仕掛けられた罠2
傀儡師は、魂の入っていないジャンヌの身体にそっと唇を寄せた。
ジャンヌの身体から漂うジャスミンの香りに、満足しながら水晶玉を覗いていた。
「さあ、どちらの王子が その人形を物にするのか....見物だな...。そして、自分の兄弟を倒してまで手に入れた女が、ただの人形だったと知った時の顔を見てみたい物だ...。それこそ、滑稽だろうな。ふふふふ」
水晶玉に映る2人の王子達は、己の欲するままに戦っていた。
初めは剣を使っていたが、剣術はどちらとも互角の腕前。
遂に、2人の剣先が折れてしまい使い物にならなくなった。
アウグストは、腰に着けていた鞭を手に取ると、ニヤリと笑った。
彼の場合、剣術よりも鞭を使った攻撃の方が得意である。
そんなアウグストを見たディートリッヒも、負けじと鞭を手に取った。
「お前だけが、一番と言うのは許せないんだよ! 私も鞭を使った攻撃は得意だからな。過去に一度お前に負けて以来、私は私なりにお前に負けまいと努力を続けていたからな。己に自惚れていたお前とは違う!」
ディートリッヒが鞭を撓らせると、ガゾロ達はジャンヌを連れて少し2人から離れた場所で2人を見守る事にした。
ジャンヌは、ハラハラと涙を零しながらも2人の戦いを見守っている。
傀儡師は、その光景を笑いながら見ていた。
「鞭とは、面白い。ならば、龍の谷にいるのだから黒龍を寄越してやろう。あの2人がボロボロに傷つき、魔力を使い果たした時に龍に始末をさせればいい。後は、あのガゾロとか言う小賢しい魔術師だな...」
コツコツと水晶玉を人差し指で叩いていた傀儡師は、何やら面白い事を思いついたようだ。
ニヤリと微笑むと人形達の中から、一体の人形を選び出した。
その人形に、鯨虫の粉をかけると傀儡師は満足げに笑い出した。
「これは、シェスラードからの贈り物だと思わせればいい...。そすれば、彼奴も喜ぶだろう....」
ジャンヌの身体を抱き寄せ、首筋に頬ずりをしている傀儡師は、人形に龍の谷へ向う様にと告げた。
人形は、跪くと魔術を使って姿を消した。