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魔剣の君  作者: Blood orange
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仕掛けられた罠


ガゾロ達に助けられたジャンヌは、先程からアウグストの側に寄り添う様に立っている。

それを見ていたディートリッヒは、始めジャンヌを諦めようかと考え出したが、同じ母親から生まれし自分をどうしてジャンヌは選ぼうとしないのかと言う思いが、やがて双児の兄アウグストへの嫉妬心へと変わって行った。


私の声には反応せずに、アウグストの声にだけ....。

瞳や髪の色は違えど、同じ容姿に同じ声。

声だけでも、自分の両親さえも間違えてしまう程、良く似ていると言うのに、何故なんだ!?

なぜ、アウグストなのだ!


くらい洞窟の中をドンドン進む度に、地の底から聞こえて来る不気味な声。

それらは、周りの空気を震わせる。

押さえ切れない思いが、ムクムクと地の底から這い出て来る。

拳を握りしめたディートリッヒは、自分の前を歩いていた2人に声をかけた。


「アウグスト!」


ディートリッヒは、不気味に響く音に心をかき乱されたディートリッヒが、アウグストに向って手袋を投げつけた。

アウグストの背中に当てられたディートリッヒの手袋が、舞う様に床に落ちた。

彼が、クルリと振り向いたディートリッヒの方を向いた。

それを見たジャンヌは、ディートリッヒを宥めようと止めに入るが、ディートリッヒにはもう何も聞こえない。


「….本気なのか、ディートリッヒ?」


「当たり前だ。我が命を賭けてでも、貴様に勝ち、そしてジャンヌを手にするのはこの私だ 」


2人は、それぞれの魔法で剣を取り出すと、その場でジャンヌをかけた真剣勝負が始まった。

ガゾロも、もはや止める事は出来ない。

2人の剣がお互いの男の意地とプライドを賭けて、キリキリと張りつめた空気を震わせる。

アクアは、ガゾロに囁く。


「お二人の力量は?」


「お2人が戦われるのは、実に10年ぶりになりましょう。あの時は、両陛下の御前でしたので余興のようなものでしたが、それでもその時は、アウグスト様が僅差で勝利されましたが、今はどうでございましょうな…」


2人を見守る様に立っていたジャンヌは、どうしてこんな事が起きなくてはならないのかと叫んでいた。

魔王を復活させる者を止めるための旅が、どうして自分を取り合いになるような事になるのか….。あんなに仲が良かった2人なのに。私と言う存在のせいで、2人の仲が拗れている….。


この様子を水晶玉で見ていた妖しいフードを深く被った者が、指に絡ませた紅蓮の糸をクイクイと引っ張っていた。


「フフフ..... 何も知らない愚かな王子達。嫉妬の炎に燃えるお前の心は、この紅蓮の炎と同じ色で操ってやろう。 偽物の器にうつつを抜かしているおめでたいお前には....そうだな....裏切りのこの黄色で操ってやろう...。魔王様を復活させるために必要な生け贄として、舞踊ってもらおうか」


傀儡師が、不気味に笑いながら、ここまでこんなに事が上手く運ぶとは思っても見なかった。


ジャンヌの成人の儀式の時に、影を掠めとった烏は、傀儡師に薄皮一枚分の影を渡した。

烏としてみれば、本当ならばジャンヌの力が入っている陰全てを取り去りたかったが、魔力が上である傀儡師に逆らう事など許される筈もない。

不平不満を言う烏に、傀儡師は、「最高傑作を作るから、それをお前に授けよう」と持ちかけた。

烏は、その言葉に喜び勇んだ。

烏が消えた後、傀儡師は笑いながら人形を見つめた。


「ねえ。私の駒の一つになっただけなのに、あんなに喜ぶとは....なんたる愚かな化け烏だ。そう思うだろ? あの魔剣の君の身体は、私の物となるのに...おかしな烏だ...」


天井から吊るされた透明な操り糸で、宙づりになっている人形達。

その人形達の瞳には、何も感情を写さない。ただのガラス玉。

操り糸を手繰り寄せ、傀儡師は沢山の人形の中から、一体の人形を選び出した。

華奢な女の身体をしている人形ー

だが、顔はのっぺらぼうである。髪も生えておらず、胸の凹凸もない。人形を揺らすとギコギコと音がしている。

眉を少し顰めた傀儡師は、口角をあげると虫鯨の粉を人形に振りかけた。

木製の人形の身体が、人間と同じ柔らかい皮膚に覆われると、指先には、爪が生えて来た。


「フフフ.....。後は、この影を入れるだけ.....」


傀儡くぐつ師が、ジャンヌの影を人形にいれると、人形はゆっくりと顔の形を変えると、乳白色の肌を持つ乙女の姿に変わって行った。

人形の頭部からは、黄金色に光り輝く太陽の光を糸で紡いだような、艶やかで流れる髪が、生え揃う。

その人形の髪を丁寧にブラシで梳かすと、傀儡師は鏡を見ながらクックックと笑い出した。

人形の前髪を掻き分けてやると、ガラスのような瞳が見えた。それを見た傀儡師は、渋い顔をしていたが、少し考える様に顎に手をやると、ニヤリと黒く微笑んだ。


「おや、髪だけは本物の様になったが、瞳だけは 未だ無理のようだな… 」


傀儡師は、妖しげな呪文を唱えると満足したかの様に、人形の唇に紅をさした。


「本物の影が無くなる頃には、この人形に欠ける事のない満月のような輝きが入る。後少し…。すでに我が策に迷いし愚かな人間共よ。我を恐れよ。我に平伏せ」


人形の瞳が開かれると傀儡師は、満足したかの様に笑い始めた。



「最高の傑作だ」


傀儡師の目の前に立つのは、白い裸体を惜しげもなく傀儡師の前にさらしているジャンヌの姿だった。


「王宮魔術師とて、所詮は人間よ。人間は愚かな生き物。例えガゾロと言えども、私の人形は完璧だ 」


傀儡師の高笑いが、龍の谷に響いている。

ジャンヌを化け烏に渡した後、傀儡師は、本物のジャンヌの身体を王宮から攫うと暗い闇の中へと消えて行った。


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