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魔剣の君  作者: Blood orange
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王都 第一日目 ①

緑豊かな領地に囲まれていた男爵家とは違って、ここ王都は朝からとても活気が出ていて賑やかである。

ただ、空が今にも泣き出しそうなくらいに、暗雲が立ちこめている。 街の中は、石畳で出来ており、水はけも良い様に舗装されている。日干しレンガで作られている家は一つもなく、此処は石造りの家が殆どだ。

ジャンヌは、二階の窓際にちょこんと座るとブラシで自分の長い金髪を梳かしていた。 そしていつもの様に空に向って歌を歌い出した。


我は風に問う、何故 お前を縛る事は出来ぬ

我は雲に問う、何故 お前は光を拒む

風は、雲を押して我が光を街に照らさせておくれ


先ほどまで暗雲が立ちこめていた雲も、ジャンヌが歌い出すと、たちまち消えてなくなり後には清々しい青空と眩しい太陽が王都を照らし始めた。

そんなジャンヌを父ベンジャミンは、複雑な表情で見ていた。

確かに、我が娘ジャンヌは魔力に秀でた所がある。歌を歌えば、雨も呼ぶ鳥も呼ぶ、風さえも娘の言いなりになってしまう。

ジャンヌが幼い頃、森で迷子になってしまった時。ベンジャミン達は広く鬱蒼と木々が生い茂る森の中、幼いジャンヌを探していた。

暗い森の中で一人で、寂しく泣いているだろうと心配していたベンジャミン達は、森の動物達に囲まれて楽しく笑っているジャンヌを見て驚いたのだった。

ジャンヌは、動物達が食べ物が森に無いのと訴えれば、両手を天に翳し、胸の前で祈る様に手を合わせると地面に手をついた。

その途端に、森中の木々達は一斉に真っ赤な果実を実らせたのだった。


「あのジャンヌの力を他の貴族達に知られでもしたら、ジャンヌはたちまち女神だと祭り上げられ、それこそ自由が無くなる」


蒼い小鳥が三羽飛んで来ると、ジャンヌの肩に止まった。

小鳥達は、可愛らしい小さな嘴でジャンヌと話をしている。 ジャンヌは楽しそうに「そうなの。パン屋さんの奥さんに可愛い赤ちゃんが産まれたのね」と相づちを打っている。


赤い小鳥が別邸の周りをすぃーっと飛び回るとジャンヌの手の甲にチョコンと止まった。


(誰か、人が来るよ。ジャンヌ。)


「あら、もしかしてもう王様と会うお時間なのかしら?」


(ううん。違うよ。もっと若い人。ほら、あの茂みの影からこっちを見てるよ。)


ジャンヌは、小鳥達に言われた方向を見るとにっこりと微笑んだ。茂みが大きく動くと銀髪の若者が倒れていた。ジャンヌは、驚いて階下に駆け下りると別邸の外へ出た。

手には、膏薬や湿布を入れた袋をしっかりと持って。周りを見渡すと先ほど茂みの影に隠れていた人がまだ伸びていた。ジャンヌは、その若者に近づくと目を丸くした。


「まあ、この方はこの間、クサリヘビの毒で半分死にかけていた人だわ」


怪我していないかと色々調べてみたが、ただの気絶しているだけのようだった。目に隈も出来ているようだから、恐らく何日も十分な睡眠が取れていないのだろう。ジャンヌは、手を合わせ何かを念じると芝生の上に両手を着いた。

側に生えていた木が一気に生い茂ると立派な樹木にまで成長した。

ジャンヌは、突如出来た木陰を見て、その若者の頭を自分の膝の上に乗せた。

流れるような長い銀髪を指で撫でながら、時がゆっくりと過ぎるのを待った。


先ほどまでは無かった大きな樹木が別邸の側に生い茂っている。まだ新年が明けて間もない冬の季節だと言うのに、何故 新緑が生い茂っているのだろう...。時々自分の顔を照らす日の光を受け、眩しそうに薄めを開けたディートリッヒの真上に見たものは、太陽の光を全て自分に纏ったような光り輝く金の髪に白い肌を持った少女だった。少女は本を読んでいて、たまに視線が上に上がったりする。その大きな瞳には、この世界では希有と言われている銀の双眸。

あの時の天使....


「ジャンヌ様〜。ジャンヌ様〜」


別邸の中から侍女の声が聞こえて来た。ジャンヌは、「ふふふ 」と笑うと掌を差し出すと上から果実がゆっくりと下りて来た。その果実にそっと息を吹き込むと果実は、フワフワと蝶の様に舞いながら侍女の方へ飛んで行った。

侍女は、フワフワと浮遊して来た果実を見ると、溜息をついた。


「ジャンヌ様〜。後二時間後には、謁見の間に行く事になっていますからね〜。後半刻で帰って来て下さいよ〜」


ジャンヌが居なくなるといつもこの侍女は、ヒヤヒヤさせられる。その度に自分は近くに居るから心配するなと言う意味で、いつも果実を魔法で浮遊させて自分の居場所をそれなりに教えているのだ。

