仕掛けられた罠3
2人の王子達が、戦いを始めている頃、ガゾロ達はジャンヌを連れて龍の谷の奥へと入って行く。
其処に一体何が待ち構えているのかも知らずに。
鞭が撓る音だけが響く。
「が、ガゾロ様.....あれでは、王子達が死んでしまいます」
「ジャンヌ様、今は王子達を信じましょう。今はそれだけでございます...もしここにアレがいてくれたのなら....」
ガゾロの青い瞳が寂しく光る。
そう、アレがいてくれたら、もう少し状況が変わったかもしれない....。
鞭の音がピタリ止まると、三人は王子達がいる方を振り向いた。
岩壁に反射する白い光と金の光がぶつかり始める。
「とうとう魔術勝負となってしまったのか...」
ガゾロのやり切れない声がジャンヌの耳に聞こえた。
「と、止めなきゃ!」
ガゾロは、ジャンヌの肩を掴むと目を伏せ首を横に振った。
「此処にいては、我々も巻き添えを食い増すぞ」
嫉妬と憎しみの塊と化したディートリッヒには、目の前にいる自分の双児の兄ーアウグストを倒す事だけを考えていた。
「何でだよ...。父様も、母様もそして第一王子と言う地位までも奪っておきながら、僕にはジャンヌしか残っていなかったのに...。そのジャンヌまで僕から奪うのか!!アウグスト!散れ!灰となれ!」
ディートリッヒの全身から炎の龍が出て来ると、炎の竜はアウグストに向って口から炎を吐いて来た。
「火龍を召還させたのか...やるな..ディートリッヒ。さすがは、私の弟だ。だが、私も言わせてもらおう。お前の付き人が仕込んだ毒のせいで、私も傷つきそして私の大事な騎士は死んだ。その償いはしてもらうぞ...ディートリッヒ!」
「何を言うかと思えば、それは僕の知った事じゃない!」
「黙れ!シルベスターを返せ!」
アウグストは、それを水の盾で防ぐと、水神ーマクロスを召還させると炎の龍の攻撃を全て躱させた。
ディートリッヒの目には、あの時の回廊での出来事と重なった。
『お前さえいなければ、俺達の子供は死なずにすんだんだ! 俺達の幸せを返せ!俺達の子供を返せ!』
龍の谷は、奥へ進めば進むほど、硫黄の匂いがキツく嗚咽が混じる程、息苦しい。
三人は、何とか2人の王子達の戦いを止めさせようと泣き叫んでいたジャンヌを連れて奥へと歩いていた。
辺りに立ちこめる硫黄の霧か、霞。
視覚、嗅覚までおかしくなって来て三人は、歩くのもやっとの状態になっていた。
「ガゾロ様! アウグスト様達をお止めしなければ...」
首を横に振るガゾロに、ジャンヌの銀の双眸は濡れていた。
「何故、このような事に....。やはり双児の王子達は、呪われていたのか...」
ガゾロが、岩壁にもたれる様に立つと、ミシミシミシと音を立てて、壁が崩れて行った。
「「ガゾロ様!!」」
アクアとジャンヌがガゾロに手を差し伸べるが、ガゾロの重い身体を女の細腕で引き上げる事など出来るわけない。
龍の谷の地熱が硫黄の匂いを更に強くさせている。
汗ばんだジャンヌの細腕から、ガゾロの腕がずるりと滑り落ちる。
「ジャ...ジャンヌ様....もう宜しいです。私は十分生きました。あなた様という希望の光まで私の様な老いぼれを助けないで下され」
「五月蝿い!私は、其方がいなければ困るの!だから、そんな事を言わないで!だ、誰か助けて!!」
ジャンヌの叫び声が龍の谷に響き渡った。
魔術師のマントが、ジャンヌの視界に入るとガゾロの腕を掴み引き上げた。
フードを深く被っていてまだよく顔が見えない...。
一体、誰なの?
ガゾロが、自分を助けてくれた人を見上げると、青い双眸を見開いた。
「ま、まさか....そんな筈は....」