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魔剣の君  作者: Blood orange
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魔王召還

カクカクと不気味に鳴り響く傀儡くぐつの音がサシュルートの城の中に木霊する。

城の中も、王都と同じ様に皆時が止まったままの様に、止まっている。

噴水の水も水浴びをしていた小鳥さえも、洗濯女達が慌てて樽の中の水を城の回廊である石畳の上に零してしまい、それで滑った大臣の身体も、宙に浮いたままだ。

ここで動いているのは、定められた運命の者達だけである。

ジャンヌの身体に、魔術とジャンヌ本人の影で作った魂を入れるとジャンヌは、眼を覚ました。

目の前に居る者達に、ジャンヌは深々と頭を垂れると「我が命を魔王復活にお使い下さい」そう告げた。

それを聞いた2つの黒い影は、肩を揺らしながら笑い出した。


「もうすぐ、もうすぐだ。私達の願いが叶うんだ!」


「姉上。これまで私達姉弟は、本当に不幸だった。それもこれも、みなフレデリックとアーサー王のせいだ! 彼奴等、我ら一族が一子相伝の秘術である傀儡師の術を邪道だと申すとは....」


イライラとした口調で男はそう言うと、頭に被っていたフードを下ろした。男は、この世界ではとても珍しい赤銅色の髪をしていた。この髪の色は、一子相伝で伝説の傀儡を操れる傀儡師の証だった。その男の横に居るのは、男から姉上と呼ばれていた女だった。

彼女が被っていたフードも下ろされると、横にいる男と同じ様に赤銅色の髪をしている。

2人は、姉弟と言うよりも恋人同士の様に抱き合うとお互いの唇を貪り合った。


「今は、あなたの身を感じる事が出来ないのが悔しいが、我らがギャマン=ルートの一族の恨みをこの世界の者達に知らしめてやるのさ。魔王が復活した暁には、私は姉上を妻として迎える...」


姉上と呼ばれた女性は、ニッコリ微笑むと弟の身体に手を突き刺した。


「この緑の魔石は、お前が持っていなさい。もう1つは、私の身体の中に入っているから」


そう言った女は、自分の腹を優しく撫でた。

ジャンヌに立ち上がる様に言うと、祭壇に横たわらせた。

太陽の光を集めたような金糸のように流れる髪。開かれる銀の瞳には、感情も何もない。


「ジャンヌ達は、必ず此処にやって来る。魔王復活を阻止するためには、魔剣に着ける三色の魔石を着けなければ、何も意味をなさない。彼奴等には、この緑の魔石の力が、絶対に必要ですから」


女は、慣れた手付きでジャンヌの髪をブラシで梳かす。

ブラシに着いたジャンヌの髪を取ると、黒い釜の中へ入れた。其処には、虫鯨の粉、鎖蛇の干物、紫砂糖石の華、火龍の肝、そしてトロルの目玉が入っていた。

釜の上で呪文を唱え始めると釜の中が、紫色に鈍く光った。

それをジャンヌが横たわっている寝台の周りにある溝に流し込むと、ジャンヌの身体を中心として大きな魔法陣を描いた。


「恐ろしく血腥い大地に眠る暗黒の魔王よ。我がギャマン=ルート一族の名に掛けて召還を行う。我らの生け贄を治めよ!」


暗い部屋に一筋の光が入り込むと、紫に縁取られて描かれた魔法陣が薄くなって来た。

魔法陣の中心に横たわっているジャンヌの身体から、白い煙が細く棚引くと、2人はゴクリと唾を飲んだ。


その時、扉が開かれると、魔法陣を作っていた紫色の液体が、光に当たり、一部ジュッと音を立てると共に、蒸発して消えてしまった。


「何ヤツ!我らの崇高な儀式を邪魔する者は!」


そこに立っていたのは、ガゾロとアウグスト、そしてディートリッヒの三人だった。


「ま、間に合ったか?!」


「多分...」


「そのようじゃな」


アウグスト、ディートリッヒ、ガゾロの順で口を開いた。

サシュルートの城の地下では、今まさに魔王を召還しようとしていた所だった。

2人の男女が黒い頭巾が着いたマントを被って、魔王召還の呪文を唱えていた所だった。アウグストは、剣を抜くと女の方に向って、動くなと言うと、ディートリッヒが鞭を使って、2人のフードを落とさせた。

