帰郷 2忍び寄る足音
残虐な表現があります。
明るい筈の昼間でも、この鬱蒼と茂った森には、太陽の木漏れ日さえも地面に辿り着く事は出来ない。まるで暗い地下道を歩いているような気にさせる程だ。
その暗い森の中を一筋の太い鎖に繋がれた者達が、重い鎖を引きずる様に歩いて行く。
トロル達であった。 彼らの身体的特徴は、人間達よりも背が低く、耳が異様に大きい。 嗅覚に優れていて、魔具を作る際に仕込まれる魔キノコを土の中から掘り出す時に、彼らは自分達の嗅覚でそれを探り当てる。
ほんのちょっとした香りなのだが、彼ら以外には普通のキノコとの分別が着かないのだ。 普段は平和を望み森でひっそりと暮らしているトロル達は、魔族達に追い立てられて次々と掴まってしまったのだ。
彼らの腕には、鎖とは違う魔具を着けられている。 一見ヘビメタ風のリストバンドの様に見えるが、これは彼らが、魔族の言う事を聞かなかった時に、真っ先に生け贄として、火山の火口に放り込まれる様に移動魔術がかけられているのだ。
次々と追い立てられる様に連れて行かれるトロル達、そして彼らを黙って見ている『二つの赤い光』があった。 その赤い光の持ち主は、大きく左右に裂けた口を持っている。その口には、鋭い牙が何本も並んでいて、地獄の獅子でさえも、食い破ってしまうと言われる程、強い。 体中には、赤い炎の鱗がある。人は、これを火龍と呼んでいる。火龍は、鋭い爪を持っている。これで逃げ惑う獲物達を捕まえ、身体を引き裂くのだ。火龍の背には、大きな翼がある。その翼を広げると森が火龍の火の翼の影響で燃えてしまうのだ。
地の底から犇めくような、低く不気味な音を立てながら、獲物がその音に怯え逃げ惑うのを喜ぶ様に見ている火龍。
トロル達が森から連れて行かれると、魔族達は、トロルの森に火龍を放った。 火龍は、黒い火を放つと森は一瞬にして黒い光に包まれて行った。
トロル達は、泣きわめきながらも、自分達が育った森を見つめていた。まだ歩けない子供のトロル達は、火龍のエサにされてしまったのだ。真っ赤な口を開けた火龍は、逃げ惑うトロルの子供達を崖まで追い詰めた。舌なめずりをしながら、火龍は、長い舌で一人一人を巻き取る様に、口の中へと入れて行った。 トロルの子供達は、泣き叫び助けを乞う。その叫びさえも火龍の嘶きにより、掻き消される。
彼ら親達の涙は、地面に幾つもの水滴を落とした。
まだ、トロルの森、地下深く眠る緑の魔石は、目覚めようとはしない。