表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣の君  作者: Blood orange
55/65

仕掛けられた罠


ガゾロ達に助けられたジャンヌは、先程からアウグストの側に寄り添う様に立っている。

それを見ていたディートリッヒは、始めジャンヌを諦めようかと考え出したが、同じ母親から生まれし自分をどうしてジャンヌは選ぼうとしないのかと言う思いが、やがて双児の兄アウグストへの嫉妬心へと変わって行った。


私の声には反応せずに、アウグストの声にだけ....。

瞳や髪の色は違えど、同じ容姿に同じ声。

声だけでも、自分の両親さえも間違えてしまう程、良く似ていると言うのに、何故なんだ!?

なぜ、アウグストなのだ!


くらい洞窟の中をドンドン進む度に、地の底から聞こえて来る不気味な声。

それらは、周りの空気を震わせる。

押さえ切れない思いが、ムクムクと地の底から這い出て来る。

拳を握りしめたディートリッヒは、自分の前を歩いていた2人に声をかけた。


「アウグスト!」


ディートリッヒは、不気味に響く音に心をかき乱されたディートリッヒが、アウグストに向って手袋を投げつけた。

アウグストの背中に当てられたディートリッヒの手袋が、舞う様に床に落ちた。

彼が、クルリと振り向いたディートリッヒの方を向いた。

それを見たジャンヌは、ディートリッヒを宥めようと止めに入るが、ディートリッヒにはもう何も聞こえない。


「….本気なのか、ディートリッヒ?」


「当たり前だ。我が命を賭けてでも、貴様に勝ち、そしてジャンヌを手にするのはこの私だ 」


2人は、それぞれの魔法で剣を取り出すと、その場でジャンヌをかけた真剣勝負が始まった。

ガゾロも、もはや止める事は出来ない。

2人の剣がお互いの男の意地とプライドを賭けて、キリキリと張りつめた空気を震わせる。

アクアは、ガゾロに囁く。


「お二人の力量は?」


「お2人が戦われるのは、実に10年ぶりになりましょう。あの時は、両陛下の御前でしたので余興のようなものでしたが、それでもその時は、アウグスト様が僅差で勝利されましたが、今はどうでございましょうな…」


2人を見守る様に立っていたジャンヌは、どうしてこんな事が起きなくてはならないのかと叫んでいた。

魔王を復活させる者を止めるための旅が、どうして自分を取り合いになるような事になるのか….。あんなに仲が良かった2人なのに。私と言う存在のせいで、2人の仲が拗れている….。


傀儡くぐつ師が、ジャンヌの影を人形にいれると、人形はゆっくりと形を変えると色白の乙女の姿に変わって行った。

人形の頭部からは、黄金色に光り輝く太陽の光を糸で紡いだような、艶やかで流れる髪が、生え揃う。

その人形の髪を丁寧にブラシで梳かすと、傀儡師は鏡を見ながらクックックと笑い出した。


「おや、髪だけは本物の様になったが、瞳だけは 未だ無理のようだな… 」


傀儡師は、妖しげな呪文を唱えると満足したかの様に、人形の唇に紅をさした。


「本物の影が無くなる頃には、この人形に欠ける事のない満月のような輝きが入る。後少し…。すでに我が策に迷いし愚かな人間共よ。我を恐れよ。我に平伏せ」


人形の瞳が開かれると傀儡師は、満足したかの様に笑い始めた。


「最高の傑作だ」


傀儡師の目の前に立つのは、白い裸体を惜しげもなく傀儡師の前にさらしているジャンヌの姿だった。


「王宮魔術師とて、所詮は人間よ。人間は愚かな生き物。例えガゾロと言えども、私の人形は完璧だ 」


傀儡師の高笑いが、龍の谷に響いている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