南の国グラージクォン王国〜魔剣の秘密
誰かに揺り動かされて、ジャンヌは目を覚ました。
「此処は、一体何処なのだ?」
周りを見ても誰も居ない。自分の側に居るのは、雪豹のスノーだけだった。
ジャンヌの魔力で緑の魔石の半分を探す事になった。ジャンヌは自分が持っている蒼い魔石を手に取ると、心なしか体全体が透けて見える気がする。
手の中の魔石には、古代文字で何やら文章が刻まれて居る。
所々、うすくなっているが、読めない事はなさそうだ。
「えーっと何々?『二つが一つに成りし時、我目覚めん』って、どう言う事なのかしら?」
ジャンヌは、この世界の地図の上に魔石を置くと、魔石が光り出した。その光は、一直線に南の国へと続いていた。
南の国ー
それはグラージクォン。大天使シェスラードが、翼を休めた地とも言われている王国。
粗の国には、聖獣達の住む森がある。そこへ行く為には、魔力をもっと高めないとならない。
魔力が低い者達が、南の国へ入ろうとすれば、国境を越えた時点でその体が瞬時に灰と化してしまう。
言わば禁断の地へと足を踏み込まなければならない。
成人の儀式を受けた者で、高い魔力を持つ者だけが通れる凱旋門には、シェスラードとクリシャーナ王女の彫刻が左右の柱に彫られている。
其処には、こう記してある。
「汝、天と地の祝福を受けた者のみ、通る事を許す」
天は、大天使シェスラード。地は、成人の儀式。
ジャンヌの腕の中にいる雪豹のスノーは、喉をゴロゴロとならしながら、ジャンヌの顔をぺろぺろと舐めている。
《怖いのか?》
「…あたり前でしょ。だって、此処は色々な謂れがある南の国だもの。それに、私を…いつも私を護ってくれる人はいない….」
ジャンヌの脳裏には、2人の王子達の顔が浮かんで来た。
いつも優しく自分を包み込むアウグスト様と、魔術が得意で厳しく指導して来るディートリッヒ様だ。
頼もしい2人の王子達。
いつかどちらかを選ばなくては、いけない。私には、
あの2人を別々の男の人として…いや、個々の人間として考えた事があるだろうか?
私に取って、2人はこの蒼い魔石に刻まれた古代文字と一緒。
2人で、一つ。何だか、そんな感じがする。
このヤシの木が鬱蒼と茂っているところを歩いて行くジャンヌは、てくてくと歩いている。余程の魔力が無ければ、息をするのも辛くなる様な聖獣達の気に、当てられて倒れてしまう。
「…にしても、何て言う威圧感なのかしら…身体中を竹串か、太い針で刺されている様だわ…」
ジャンヌは、ブーツが湿った土の中に減り込まない様に、用心深く歩いていた。ふと、自分の足跡を見ると何も残って居ない事に気がついた。ジャンヌに気を使ってか、スノーはジャンヌの腕の中から降りると、ジャンヌの前を歩き出した。
私…生きているわよね?
土の上には、前を歩いたであろう、旅人の足跡と、スノーの足跡がクッキリと着いている。なのに何故、自分のだけ無いのかしら?
「ねえー。私の体が少しフワフワしてるの、これって、変よね?」
《…………》
スノーは何も答えず、ただジャンヌの前方を歩いている。
こんなに日がサンサンと照っているのに、自分の肌は疎か、髪にさえも太陽の熱が感じられない。 こんな事は生まれて初めてだ。
ふと歩みを止めたジャンヌは、自分の足元を見つめた。スノーは、ジャンヌの足音が聞こえないのを心配して、戻って来てくれた。
「スノー。 私、死んだのね」
《どうして、そのようなことを言うのだ?》
「別に。ただ、何となくなんだけど、何かが違うの。いつも煩いくらいに一緒だった、あの2人が私達の側に居ないと言うのが、不思議でならない」
《恋しいのか?》
「え?」
《2人の王子達に側に居てもらいたいのか?》
ジャンヌは、まだ自分の身体が蒼の離宮の中にある言う事を知らなかった。
彼女の身体は、影を盗まれた後、魂が体から離脱したのだった。ジャンヌの魂を追い駆けたスノーは、彼女の魂をジャンヌの体に戻すために、一緒に南の国へと向かっているのだった。
スノーは、その事に関して、決して触れる事はなかった。もしも、ジャンヌがその事を知ったとしても、今更 何が変わろうと言うのだ。もうすぐ、魔王が復活する。
今は、一刻も早く彼女の魂だけでも、南の国に連れて行かなくては、ならない。
自分達が目指す、この南の国に魔剣が隠されているのだから。