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魔剣の君  作者: Blood orange
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帰郷10 西の国の奇病 後編 下 (改)

「「魔王の使いだよ」」


アクアとガゾロが声を揃えて言った。


「人の命がポンプに変えられているなんて・・・・そんな無茶苦茶な事があってたまるか!」


ザックが拳を作って、テーブルを叩いた。

ドンという音が店内に響くと、ザックは小刻みに肩を震わせながら、涙を流していた。


「サムや、アラン、ウェイに、フィンチ・・ あ、あいつらは、ポンプにされるために生まれて来た訳じゃねーんだ!! 彼奴らは、王の庶子だったけど、悪戯ばっかりしていたが、本当は良い子達だったんだ・・・」


ガゾロが井戸から持って帰って来た王女と国王一家の肖像画を見たアクアは、王女の目の下にあったはずの泣き黒子が無いのを見て、青くなった。

どうしてあの黒子を見た時に気がつかなかったんだろうか・・・。

まさか、彼奴まで蘇っているとは・・・。


アクアが綺麗な柳眉を顰めて、親指の爪を噛んでいた。

それを見たガゾロは、アクアに、「知り合いだったのか?」 低く鋭い声で聞いて来た。


「ええ。随分昔に、ジャンヌ様と一緒になって奴を倒したんですよ。ポーンと言う影使いです。誰かが、蘇らせたに違いない」


影使いの話を聞いて、ザックは 思い出したかの様に、きょねんの暮れの事を話し始めた。


「影使い? んー何だか知らんが、去年あたりにでっかい烏が城に飛んで来て、ちょっとした騒ぎになったんだ。そん時は、姫様も元気してらしたんだが、その後から、風邪で寝込まれたって、聞いたな」


「烏は100年生きると魔力を持つと言われるからのう」


そう言うと、長くて白いあご髭を撫でていた。

どうやら、魔力を持った烏が、影使いのポーンを蘇らせたんだろう。ガゾロがそう考えて居ると、アクアは、魔術で弓矢を出した。


「ガゾロ様。どうやら今の国王一家は、全て烏が成り代わっているようですね。サッサと終わらせて、サシュルートのレゼンド王に知らせないと・・・このままでは、ジャンヌ様の身にも何かが起きるのは、時間の問題ですぞ!」


立ち上がったアクアの袖を引っ張り、席に座らせたガゾロは、アクアに落ち着く様にと言い聞かせた。

確かに今のジャンヌ様のお力では魔王退治どころか、魔王の使いでさえも倒す事など出来そうもない。あのお方は、優しいお方だから、戦う事を拒否して仕舞われるだろう。


ガゾロは、直ぐに自分の魔法で水晶玉を出した。アクアと顔を見合わせると、頷いたガゾロはレゼンド王の水晶玉にアクセスした。 水晶玉の中にレゼンド王が見えてくると、王はガゾロの隣に立っている黒髪の美女を見て、微笑んでいた。

徐に、頭の上の冠をかぶり直すとエホン!オホン!と咳払いをして見せた。

恐らく、周りに誰かお付きの者でも居るのだろう。

そんな事を考えていたガゾロ達は、王にジャンヌの成人の儀式を早める様にと伝えた。


それを聞いたレゼンド王と隣にいたのであろう。王妃様の甲高い声が水晶玉を通して、店内響いて居る。

王妃は、ガゾロに、何があったのかを尋ねた。

ガゾロは、眉を顰めると息を整えた。


「王様、王妃様。北の果ての国ラグーニは、滅亡しました。ガンマも、シャロンも、アリーシャも皆、虫鯨の襲来により国は跡形もなく・・・・・」


言葉を詰まらせたガゾロは、目を瞑ると口元を押さえた。そうでもしないと、嗚咽が出て来る。

そんなガゾロの背中をそっとさすっていたのは、アクアだった。アクアは、ガゾロに後は自分が話すから落ち着く様にと諭した。


「お初にお目にかかります。レゼンド王、並びに王妃様。 私の名は、アクアと申します。私の目を見ればお分かりの様に、人間ではございません。 蒼の魔石です。実は、ラグーニそして、トロルの森の異変を感じた我々は、此処ドルバー公国に来ました。此処でも、魔王の復活を示唆する事が出て来ました」


それは、なんだ?」


レゼンド王は、青い顔をして聞いて来た。


「良い話と悪い話が有りますが、お二方はどちらからお聞きになりたいですか?」


王妃と王は顔を見合わせると、「悪い話を先にしてくれるか?・・・・「いや、やはり 良い話から聞こう!」王妃が悪い話からと言い出したのに、

王が突然変えてしまった。


「良い話は、此処の国は滅びていません。そして、今回この国を騒がせて居る問題に、魔王でも、虫鯨でも有りません。魔王の使いのものと言う事が判明しました」


ホッとした王達は、胸を撫で下ろした。


「それで悪い話と言うのは、グランマニエ王とシャギー様との間にお生まれになったジョアン王女が、魔王の使いと入れ替わっております。 恐らく、国王一家の安否が確認出来ておりませぬ・・・・・」


