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魔剣の君  作者: Blood orange
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帰郷1(改)

遠くから見ると、一筋の疾風が果てしなく続く砂漠の上を走っている。

砂煙を上げながらトゥダを走らせていたガゾロは、オアシスを見つけると其処へ立ち寄った。

あまりの喉の乾きとそして、北の果ての国ラグーニで起こった事が、サシュルート王国にも同じような惨劇が起こりうるかも知れないと言う焦りからか、ガゾロはこのオアシスが本当に安全なのかどうなのかを確かめる事を怠ってしまったのだ。


オアシスまで後2キロと言う所で、今まで大人しかったトゥダが暴れ出した。

あまりのトゥダの暴れぶりに、ガゾロはトゥダから落ちると魔法で身を護った。


「一体何が起こったと言うのだ」


オアシスまで後少しと言うのに....

ガゾロの額に焦りの色が出て来る。

そんな中、暴れ回るトゥダの足下の砂地が、勢い良く凹み始めた。


「流砂か? いや、違う..」


砂の中から出て来たのは、巨大化したあり地獄だった。

ガゾロがオアシスだと思っていたのは、あり地獄の背の部分であった。


「ワシとした事が、あまりの焦りに本物のオアシスと偽りのものと間違えてしまうとは...」


自分のトゥダを助ける為にトゥダに移動魔術をかけはじめた。だが、この巨大あり地獄では、魔術をかけた方も命取りとなるので、ガゾロは、自分のトゥダがあり地獄の鋭い前足に喉を突かれるのを黙って見ているしか無かった。あり地獄の中心に蠢く巨大な虫は、前足に毒を仕込んでいる。トゥダが擦れる様ないななきを耳にしたガゾロは、眉間に皺を寄せると、沈み行くトゥダの身体に巻き付いた黒い虫の足を見ていた。


「すまぬ....。許せ...」


ガゾロは、ゆっくりと立ち上がるとサシュルート王国を目指した。

照りつける太陽が、ガゾロの体力を徐々に奪って行く。足下をぐらつかせながら、とうとうガゾロは倒れてしまった。

一筋の影がガゾロの前に現れた。

照りつける太陽を撥ね除ける為に着ているのだろう。黒く長いマント、そして頭はフッドを被っている。

薄れ行くガゾロの意識の中で、女の白い手がガゾロの皺だらけの腕を掴んでいた。

ブラックアウトした後でぱちゃぱちゃと水で誰かが遊ぶ音が聞こえて来る。

空耳だろうか?

ガゾロはそう思った。

だが、自分の顔にも幾度も水がかかってる。

砂だらけの手で、何度か目を擦って起き出したガゾロは、自分の目の前に美しいオアシスが広がっているのを見て、驚いていた。


「此処は、一体何処なのだ?」


泉の中央で自分を助けた者が、水浴びをしているようだ。

真珠のように透き通った白い肌には、なだらかな膨らみがあった。黒く長い髪は夜の闇の様にしっとりと美しい。黒髪から滴る様に泉の水が真珠の様に光り輝きながら水面に落ちて来る。

魔か、人か?思わずガゾロが立ち上がって、泉の方へと近づいて行くと足下にあった小枝を踏んでしまった。

ポキリと言う軽い音が、静かなオアシスの中で響いた。

自分を助けてくれた人は、両手で胸を隠すとこちらを振り向いた。

片方が銀の瞳でもう片方は金の瞳をしていた不思議な少女は、ガゾロを見据えている。


「お気付きになりましたか?」


「やはりお主が助けて下さったのか...」


「はい..」


「名を...名を教えては下さらんか?」


女は、ためらいながらも頭を振った。ガゾロは、この世界では人や精霊以外で名を持たぬ者はいない。だが、名を教えてもらえないのなら、この目の前の女人は、やはり魔なのか....。


「ガゾロ様....私には、名は在りません。私はある方を探しているのです。私はそのお方の半身なのです」


女は、少しずつガゾロがいる方へ歩み寄って来ると、魔法で身体に布を纏わせた。

半身?一体どう言う事なのだろうか?


