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魔剣の君  作者: Blood orange
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王都 第一日目 ② 

先触れの者が謁見の間に入って来ると王達の入室を告げるとお付きの者達に寄って、王族だけが通れる豪華な彫刻が施されてあるドアが重たい音を立てながら、ゆっくりと開く。

ジャンヌ達は、玉座が並ぶ前でお辞儀をして、王達がそれぞれの玉座に座るのを待っていた。

衣擦れの心地よい音が謁見の間に、響くと低いバリトンの声がこの部屋の空気を揺らした。


「久しいな。トスポートル男爵」


ベンジャミンは、今回の謁見とそして愛娘ジャンヌの成人の儀の後ろ盾となった王に感謝の言葉を伝えた。父が王様と言葉を交わしている間、男爵夫人であるジャックリーンと娘のジャンヌは顔を下げたままで居た。


「お久しぶりですわね、ジャックリーン。明日の茶会を楽しみにしてますよ」


王妃から言葉を掛けられ顔を上げたジャックリーンは、王妃の隣に座してる2人の王子達を見た。

まあ、本当に噂通りの太陽の君と氷の君ですわ。 噂に違わぬ見事な金髪碧眼。彼が太陽の君と呼ばれるのは、この世界の太陽神アクゥールの壁画から来ている。 

太陽神アクゥールは、一見女人かと見間違うほどに、美しい。細い柳眉、彫りが深く鼻筋が通った所など、まるで彫刻の世界から飛び出して来たかのようだ。

加えて金髪碧眼。あの碧眼で見つめられれば、獰猛な獅子でも大人しい子猫の様に懐いてしまうと言う伝説がある。

名前は、アウグスト。第一王子だが、体が弱いと聞いている。日中はさながら本の虫と言う事を他の貴婦人達から茶会で聞いた事があったわ..。


「お招きいただいて、恐縮でございます。私も明日のお茶会をとても楽しみにしております」


ジャックリーンは、アウグストの隣に座っている氷の君を見ると、とても驚いた。

まるで月光をその髪に宿したかのような見事な銀髪に、ジャックリーンも息を飲んだ。こ、この髪の色って、まさかマーサが言っていた別邸の庭でジャンヌと一緒に居た若者では...?

氷の君と呼ばれる第二王子ディートリッヒ。

自由奔放なお人で、帝王学に秀でていて、この国の将来を背負って立つに相応しいと言われている方だと耳にしている。確か.....一月前にに第二王子の事を良く思わない何者かに王家の森で命を狙われたとか...。 

そう言えば、ベンジャミンも確か同じような事を言っていたわね....その時に、どうやらジャンヌが助けたのではと...。ジャンヌも丁度 一月前に王家の森で鎖蛇の毒で行き倒れになった人を介抱したのだと言っていたけど、まさか.................。ジャックリーンは、自分の隣で俯いたままのジャンヌを見ていた。

この子は、長老様の予言通りに太陽と氷の争いに既に巻き込まれてしまっていたなんて...。ジャンヌはまだ、輿入れの事さえも知らない。

この成人の儀は、王侯貴族達に取ってみれば、未来の自分の花嫁または、側室を選ぶ基準になっている。しかも、今回ジャンヌの場合は、王自らがジャンヌの後ろ盾として成人の儀を執り行うと言っている。それは即ち、ほぼ王家への腰入りが決まったと言う事なのだ。


王は、男爵に自分の娘を紹介する様に言うと、男爵は震える声でジャンヌを彼らに紹介した。


「これは、私の一人娘でジョセフィーヌ シュスラード フォング ミハエル トスポートルでございます。ジャンヌ挨拶なさい」


父親に自分のフルネームを言われて、上がってしまったジャンヌはカチカチに固まっていた。

その時に、ジャンヌは自分の胸に手を置くと深呼吸をして体の緊張を和らげると、ゆっくり顔を上げて来た。窓から赤い小鳥や青い小鳥達が入って来るとジャンヌの周りを飛び回り、ジャンヌの肩に止まった。


「はい。父上。ジョセフィーヌ シュスラード フォング ミハエル トスポートルです。ジャンヌとお呼び下さい」


顔を上げたジャンヌはそう言うとドレスの両端を持って軽く礼をした。使者の方に習った通りのお辞儀をやってみると玉座に座っている方達4人とも目を丸くして自分の顔を見ている。

王は、ジャンヌの銀の双眸を見て驚いていた。


「ほう...成る程。バトラー伯爵がトスポートル男爵の娘は珍しい瞳を持っていると言っていたが、真だな。本当に素晴らしい銀の瞳をしておる。ディートリッヒ、この娘に間違いは無いのか?」


王はディートリッヒにそう聞くとディートリッヒは、立ち上がってジャンヌの前に跪くと彼女の手を取り、立ち上がらせて父王の前へと連れて来た。


「ええ。彼女です。間違えありません。あの王家の森で私の命を救ってくれたのは、天使と見紛う程に輝く金の髪に銀の双眸、彼女の声は天使の歌声の様に私の心を一瞬で鷲掴みにしてしまいました」


ジャンヌは、自分の手を取って隣に立っている人が、あの時自分が助けた若者。

そして今朝偶然にも別邸の庭で会った若者が、この国の第二王子だと言う事を知り、銀の双眸をもっと大きく見開いていた。

ディートリッヒ王子の話を聞いていたレゼンド王は、楽しそうに頷くと太陽の君と呼ばれるもう一人の王子の顔をちらりと見ていた。

アウグストは、面白そうに2人を見ると自分の玉座から下りて、ジャンヌの前に来た。ジャンヌは、驚いた顔で、アウグストを凝視していたが、彼の碧の双眸があまりにも寂しそうに光っていたのでつい言ってしまった。