侍女も毎度の事だから慣れては居るのだが、まさかこの王都でも、男爵家でやっていた事と同じ事をされるとは思っても見なかったからだ。


ジャンヌと言うのか....確かに不思議な色の瞳をしている。それに、蒼い石の力で髪まで蒼く見える。


ふと目を覚ましていたオレと目が合ったジャンヌは、「良かった。目覚められたのですね。」そう言うと優しく微笑んだ。

「もう、あの時の傷は良いのですか?」

「あ、ああ。あの時は、助かった。あり...」


ディートリッヒが礼を言いかけた時、別邸から声がした。


「ジャンヌ様〜。そろそろ半刻ですよ〜」


「ごめんなさい。もう行かないと。マーサに怒られちゃうわ。樹木も私が離れたら元通りに戻っちゃうけど、ごめんなさいね。また会いましょう」


オレが起き上がるとジャンヌは、一気に自分だけ捲し立てる様に話すと、溢れんばかりの笑顔をオレに向けて別邸へと、駆けて行った。


オレは、徐々に木陰が小さくなるのを感じるとさっきまで大空を覆い尽くすかのように大きかった樹木が小さな若木に戻っていた。

ジャンヌか...面白い娘だ。

ディートリッヒは、芝生の上で大きく伸びをすると腰まである長い銀の髪を手で梳かし、ゆっくりと立ち上がると橋を渡って城へと入って行った。


その頃、ジャンヌはマーサに叱られながら質問攻めに合っていた。

「ジャンヌ様!もうああいう事は慎んで下さい!長老様とお約束なさったんでしょ? 淑女になりますって。朝っぱらから別邸を抜け出す淑女など、この広い世界を探しまわってもジャンヌ様しかいませんよ。全くもう!」


ジャンヌは、湯浴みの最中からずっとマーサのお小言を聞いていた。いつもの事ながら、今朝の自分の行動でどれだけマーサに心配をかけたのかは、よく分かっている。だけど、確かめたかった。 あの時の怪我人が本当に無事なのかどうなのかを..。

腰までの長い金の髪も綺麗に現れ、体にはジャンヌが好きなラベンダーの香りを取入れた香油をたっぷり刷り込まれた。

元から細いジャンヌはコルセットも布のコルセットを着けらると、あまりのキツさに溜息を吐いた。


「ジャンヌ様。もう少しキチンと食べて頂かなくては、育つものも育ちませんよ。それに、このような場所であの力を使われるなんて、何て無防備な..! 」


マーサは、子供の頃からずっと世話をしてもらっているからか、ジャンヌに対してズケズケと言って来るのは、いつもの事だからジャンヌもマーサの前では、蒼の石の力を使っている。

ジャンヌは藤色のドレスを着せてもらうと嬉しそうに微笑んだ。


そこへ父親のベンジャミンがドアをノックすると中へ入って来た。

「ジャンヌ。支度は出来たのかい?そろそろ謁見の間へ行く時間だよ」

今までのお転婆娘だったジャンヌが、まるで貴婦人の様に着飾り其処に立っていたのを見て、ベンジャミンは「年を取ると涙もろくなるな..」と言って目尻を下げながら潤んだ瞳でジャンヌを見ていた。


王宮からの迎えの使者がやって来た。

王達との謁見は午後からなのだが、ジャンヌの為に使者は時間を取って謁見前の事前のリハーサルを何度も練習する事になったのだ。

お辞儀の角度、長いドレスの裾さばき、歩き方や立ち振る舞い、そして受け答え方まで、ジャンヌは顔の筋肉が引き攣る思いで、短時間の集中特訓を受けていた。

漸く合格点が貰えて、休憩に入った。椅子にどかっと座ったジャンヌを見て、使者が「例え休憩時間でも、レッスンはレッスンですよ。さあ、もう一度座り直して下さい」

手厳しさは、まるでマーサのようだ。

軽い昼食の時もジャンヌは、食べ物を食べようとしてもマナーの事ばかり気にしてしまい、フォークを落としてしまう。疲れた...。そう思いながらも早く自分の家へ帰りたいと思い始めた。


少しの事でしょげている娘を見て、ベンジャミンはワザとジャンヌの負けん気根性をあおるような事を言い始めた。


「このような事で拗ねて、まさかスゴスゴと家へと帰るつもりじゃないかい?」


それを聞いたジャンヌは、キッと父のベンジャミンの顔を見るといつもの負けん気を闘志に変えて鼻息荒く言い返して来た。


「父様。私は長老に約束したんです。素敵な淑女と成れる様に頑張ると....。だから、負けませんし、投げ出しません!」


ジャンヌがそう言い返して来ると、ベンジャミンは、クルリと背を向けるとクスッと笑った。

例えどんなに外見が変わろうとも、ジャンヌはジャンヌのままなのだ。

少し遠い目をしながら、礼儀作法を学んでいるジャンヌをベンジャミンは、温かい眼で見守る事にした。



遂に王との謁見の時間となった。 使者は、ジャンヌににっこりと微笑むとジャンヌの手を取った。


「良いですか、ジャンヌ様。私が教えた通りにやって下さい。朝からとはいえ、ジャンヌ様は根を上げる事無くキチンとされていますよ。これからがとても楽しみです」


ジャンヌは、ドレスの裾を軽く持ち上げると会釈をした。それを見た使者は満足そうに、何度も何度もベンジャミンに向って頷いていた。

先触れの使者が謁見の間に入って来ると、「もう、間もなく王様達が参られます」

その声にジャンヌは、王族だけが通れる豪華な彫刻が施されてあるドアを見ると、覚悟を決めた様にお辞儀をしたまま彼らが来るのを待った。

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