「其方は、どうしてワシの名を存しておるのじゃ? 名がないとは、お主は人間では無いのか?」



「私は、意志を持つ魔石です。あなた達から見ると私は、魔石の化身とでも申しましょうか」


「魔石の化身ですか...」


「ええ。蒼の魔石と申し上げれば、お分かりになられるでしょう」


ピクッとガゾロの眉が微かに動いた。女は、漆黒の髪を束ねてガゾロの出方を見ている。

ーそうあなたは、私が求めている方を知っている。私の主を知っている。さあ、全てを話しなさい、そして私に平伏しなさい。

女は口角をややあげて、ガゾロを直視している。2人の間に漂うのはどす黒い空気だけだった。それは、魔力にはさらに強い魔力で力を見せて無理矢理に契約を結ばせると言う言うなれば、ハブVSマングースの戦いの様であった。

2人の周りにいた精霊達は、ガゾロ達の魔力の強さに吹き飛ばされてしまった。


2人の勝負が漸く着いた時には、もう太陽が二回も上っていた。


「流石、世界を魔王から護ったと言われる救世主の一人、ガゾロ様ですね...」


「お主も、この老いぼれに此処まで戦わせるとは.....ジャンヌ様と同じ様な石の輝きを持っておるは、頷けないが」


「ジャンヌ様と仰るのですか。あなたの気から私の半身の香りがしました故に、少し試させて頂いたのです。御無礼を承知しております。私の名はアクアとでも言いましょうか。もちろん本当の名ではありませんが。差し支えなかったら、そう読んで下さい」


アクアは、ガゾロに向って少し膝を折って、淑女の挨拶をした。


「ワシから?」


コクリと頷くアクアは、全身を青く光らせた。その光は、優しく慈愛に満ちた光だった。前にも一度この光を見た事があった気がするのだが....。やはり、彼女はジャンヌ様の半身なのかも知れない..。そう思ったガゾロは、アクアが自分から自分の半身の香りがすると言っていた事を思い出し、王都へ一刻も早く戻る事を決意した。

暫く考えたガゾロは、女に一緒にサシュルート王国に行く事にした。だが、砂漠の彼方で蠢く影と煙を見た時に、その選択はしない方が良いと判断した。ガゾロとアクアが空中に浮くと、砂煙を上げて砂漠の中から、黒い大蠍が出て来た。

鋭い毒針と前足のはさみを持って素早く砂漠の中を泳ぐ様に移動して行く。

此処で、思わぬ敵に出会ってしまったガゾロは、額に汗を掻きながらも大蠍おおさそりの弱点である4つの目に向って、銀の稲妻を落とした。大蠍は、4つの目の内、2つをガゾロからの攻撃で丸く感情も何も表さない球に稲妻が落ちた。飛び散る液体が、ヤシの木の幹にかかるとジュッと音を立てて、木の幹が溶けていく。

それを見たガゾロは、額に深く皺を寄せると目をやられ威嚇する音を立てながら、ガゾロではなく青い魔石の化身へと突進して行った。


ガゾロは、移動魔術を使う為に近くの神殿まで行く事にした。砂漠の上でむやみやたらに移動魔術を使うと先程のような魔物までも王都に呼び寄せてしまう恐れがあるからだ。ガゾロは女と一緒に一度此処から西の国ドルバー公国を目指す事にした。ドルバー公国には、嘗て自分が教鞭をとっていた魔法学校がある。其処から、移動魔術を使えば安全に自分とこの魔石の娘を連れてサシュルート王国まで瞬間移動出来る。


(もし、上手く西の国ドルバー公国に行けたならの場合じゃがな...)

果てしなく続く砂丘を見つめるガゾロは、沈む夕日が空を真っ赤に染めているのを黙って見ていた。

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