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魔剣の君  作者: Blood orange
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成人の儀(改)

ムスッとした様な仏頂面で、ジャンヌは舞姫達の舞いを見ていた。


「これ、ジャンヌもう少し愛想良く微笑んでおくれ」


父ベンジャミンが、ジャンヌに声をかけるが、ジャンヌは銀色の双眸で父を一睨すると、フンとそっぽを向いた。


「どの口が、その様な事を言っているんですかね? お父様!」


「ジャンヌ! それは・・・・お、お前だってやると言ったではないか。 そうであろう?」


「ええ」


ジャンヌは笑顔で言って来るが、目は笑っていなかった。ジャンヌの背後には、どす黒いオーラが漂っていた。

ゴクリと唾を飲み込む父は、なんとか理由をつけて、この重々しい威圧感の前から逃れようと考えていた。

まるで、夜中に卵を丸呑みする蛇の様な睨みだった。

グッとベンジャミンは、恐怖を抑えながらも得意の愛想笑いでジャンヌの側から離れた。


このモヤモヤした思いを何所にぶつければ良いのよ! 自分の娘を騙す様な形で、こんな七面倒な成人の儀式をさせるなんて・・・・・・・・・。


やっぱりあの時に例え捕まってでも、逃げれば良かった。後悔後に立たずとは、まさにこの事だ。

悔しそうに親指の爪をカリッと噛むジャンヌは、レゼンド王と父ベンジャミンの企てにまんまと嵌ってしまったのだ。

今思い出しても、苛つくばかりだ。



王宮の大広間にて行われる成人の儀。

思い出すのも腹立たしい。全ての元凶は、ガゾロ先生の一言から始まったのだ。


本来ならば、後三ヶ月後に行われる筈だったジャンヌの成人の儀式は、西の国に居るガゾロが水晶玉を使ってレゼンド王にジャンヌの成人の儀式を一刻も早く行う様に進言したのだ。

其れを聞いたジャンヌは、王の前にも関わらず、チッと軽く舌打ちをした。

余計な事を・・・・・・・。

そのジャンヌの呟きを耳にした父親のベンジャミンは、額から滝の様に流れる汗と背骨を伝う涙に様な冷や汗を感じた。

王の前ではあるが、ベンジャミンは王にジャンヌと少し話をさせて欲しいと申し立てた。

王も、ベンジャミンの言おうとせん事くらい判っておると言わんばかりに、「うむ。一刻だけじゃぞ」そう言った。

ベンジャミンは、お辞儀をするとジャンヌを連れて、謁見の間の隣にある小部屋にジャンヌを連れて入って行った。


「痛い!」


ジャンヌは膨れっ面で、腕を胸の前に組むと、ベンジャミンの顔を見ずに明後日の方向を見ていた。

ベンジャミンは、はあ~と大きく溜息をつくと、ジャンヌの目の前に毒蛇の干物を出した。 其れを見たジャンヌは、目を輝かせてベンジャミンに抱き着いた。

「コレよ! この鎖蛇の干物! なかなか手に入らなかったのよね~。 お父様! ありがとうございます! コレで色々な薬が作れるわ。そうすれば我が男爵家の家計の足しにもなりましょう!」


ジャンヌが干物をベンジャミンの手から奪い取ろうとした時に、ベンジャミンはにっこり微笑むとソレを山羊の皮袋の中に仕舞い込んだ。


「ジャンヌ。交換条件だ。 この鎖蛇の干物が欲しいならば、今週末にも成人の儀式を受けなさい。お前が成人の儀式を受けない場合は、この鎖蛇の干物は、焼却してしまうが、良いか?」


「く・・・・・・」


銀色の双眸に薄っすらと涙を浮かべるとジャンヌは、下を向いて悔しそうに唇を噛み締める。ジャンヌの白い両手は、指先が真っ白になる程、キツク拳を作ると肩をワナワナと震わせていた。

どうしても、手に入れたい鎖蛇の干物! 鎖蛇は、もう数が数える程しか生息して居ないし、その干物を手に入れるのだって困難を要する事くらい、ジャンヌでも知っている。

普段 父ベンジャミンは、こんな姑息な手を使う人では無い。そんな心優しい父に、こんな事をさせて居るのは自分なのだと、今更ながらにジャンヌは自分の魔力のせいで、家族にまでこんな嫌な思いをさせてしまって居る事に気が付いた。