「どうして、あなたは そのような寂しい瞳をされていらっしゃるのですか?」


太陽の君と呼ばれるアウグストは、王宮の者達に愛されていると言われているのに、どうしてこのジャンヌと言う娘は、自分の廃墟な心を知っているのだ....。

いきなりそんな事をジャンヌに言われたアウグストは、眉を顰めたがすぐに微笑んだ。


「何故、そう思うのだ?」


「あなたの瞳の奥で、小さな男の子が泣いているからです」


ジャンヌの言葉にピクリと肩を震わせたアウグストは、笑顔でジャンヌを見ていたが目は笑っていなかった。....この娘、何を知っている...。どうして私の心をかき乱すような事ばかり言って来るんだ...。

アウグストは、目の前のジャンヌに何もかもを見透かされている様に思えて仕方無かった。


第一王子とは名ばかりで、自分は幼い頃から体が弱く、何かと双児の弟ディートリッヒと比べられて来た。体の方も漸く健康体となり弟のディートリッヒに追いつけ追い越せと言わんばかりに、剣術、帝王学、経済学、宗教、算術、馬術など必死に習って来た。

そのおかげか、小さい頃は自分に見向きもしなかった臣下や貴族達が、たちまち猫なで声を上げるかの如く、自分の前に懐いて来た時には、空笑いしか出なかった。

コイツらが欲しいのは、自分が王を継いだ時に、少しでも甘い汁を据える様にする為の物なのだと。今までは空気のような扱いだったのが、こうも違う様に変わるとは、笑わせてくれる....。

それ以来、アウグスト王子は、自分の心に仮面を付けてしまった。例え表面では笑っていても心では相手の事を疑り、腹の探り合いしか出来なくなってしまったのだ。


「そんな事を言われたのは、あなたが初めてですよ。ジャンヌ。父上お願いがあります。ジャンヌを私の離宮に住ませたいのです」


それを聞いたディートリッヒは、慌てた様に父王に進言した。


「父上、それはダメです。ジャンヌは私の命の恩人でもあります。彼女はぜひとも私の離宮に」


レゼンド王は、面白そうに太い眉をピクリと片方だけ器用に上げると、顎髭を左手で包む様に触っていた。今まで誰にも興味を示す事が無かったアウグストが、今日初めて見るジャンヌにこれだけ執拗に興味を示すとは、面白い。 かと言って、ディートリッヒの言う通り、ジャンヌはディートリッヒの命の恩人でもある。 ふむ....。

ヒゲを撫で考えていたレゼンド王は、ジャンヌに問う事にした。


「ジャンヌよ。もし、お主が伴侶を選べるとしたらどちらが良いか?」


レゼンド王の言葉に、隣に居た王妃は、溜息をついた。この王に任せて喋らせたのが、不味かったのだと。王にいきなりそんな事を言われたら、普通の娘なら固まってしまうのに何を根拠にそんな事を言い出すのか...。

お家騒動でも起こしたいのか!と今にも怒り心頭な勢いで無神経な夫であるレゼンド王を睨むと、拳を作ってワナワナと肩を震わせていた。


しかしジャンヌは、にっこり笑うと2人の王子の顔を見ていた。


「そうですね...。今直ぐには出来ません。お家騒動にも発展しかねませんから。それに私はお二人の事をあまり存じておりません。ですから、ゆっくり時間をかけてお付き合いして行こうと思います。初めは、お二人のお友達になりたいですわ。幸いこの国の婚期は、女性が18〜19なのでそれまで、この答えは持ち越しとなりますが、宜しいでしょうか」


ジャンヌの言葉にレゼンド王は、にこやかに微笑むと何度も頷いていた。

王妃は、ジャンヌの考えに関心を示していたが、彼女は自分から進んでイバラの道を選んだと言う事には代わりは無いのに.....と心の中でジャンヌに深く同情をしていた。

ベンジャミンは、横でハラハラした表情でジャンヌを見ていた。

(よ、予言が当たってしまった.....。これでお家騒動間違え無し。どっちを選んでも確実に第一王子派と第二王子派に別れてしまう。よりに寄って、お二人の父親であるレゼンド王がそんな事を15才にしかなっていない、男爵家の娘に聞く事なのだろうか....。これでこの国は終わりかも知れん....。)

父ベンジャミンは、心の中で大きく溜息をつきました。


ジャンヌは、そんな事よりも今後の成人の儀を行う為の礼儀作法のレッスンの事を考えていた。成人の儀は、王から新しくその家の紋章が着いた首飾りを承るのだが、問題はその後なのだ。後半は、ダンスを踊る事になっているのだが、ジャンヌはダンスをキチンと最後まで踊った事が無く、習う前から苦手意識が着いてしまったのだ。(何度か、父ベンジャミンに習ったのだが、一曲終わるまでに、ベンジャミンの足は、何度もジャンヌに踏まれてしまい、途中棄権したのだ。)

しかも、ダンスは4曲連続で踊る事になっている。今回自分の成人の儀の後ろ盾となってくれた王と一曲、父と一曲それから、王子達と一曲ずつの計4曲。

その事を思うとジャンヌは、心の中で深いため息を付いた。

少し変えさせていただきました。

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