それを聞いたレゼンド王は、悲しみのあまり王妃の胸にすがって、泣き出した。

王妃は、気然とした態度でガゾロとアクアに、これからの事を相談し始めた。

魔王の使いをドルバー公国に呼んだ者を探し出し、処分すること。そして、国王一家の安否の確認。

それらが終わり次第、南の国へと旅立つ事を言われた。


アクアは、王妃に一礼すると、ガゾロの水晶玉をシャボン玉に変えて弾かせた。


二人は、手分けして作業を進めた。水の精霊の話によれば、ポンプに変幻させられた、グランマニエ王の庶子達は、まだ生きて居るとのことだった。変幻の魔法を解く為には、井戸の底にある幻の泉から引いた水をポンプにかければ、元の人間達に戻れるとのことだった。それは、ザックが自分の胸を拳で強く叩くと、「おいら達にやらせておくれ! なぁ! 野郎どもやるぞ! 俺達の国は俺達の力で守らないとな!」


そう言うと厳つい男達は、頷いていた。彼らは、水の精霊と一緒に城の裏手にある井戸へと向かった。

ザックは、精霊に言われたとおりに、清めの酒と月桂樹の葉、それから塩湖の塩を大事そうに持って、井戸の場所へと着いた。

井戸の中に捨てられていた物は、ガゾロが魔法で全て除去したので、井戸を清め始めた。

井戸の周りは草一本も生えてこない荒地の様な所だった。ザック達が酒や月桂樹そして、塩を井戸に入れると、井戸の底からゴゴゴゴゴゴ~!!!

地鳴りの様な音がしたかと思うと、水が独りでに湧いて来た。

その水を山羊の胃袋を加工した水筒に、次々入れ始めたザック達は、全ての家々に有るポンプと言うポンプに、水筒の中の 水をかけた。

ポンプへと変えられて居た人達は、元の人間に戻るとお互いに抱き合った。


アクアとガゾロは、城へと鳥の姿となって飛んで行った。

二人は、都の様子が以前のようにあるべき姿に変わって行く様子を見ると、城にある北の塔の窓から中へと入った。

そして、城から誰一人出る事が出来ない様に、魔術で銀と金の幕を作ると城を覆った。

こうすれば、どんな魔力を持った者でもこの城から一歩たりとも、外へ出る事は出来ない。

ガゾロとアクアは、塔の中は、以前と同じ様に床の上には敷物が敷き詰められて居た。

その敷物を取り除くと、其処には昨日とは違った魔方陣が描いてあった。

(これは、国外への移動魔方陣!! 私達をドルバー国外へと飛ばす気なのか! 邪魔者は、取り除けとは・・・)

それに気づいたアクアは、ガゾロを魔方陣の外へ押しやった。

魔方陣がアクアの体に反応すると、赤い光を放った。あまりの眩しさに目を瞑ると、アクアの姿が消えて行った。

ガゾロは、顔の前に人差し指と中指を立てて、十文字を切ると煙の様に姿を隠した。


ガチャっと音がして扉が開くと、ジョアン王女が衛兵達10人を引き連れて部屋に入ってきた。


「フフフ。小癪なネズミが引っかかった様だわね」


そう勝ち誇った様に高笑いした時、独りでに部屋の扉が閉まると、部屋全体が蒼く光った。その眩い閃光に包まれた姫と10人の衛兵達は断末魔と共に塵となって消えると、城を包んでいた怪しい気配も彼らと一緒に忽然と消えた。

部屋の壁からゴツゴツと言う音が聞こえて来る。

不審に思ったガゾロが、杖をコツコツと壁に当てると、それまであった壁が消え、部屋が現れた。

その部屋の中に、国王一家と、衛兵達そしてこの国の大臣達が閉じ込められていた。

その中には、この国の宰相の姿は、無かった。


漸く自由の身になった彼らは、安堵の表情を浮かべると、部屋の外に出てきた。


「ファントムが、いきなり魔物を連れて来ると、私達を此処に閉じ込めたのです。此処から、彼らが、王の庶子や民の若さを奪う所をまざまざと見せられ、ガンマ様が「助けを必ず呼ぶと言う言葉を信じてきました。ガゾロ様、ガンマ様はどうされたのですか?」


ガゾロは、ふらついて倒れそうになったシャギー王妃の手を取ると、ゆっくりと立ち上がらせた。


「ガンマは、虫鯨の襲来によりラグーニと共に、土に返りました」


ガゾロの言葉を聞いた王妃は、両手で口を抑えると、目を見開き青い大きな瞳から大粒の涙をポロポロと流した。

衛兵達は、立ち上がると、駆け足で部屋を出て行った。数刻後、衛兵達に両腕を掴まれたファントムが引きずられる様に連行されてきた。


ファントムの首に銀の首輪を取り付けると、ファントムは、狂った様にケタケタと笑い出した。

彼の魂迄も魔王に捧げた様だった。ファントムの体から瘴気が出て来ると、ドス黒い煙が穴と言う穴から、毒を吐き出す様に出て来ると、彼の体は見る見る内に溶けてなくなって行った。


「戯け者めが! 骨の髄まで、魔物に取り憑かれよって 」


骨さえも残さず溶けて無くなった宰相の後を見て、グランマニエ王が苦々しい表情で呟いた。


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