毒蛇の干物と父親の苦虫を噛み潰したような顔を交互に見ると、ジャンヌは大きく溜息をつくと肩を竦めた。


「分かりました。お父様の仰る通りにします」


「ジャンヌ!漸く判ってくれたのか⁈ 」


「ええ。お父様にこんな事をさせてしまって居るのは、全て私の我儘のせいですから・・・・でも、干物は、キチンと頂きますからね!」


「分かっているよ。ジャンヌ。なら、お前の気が変わらない内に! これで、よろしですね? レゼンド王?」


父ベンジャミンの言葉と共に、謁見の間に続く扉が開かれると、其処には、満面の笑みをたたえたレゼンド王と王妃、そして2人の王子達が立っていた。


ジャンヌは、頬を紅葉したもみじのように真っ赤にさせると、レゼンド王を見て「図りましたね」そう悔しそうに一言呟いた。

レゼンド王は、微笑みながらもベンジャミンの肩を叩くと、何事も人生経験じゃと言って笑っていた。

其れから直ぐに、ジャンヌは王妃に拐われる様に王妃の部屋に連れて行かれると、部屋には既にお針子達と仕立て屋が、ずらりと並んで待っていた。

ジャンヌの淡い紫色のドレスを脱がせると、ピンクや青、銀色、赤のドレスをどんどん着せて行く。

着せ替え人形の様だとジャンヌは苦笑しながらも、王妃の指示で素早く動くお針子達に驚きを隠せなかった。


「あ、あの・・・・王妃様・・・? 何故、この様に何着ものドレスを作らねばならないのでしょうか?」


王妃は、にっこり微笑むとジャンヌの肩に手を置いて、諭す様な優しい口調でジャンヌに取って最も避けたいくらいに、恐ろしい事を言って来た。


「あら? 今回のあなたの成人の儀式は、三日間にかけて行われるのですよ」


「3日? な、何ですと~!」


チラリとジャンヌは、縋る様な瞳で(嘘だと言ってくれ~!)と言わんばかりに、お針子達や王妃様お付きの侍女達、そしてジャンヌの礼儀作法の先生でもあるヘザーの方を見た。 彼等は、ただ王妃の言葉に頷くだけだった。

がっくりとうな垂れる様に立っているジャンヌを慰める様に声をかけて来たのはヘザーだった。


「未来のお妃様の成人の儀式は、前夜祭そして成人の儀式、後夜祭を執り行うのがサシュルート王国ましてや、この世界の仕来りなのですよ。サシュルート前夜祭には間に合うかどうか知れませんが、ガゾロ様も出席されますよ。それに、東西南北の其々の大陸にある我が国の属国から、其々の王族方が、見えられます」


「いま、ガゾロ様は、何処にいらっしゃるのですか?」


「南の国グラージクォン王国だとお聞きいたしました」


「行って見たいものだわ。そのグラージクォン王国に。どんな所なのかしら? 」


「一年中雪と氷に閉ざされた白銀の国だとお聞きしてますが。ジャンヌ様は、お寒いのは大丈夫なのでしょうか?」


「ええ。大丈夫よ。実家の男爵家は、それ程裕福ではなかったので、冬になると薪も節約していたの。だから少々の寒さなら平気よ」


コルセットをギュウギュウにキツク絞められると、ジャンヌは、溜息さえも出すのが苦しくなって来た。

ジャンヌはそっちのけで、ドレスをどんどん決めて行く王妃様は、本当に嬉しそうだった。

前夜祭に着て行くドレスは東の国にあるカシス湖と言われる湖をイメージして織られた、コバルトブルーのドレスに銀のベールを頭からかぶる事になった。


成人の儀式様のドレスは、ピンクのバラの様なドレスで、ウエストから切り返しがある。




頭の上に白いマリアレースを神官に被らせてもらい、その時に変化する服の色魔力が決まる。

儀式の後は、後見人とのダンスを一曲。そして父親とダンスを一曲、王子達と一曲ずつ踊る。

王宮にあるガーデンには、イバラの他に、柑橘系の樹木が植えてある。

其処から王宮の大広間で行われている成人の儀を見ている者がいた。

不気味に笑いながら、金の巻き髪をした娘を舐める様に見ている。長い爪を使ってその娘の影を少しだけ持ちさると「クククク」肩を揺らしながら笑っている。

「貰う物は貰ったよ。魔剣の姫君」 

声の主は、大きく腕を広げると大きな黒い翼を広げた黒龍となると、大空に飛んで行った。










頭の方を書き換えました。

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