顔を隠していた2人のフードが、ディートリッヒの鞭に当たり、落とされると三人は息を飲んだ。


「お、お前は....ジャンヌの所にいた侍女じゃないか...」


顔を上げた男の方を見て、ディートリッヒは鞭を手から落とした。


「う、ウソ...だろ?」


男は、ディートリッヒを見るとニッコリ微笑んだ。


「ええ。ウソではございませんよ。ディートリッヒ様。あなたは本当に教えがいのある王子でしたよ。このまま犬死にするのは、惜しいですね。それなら、いっその事 彼女ジャンヌと一緒に生け贄に致しましょう。魔王復活の生け贄となるとなるんですから最高の名誉ですね」


ジャンヌの侍女マーサとディートリッヒの教育係兼騎士のアルフレッドだった。彼等は、自分達の養父であるバトラー伯爵を生け贄として、虫鯨むしくじらを蘇らせた。

彼等の父は、ガゾロやレゼンド王、王子達を慕いそして、妬んでいた。

そこへ魔剣が光の筋と共に、空の彼方からサシュルートの城の中へと飛んで来た。

床に突き刺さった魔剣は、丁度ジャンヌの身体が横たわっている所に刺さっていた。

魔剣の輝くばかりの光に、魔術で作られてジャンヌの身体の中に入れられていた魂は、光の力で浄化すると今度は本物のジャンヌの魂が身体の中に入った。

ゆっくりと目を開けたジャンヌは、目の前にいる2人を見て驚いていた。


「どうして...」


ジャンヌの言葉を聞いたマーサは、クスクスと笑い始めた。


「どうしてだってよ。アルフレッド、答えてあげましょうよ。可愛くて愛らしい未来のサシュルートの皇太子妃に...。平和を愛し、戦いを望まない生温い半端な気持ちでしか、人を愛せないバカな娘。まさか、自分が信頼していた侍女が魔王を召還しようとしていたなんて夢にも思わなかったんでしょ?」


ジャンヌは、銀色の双眸を揺らしながら叫んでいた。


「どうして!? あなた達が魔王を呼び出そうとしているの?」


「良い子ちゃんをしていたいアンタとは、違ってこちとら何千年も煮え湯を味わって来たのよ。あんたに私達の気持ちなんて分かってるの?フレディリック王の服を汚したからと言って、村を滅ぼしたあの暴君の血をあんたは、引き継いでいるのよ。あんたが、戦いを望まなくても、アンタを巡って周りは戦い始める。因果な物だねぇ。あんたを巡って2人の王子が戦うんだよ」


2人はクスクスと笑うと、アルフレッドはジャンヌの長い金髪を指で梳かして、愛しそうにジャンヌの金髪に口付けをする。


「双子の王子が生まれるのを何千年も前から待って居たのさ。だが、悔しい事に、クリシャーナの力が強くてな・・・。双子の王子は生まれなかったのさ。 なら、作れば良い、俺はそう思ったのさ」


それを聞いたジャンヌの銀色の双眸は、大きく見開いた。アルフレッドの言葉を聞いたディートリッヒは、愕然となり、両膝を着いた。手はだらりと垂れると鞭が、ゴトと言う鈍い音を出して床に落ちた。彼の目から涙が溢れてくる。幼い頃に自分をずっと守ってくれていたのは、他ならぬアルフレッドだった。なのに、まさか彼がこの世界を滅ぼすためにオレ達双児をこの世に出させたなんて...。


