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魔剣の君  作者: Blood orange
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帰郷4 トロルの森 ①

黒いキノコの事をしきりに気にしていたヴォール。ガゾロは、どうしても彼の手紙の内容が、気になってしょうがなかった。

トロルの森には、様々な種類のキノコが生える。しかし、黒いキノコは、聖なるトロルの森で生える筈がないのだ。

どうして、今になって聖なるトロルの森に、黒いキノコが生えて来るのだろうか? 

ガロゾの眉間の皺が、深くなる。


 「ガゾロ様? どうなされましたか? 」


ガゾロが持つトゥダの手綱が、プツンと切れてしまった。その事に、ガゾロは驚き遥か先に見えるであろうトロルの森を見つめている。

まだ、日も高いと言うのに、夕方に飛び交う渡り鳥達が、騒ぎ始めている。

しかも、その鳥達は、普段ならトロルの森で春を過ごす鳥達だ。

あまりにも、今回の出来事は重なり過ぎているのではないのか?

ガゾロは、切れた手綱をトゥダから外すと、新しい手綱を取り付けた。


(何かが引っかかるのだ...)


初めに、北の果ての国ラグーニで起こった奇妙な事件。

農作物が次々と食い荒らされて行き、次に、家畜まで忽然と姿を消して行く。最後には、人までも。

その裏には、魔王の出現と関係が深い『虫鯨』の存在がガンマの残した魔法陣の記憶画像に残っていた。あれが無かったら、今回の北の果ての国ラグーニでの事件が、全て神隠しと言うあやふやな言葉で、片付けられてしまっただろう。

そう思うと、ガンマが命を賭けて自分に伝えてくれた、ラグーニの滅亡の真実は、これからこの世界で始まる恐ろしい何かを意味しているのであろう。

ガンマが残した言葉ー 『ガゾロ…信じられないが、魔王はすでに目覚めている。それもこの街の出身の者だ。あの者を早く捕えて魔剣でとどめを刺してくれ。例え、それが女や子供であってもだ…うわぁああ!!!!』

未だに、ガンマの断末魔が耳に残っている。

まだ大陸各地に届かないトロル達が作る季節の羽衣。

そして、ヴォールからの手紙。

決して聖なるトロルの森で生息する事の無い、黒いキノコが発生した事。

黒いキノコは、虫鯨が唯一生息する事が出来る場所。其処を拠点として、朱色の虫鯨が一番始めに羽化する。だが、誰も朱色の虫鯨が何処で羽化するなんて言うのは、知らない筈だ。

もし、知っているとしたら.... 『魔王』くらいだろう。


トゥダの手綱を強く握ると、ガゾロは真っ青な顔をして、トロルの森がある方向へとトゥダを走らせた。

アクアは、ガゾロの様子がおかしいのをいち早く感じ取ると、自分のトゥダの手綱を握って、ガゾロの後を見失わない様に走らせた。


ガゾロは、黒いキノコが自然に発生する事が無いと言う事を知っていた。それは、もしかすると誰かが別の目的で黒いキノコをトロルの森に発生させたと考えるのが、自然だろう。

黒いキノコは、火龍の消化器官が消化出来なかった物から、生えて来る。

ま....まさか、誰かが火龍をトロルの森に連れて来たと言う事か?!

何と言う事だ!


元々火龍は、北の果ての国ラグーニの火山地帯に住んでいる筈だ。それなのに、一体誰が....?


「ガゾロ様! も、森が..! 」


ガゾロの後からアクアの叫び声が聞こえた。トゥダを止まらせたガゾロは、トロルの森を見ると愕然とした。あまりの驚きに、彼はトゥダから崩れる様に降りると、砂地に両手と両膝を着いて涙を流した。


「ヴォール!!!」


 あんなに緑豊かで美しかったトロルの森が、跡形も無く消されていた。

目の前にあるのは、焼かれて黒こげになった木々から、燻っている白い煙と何か巨大な生き物がいた事を思わせるように、黒いキノコが其処ら辺にびっしりと生えていた。魔具を作る為にある聖なる神の力を宿すと言われる石さえも、粉々に割られていた。

ガゾロの悲しみに暮れる叫び声が、黒こげの森と化したトロルの森に響く。


「わしは、師さえも失ってしまったのか...」


 トゥダから軽やかに下りたアクアは、微かに聞こえる声に集中していた。そして、砂地に座り込み涙するガゾロに、アクアが近づくと「ガゾロ様。子供の泣き声が聞こえます」そう呟いた。

ガゾロは、驚いた顔でアクアの方を振り返ると、耳を澄ませた。すると、確かに聞こえるのだ、トロルの子供の泣き声が。

2人は急いでトゥダに股がると、泣き声が聞こえる方へとトゥダを走らせた。

二頭のトゥダは、微かに匂う生きているトロル体臭を探し当てると、トロルの森の中央に位置する神殿で動きを止めた。固い緑柱石で作られていた神殿の柱が、何者かの強い力で二つに折られている。トゥダは、前足で神殿の崩れた柱を引っ掻いていた。

トゥダを使って、柱を退けさせると地下室への入り口に通じる穴が見えて来た。

どうやら、その中にトロルの子供が隠れているようだ。



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