盗まれた影2
「嫌! 誰? 何すんの!」
「何すんのだって? それは、こっちの台詞だ! ジャンヌ」
相手のスネを靴の踵で蹴ろうとした時、怒った様な声がジャンヌ後ろから聞こえて来た。
「良い度胸じゃねーか、ジャンヌ。俺達が協同して作った魔法壁を意図も簡単に抜けて、王都に降りて来るとはな・・・」
「え?!」
ジャンヌの目に前には、笑顔でジャンヌを見下ろして居るディートリッヒがいた。
後ろには、本気で怒っているアウグストがいた。
(ひぇ~!! ディートリッヒ様! 目が、目が笑っていない・・・。 って事は、本当に怒ってる!? )
「あ、あの~ あのデスね、コレには深い訳が「有るわけないだろ!」
ジャンヌが言い訳を言おうとして居る途中で、アウグストが噛み付く様に言い出した。
「そ、そんなに怒んなくても・・・」
ジャンヌの銀色の瞳からポロポロと涙が出て来た。
私だって、頑張って成人の儀式を成功させようと頑張ってして居るのに・・・・。わ、私だって頑張って・・・・いる・・・のに・・」
座り込んだジャンヌは、今まで溜め込んでいた思いを2人にぶつけた。
「何で私なんですか! 私はただ、田舎で平和に暮らしたかっただけなのに・・・。 どうして、銀色の瞳なんか・・・・こんな瞳なんて、こんな魔力なんて欲しいなんて1度も思った事なんてなかった・・・・」
ジャンヌの頭の中では、幼いジャンヌが隠れて見ていた自分の両親が、涙する姿だった。
《どうして、私達の様な平凡な魔力しか持たない男爵家に、ジャンヌの様な途轍もない魔力を秘めた子供が生まれるとは・・・・・。あの子には、酷な人生を歩ませる事になるかもしれない・・・。》
夫ベンジャミンの言葉を聞いて涙するジャックリーンは、自分の家に代々伝えられていた銀の双眸の娘の悲劇を思い出し、声を押し殺して泣いていた。
その事を思い出していたジャンヌは、膝を抱えてると、幼子のように肩を震わせて泣きじゃくる。
そんなジャンヌのせなかをディートリッヒが、優しく摩っていた。
「あだ…じ…らって…ふぇ…ヒック…ずきで…ヒック…こん…ヒック…な…………うわぁぁぁぁん!」
ジャンヌの銀の瞳から涙が溢れて出す。
アウグスト達は、今までジャンヌが自分に課せられた運命に対して、弱音を吐いた事など一度も無かった事に気付いた。古代、自らの命を魔剣に注ぎ、魔王封じの魔剣で戦ったクリシャーナ王女と、自分は同じ運命を辿るのだろうと知った時に、ジャンヌは、どれだけ自分の運命を呪った事か。
そんな不安を人知れず抱え込んでいたジャンヌだったが、日が経つに連れて不安と死への恐怖が募って来た。
この世界の人達は、自分を救世主とか、魔王復活を阻止する最後の砦とか、言っているが、誰も私の哀しみや苦しみなんか理解してくれない。
「こ、怖い…の。 死ぬのが…怖い…」
ジャンヌは、震えていた。そんな彼女を2人は抱き締めると、慰めていた。
2人は、ジャンヌの心の叫びを黙って聞いていた。今までジャンヌが、成人の儀式の事以外で泣き言を言った事など無かった。それは、ジャンヌ本人が、自分の領地内の人と結婚し、普通の家庭を持つ事を夢見ていたからだ。だが、クリシャーナ王女と同じ銀の双眸を持つ稀な、少女と言う事で、王宮に連れて来られた。
「ジャンヌ。ガゾロは、お前に力を貸して欲しいと言って来ている。彼一人では、魔剣を探す事が出来ないんだ」
「イヤよ! 幾らアウグスト様の頼みでも嫌です! 大体、ガゾロ様が言った一言せいで、私の成人の儀式が早まったんですからね!」
アウグストの優しい碧眼が、揺れている。
「君を死なせやしないよ。運命は変わるんだ。だって、まだ魔王は復活していないんだからな」
「誰かが、魔王を復活させようとしている。其れを阻止する事が、出来るのは…ジャンヌ…私達三人だけなんだよ 。 私も、アウグストも君と一緒に戦う。だから、そんな悲しい事は言わないでくれ。死ぬ事ばかり考えないでくれ。君を失ったら、哀しむのは、トスポール男爵夫妻だけじゃない。私達もだ」
「…………」
「じゃあどうして、ガゾロ様は、成人の儀式を前倒し今週末にさせる事にしたの?」
涙をハンカチで拭いながら、目を真っ赤にして聞いて来たジャンヌは、2人の顔をじっと見つめた。
2人の話によれば、ガゾロ様が赤い魔石と蒼魔石を見つけられたと言う事だったが、西の国ドルバー公国で、蒼の魔石を魔物に奪われた。場所は、ゴーレムの渓谷だった。この世界の中央にあるサシュルートから南にある国グラージクォンに行くためには、この要塞の様にグラージクォンを取り囲むゴーレム渓谷がある。ゴーレム達は、気性が荒く雑食だ。怒ると大きな馬車程の岩を軽々と持ち上げると、敵に岩を粒てを投げつける様に、岩を投げつける。ゴーレムの村にいた蒼の魔石を助け出した。
アクアからゴーレムの村に伝わる古代文字が記された紐を解読した事を知る。それには、グラージクォンに魔剣が眠っていると言う事だった。 だが、グラージクォンの何処かは記して無かった。
魔剣は、アクアだけの力では、見つける事が出来ないと言う事を聞かされたガゾロは、ジャンヌをグラージクォンに連れて行く事にしようと言い出した。此処で、問題が発生した。
グラージクォンは、大天使シェスラードが、聖なる魔剣を置いた場所で、普通の魔力を持つ者が、容易く入れる様な場所は無い。グラージクォンへ入国するには、防御壁を超えなければならない。何人足りともこのシールドを破る事は出来ない。何故なら、この鉄壁のシールドは、大天使シェスラード自らが、作った物だからだ。
そのため、この国に入るには、門を通らなければならない。その門の柱には、右の柱に大天使シェスラード、左の柱にクリシャーナ王女の姿が彫られてある。
《我々が認めし者のみ、グラージクォンの地に入る事を許す》
「一体、どんな人だけが許されるの。」
痺れを切らしたジャンヌが聞いて来た。
「魔石に選ばれし者。または、魔石と同等の魔力を持つものとされています。が! 成人の儀式を終えた者が入る事を許すと言う言葉が刻まれているのです。これに逆らい無謀にもグラージクォンに入国しようとした者が、過去に何人もいました」
「彼らは、どうなったの?」
「門をくぐる前に、雷にあい塵となりました。ですから、ガゾロは、ジャンヌの成人の儀式を早めたんだ」
「そう」
ジャンヌは、立ち上がると歩き出した。
「「ジャンヌ!何処に行くんだ⁈ 」」
くるりと振り向いたジャンヌは、泣き腫らした目で何とか笑顔を作ると、2人に言った。
「お城に帰るの」
「じゃあ…」
「シャクだけど、やってやるわよ。こうなったら、意地でもそのグラージクォンの門を通ってやろうじゃないの!」
三人は、移動魔術で王宮のジャンヌの部屋へと戻って行った。