「う、ウソだろ? ウソだと言ってくれ! アルフレッド!」


床に突っ伏して泣き叫ぶディートリッヒ。一番信頼していたアルフレッドの言葉に傷つき哀しんでいるディートリッヒを見て、ジャンヌの銀色の双眸から、溢れ出す様に零れ落ちてく、涙が頬を伝って流れる。


「あ、あなた達は、なんて言う事を‼!それは、神を冒涜する行為だわ‼ 」


クックックックと笑い出すアルフレッドは、ジャンヌの顎を掴むと、乱暴に唇を重ねた。


「!!」


アルフレッドの唇を噛んだジャンヌの口の中は、鉄の味が広がった。

バシンと頬を叩かれたジャンヌは、魔窟の壁に吹っ飛ばされると、気を失った。

ガゾロと2人の王子達は、トロル達が作った大きな檻のような物が、上から降って来るとそこに閉じ込められてしまった。

「!!」

「これで面倒な手間は省けたわね。孤独の王子達と我らの血を絶やそうとした憎気サシュルートの犬ーガゾロは、そこでこの世界が朽ち果てるのを見ていろ」


アルフレッドが両手を広げると、瞬時にして城の地下深くにある古い神殿に移動した。ガゾロは、アルフレッドの魔力の高さに驚いた。(まさか、ここまで高い魔力を持つ者がいるとは.....。彼奴は、只の青二才じゃないようだな....)

マーサの声が、魔窟の中で木霊する。

ジャンヌの身体は、黒曜石の寝台に乗せられると目隠し(アイマスク)と首輪、手枷足枷を装着された。

ジャンヌに装着された物は、全てトロル達が作った物だった。

アイマスクからは、直接ジャンヌの銀色の双眸の力を吸い取る事が出来る。

首輪は、蒼の魔石の力が。そして、両手に着けられた手枷からは、赤い魔石の力が。両足に着けられた足枷からは、ジャンヌの魔力が吸い取られて行く。

ジャンヌの身体は、電撃を連続で受けているかの様に、寝台の上で跳ねる。

それを楽しそうに見ているアルフレッドとマーサだった。


ディートリッヒは、まだ信じられないと言う顔でアルフレッド達を見ていた。

暗い地下神殿に連れて来られたジャンヌ。目を覚ますと自分の周りにあるのは、不気味な程沢山のロウソクの明かりだった。

何とか今居る場所から出ようと、寝台から降りようとするが、手枷足枷に魔力を昼の様に吸い取られて行く。

焦るジャンヌは、薄暗い室内で目を凝らして見てみる。

「!!!」

(間違いない!これは召還魔法で使う魔法陣だわ!こんなに複雑な物を一体誰が描いたのかしら? ディートリッヒでも、アウグストでもない..じゃあ一体誰?ガゾロ先生とは、一昨日会ったばかりでその後は、南の国へと会合に行かれてしまわれたし…。)

どう見ても、この魔法陣は上級者が描いたとしか言いようが無いのだ。

「一体誰が何の為にこれを描いたの?」


「我らの主を呼び出すためよ」


そこに立っていたのは、マーサとアルフレッドだった。

赤銅色の髪に緋色の眼と言う、この世界では滅亡した筈の一族の髪色を持つマーサ。そしてマーサと同じ赤銅色髪と緋色の眼のアルフレッドは、自分を見ている。


「どう言う事なの?マーサ?!」


クスッと笑ったマーサは、艶やかな笑みを浮かべるとアルフレッドの唇に口付けをした。


「私達は、この虫鯨を捕まえたのよ。ほら、可愛いでしょ?」


篭の中で蠢いている朱色の虫鯨は、キイキイと音を立てて泣き始めた。

それを聞いたジャンヌは真っ青な顔で両手で口を押さえた。

最高の生け贄で我らが主を呼び出すのよ。

金髪銀眼で青い魔石の力を宿す娘を使って、我らの主となる魔王を蘇らせるのよ。



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