳母とそして一匹の黒と銀の虎縞模様の猫だけだった。

今、ジャンヌはその猫の瞳から、この幼い日の王子の事をじっと見て言いた。

王子なのに、体調を管理するためと言う名目で、北の塔に閉じ込められ、与えられる服や食べ物は、粗末な物ばかり。それもこれも自分の体が弱いと言うだけで、使い物にならないと決めつけた臣下達が、徐々に自分を弱らせ、そして暗殺しようとしている事をまだ幼い王子は知ってしまった。

ジャンヌは、この王子のたった一人の友達である猫の意識の中へと入り込んだ。猫は、いつものように王子の足下へすり寄って来ると、そっと王子の手を舐めていた。早く元気になってこの塔から出れる様にと。

猫が王子の手や顔を舐める度に、王子の体調が良くなって来た。それと引き換えに猫は少しずつ衰え始めて来た。

ようやく、王子が外へ出歩ける程まで王子の体が回復した時、北の塔から王子は出される事になった。大事な猫を連れて。猫は、まるで王子に自分の精気の全てを与えたかの様に、毛並みはボロ雑巾の様になってしまった。アウグストが、一度ひとたび第一王子としての地位に戻った事を喜ぶかの様に、「にゃ〜ぉん」と小さく鳴く。そしてアウグストの腕の中で、猫は丸まると銀の目を閉じた。

王子が自分の自室で目覚めたある朝の事だった。毎朝自分を起こしてくれる猫が、枕元に来ないのを不思議に思って猫用のベッドに目をやったアウグスト。

そっと猫をさわると、まるで氷の様に冷たかった。震えるその手で、アウグストは冷たくなってしまった猫を抱き締めて、いつまでも泣いていた。

自分を守ってくれ、自分に命をくれた唯一の自分の友達。猫の亡骸を大事に抱き締めて。


彼は、あの時の王子だったのか....。大ジージは、自分が神様にファートムを助けてくれる様に頼んだ時、魂の一部がファートムに、そしてもう一つが花園の向こうへと飛んで行った事を思い出した。

恐らく、それがあの猫へと飛んで行ったのだろう。どうやら、あの猫は王子を助けたいばかりに儂と同じ様に神に祈ったようだ。じゃが、猫は歳を取り過ぎていた。その上、王子は死を待つだけの体となっていた為に、魂の力が足りなかったんじゃな....。

大ジージは、自分の意識をジャンヌの中で眠らせた。このジャンヌならば、この王子を助けてくれるじゃろう....。


「あなたが求めているのは、こう言う事でしょう」


ゆっくりと起き上がったジャンヌは、王子の背中に手を添えた。そしてそっと彼を抱き締めると優しく王子の髪を撫でていた。まるで泣いている子供を慰めるかの様に、優しくそっと。

ジャンヌが伸ばした手からは、ラベンダーの心地よい香りが放たれる。


「一人ではありませんよ。もし、挫けそうな時は、心を解き放つのが一番です。あの銀の双眸を持つ猫にもお話をされていたように」


まるで幼い子に言う様に背中をトントンと優しく何度も叩くジャンヌ。

初めは、驚きのあまりジャンヌを凝視していたアウグストも、ジャンヌを抱き締めていた。

(な、何故....知っておる..あの猫の事を...。)


「.......ジャンヌ。あと3年から4年の間。其方はこの王宮に住む事になるが、大丈夫なのか?」


ジャンヌは、さあ?と言わんばかりに肩を竦めた。

それよりも、今のジャンヌには大きな問題が待ち構えていた。


「今 私が一番頭を抱えているのは、成人の儀で踊るダンスの事ですわ。ふー 上手く踊れるのかしら….。ダンスなんて無ければ良いのに...」


「ダンスは、苦手なのか?」


「嫌いです。ああ、成人の儀なんて無ければ良いのに...」


不安そうに口を尖らせるジャンヌは、15には到底見えない。そんなにダンスが苦手なのだろうか...。ジャンヌのコロコロと変わる表情に、アウグストもつい笑顔が出てくる。

ジャンヌは、思いついた様にパン!と両方の手を合わせて音を鳴らすとアウグストの顔を見た。


「そうだ!アウグスト様は、ダンスがお得意なのでしょう?でしたら、私に教えて下さい。そうすれば、私もあなたの事をもっと分かる事が出来ますし」


アウグストは、ジャンヌの言葉に驚いた様に目を真ん丸にした。そしてクスッと笑っている。


「ジャンヌ。お前は本当に変わっているな。普通の娘ならば、どうやって私やディートリッヒに取り入ろうかと手をくすね居ているのに。お前は、成人の儀にしか集中しておらん。」


可笑しそうに笑っているアウグストを見ていたジャンヌも、つられて微笑んだ。


「アウグスト様。やっと笑ってくれましたね。あなたの本当の笑顔が見れて、私は嬉しいです」


ジャンヌは、そう言うと両腕を大きく伸ばすして伸びをしている。そして鈴の音の様な声で「解除」と一言呟くと蒼い結界がたちまち消えて行った。


「では私、そろそろ別邸に戻りますわ。アウグスト様、ダンスのご指導、お願いしますね。では、失礼します」


ジャンヌがドレスの端を少し持ち上げて礼をすると、さっさと別邸の方へ帰ってしまった。

一月のこの季節は、普通連日のように雨やみぞれが降るのだが、今日に限って春のような温かさを感じる。

アウグストは、自分の薄い唇を指でそっと撫でると微笑んだ。


「本当の笑顔か….」


アウグストは、いつも微笑を讃えていたが、それは作られたもの。その微笑を見て、他の貴族や臣下達が自分の事を「太陽の君」だと言って居る事は知っていた。

偶像を奉り上げる様に、自分の作られた微笑に心をときめかせている女達を見る度に、アウグストは表面は笑顔で笑っていても心の中では彼らを冷笑していた。


「ジャンヌ...か。本当に変わった女だ」

アウグストの幼少時代です。

どんな病気?と突っ込まれたら...やっぱ免疫生がなかったと言う事にしてます。

沢山のアクセスありがとうございます。

誤字脱字は、なるべく無いように何度も文章をチェックしておりますが、それでもあるのだと思います。そのような時は「ここ間違っています」と教えて下さい。漢字のおさらいにもなりますので。


Knight bug

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