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魔剣の君  作者: Blood orange
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レッスン二週間目 前編

この日の朝、ジャンヌは魔法学校の渡り廊下を走って王宮廷魔術師長のガゾロが待つ教室へと急いでいた。本当なら、ガゾロの授業は昼過ぎからなのだが、魔法郵便で届いた手紙がジャンヌの所に届いた。

手紙を広げると音声で読み上げてくれる。『王宮廷魔術師長ガゾロ様からのジャンヌ様への急ぎの手紙です。本日の授業変更知らせ〜朝一番に魔法の授業をします。遅れない様に来て下さい』


金の離宮から魔法学校の校舎まで、普通に歩けば一時間はかかってしまう。それを魔法無しで移動する様にとガゾロやアウグスト様から言われているジャンヌは、朝から長いドレスの端を両手で持ち上げると走って魔法学校へと向った。

アウグストが看病してくれたお陰で、酷く捻っていた足首も普通に走れるくらいにまで回復していた。息が上がって来て、ジャンヌは木陰に隠れると、移動魔術しようと神経を集中していた。


「まさか、移動魔術をやろうなんて考えていないよね? 魔法は禁止だと言った筈だぞ」


その時にアウグストが、ジャンヌが隠れていた木陰を見つけてニッコリ笑って来た。彼の笑顔の下では、何を言っているのか良く分かる。

(あれほど、忠告したはずだ。何で魔法を使おうとする)

この人って、こんなキャラでしたっけ?ジャンヌがビクついていると、アウグストは溜息まじりでジャンヌの手を取るとそっと手の甲に口付けをした。

アウグストの唇が触れた所は、少しピンク色に光っている。


「一体、何をしたの?」


「君が隠れて魔法を使えば、僕に分かる様にしたのさ。ただし、授業以外でね。まあ、今日は特別僕が連れて行ってあげるよ。もう、時間がないからね」


アウグストに手を握られ、驚いているジャンヌは、彼が瞬時に移動魔術を使ってジャンヌをガゾロが待つ教室まで連れて行った。

この日のガゾロの服装は、先週までの彼の服装とは異なっていた。

まるで何処かへ旅立つようなそんな服装である。

普段はマントを羽織、その下に紺のドレープがかかった服を着て居るのに、今朝の彼は獅子麝香の樹で作られた杖と白い三角帽子に白いマントを羽織っていた。

何で白い服を着て居るの?それって、何処かにお呼ばれとか招待された時に着ていく服装よね…?

それに、いつまで経ってもアウグストは、この教室から出ようとしない。それにも不信感が募る。何?私だけ知らない事?それに、後一人誰か此処に居るような気がしてならない。

ジャンヌの腕に抱かれていたスノーは、軽やかに床に下りた。スノーを見たガゾロは、一瞬顔を強ばらせたが、じっとスノーを見ていた。


「ジャンヌ様。どうして雪豹の子供がジャンヌ様と一緒に居るのですか? 雪豹は聖なる生き物だと先週も教えましたが、お忘れになったのですか?」


そうこの世界では、雪豹は神獣とも言われ、それを飼う事は、神を愚弄すると言われたい罪になる。ただし、それは雪豹を捕まえて飼うと言う事で。しかし、雪豹自身が人間と一度契約をし、その者を守護する事もある。それは稀な事。


「ええ。習いましたが….でも、この雪豹に名前を付けろって言われたんです。」


「名前ですか?!」


雪豹自身、自尊心が高く人に従う事などないし、ましてや人間から名を付けられることなど殆どない。だが、彼女の無垢で純粋さに、この雪豹が惹かれたのなら分かる。


「わかりました。では、本題に入りましょう。実は今日の魔法の授業を早くしてもらったのには、訳がございまして…。私ガゾロが、半年程この王宮には帰って来れません。魔術師協会の会議やら、講義やらが他の国でありますので…..。で、それで私の代わりとしまして、ディートリッヒ王子にジャンヌ様の授業を見て頂く事になりました。彼は、とても優秀な魔術師でして、教員免許も既に持っておられます。私は、そろそろ迎えの雲が参りましたので、これにて失礼致します。では、ディートリッヒ王子。頼みましたよ」


いきなり何も無かった空間から、突如として現れたディートリッヒ王子は、悪戯好きな笑顔でジャンヌに笑いかけていた。

「どう?驚いてくれた?」


「ええ。とっても」


「じゃあ、授業を始めよう。先ずは基礎の基礎からするよ。ジャンヌ、そんな嫌な顔はしないの!君の場合 基礎がなってないのに、いきなり高等魔術とかするから倒れるんだって。だから、今は基礎を身につける事が大事だ。分かったね」


はいはい…。どーせ私は先週何も知らずに魔法を使い過ぎて倒れましたよーだ。


「先ず、ここに両足を…そう肩幅くらいに開いて、両手に気を集めるんだよ。自分の気と地面の気、そして周りの大気の気を少しずつ貰うんだ。初めは大きなボールくらいになるから、それを魔力で丸くする。マーブルくらいの小さな粒にしてごらん。これが基本だよ」


言われた通りに両足を肩幅くらいに開いて、色々な所から気を少しずつ貰って両方の手の中には引き千切られた綿のような物が畝っている。それを丸める為に10本の指先に神経を集中させて、ようやく歪ではあるが丸っぽい物が出来た。しかも、ビーチボールの大きさだ。

今度は、それをマーブルくらいにまで小さく、そして丸くするのだ。額に汗を掻きながらもゆっくりと撫でる様に魔力を練り込んで行く。ようやく野球ボールと同じ位の大きさになった時にプシュ〜と空気が抜けて、ヘナヘナになってしまった物体。


「ジャンヌ。其処までは上手にできたんだけどね。ちょっと気を抜いたでしょ?ジャンヌは、筋が良いから、直ぐに出来る様になるよ。じゃあ、もう一度やってみて」


この基本動作を何度も何度もやるうちに、ようやくマーブルくらいの小さな粒が出来る様になった。達成感と言うよりも殆ど意地だ。


「じゃあ、これを元にした物で自分専用の水晶玉を作ってみよう。これは高等魔術なんだよ。ジャンヌなら直ぐに出来るよ。ほら、こんな風にやってご覧」


いかにも簡単そうに魔術で水晶玉を作り出すディートリッヒ。しかも、色がついたり中には華が入っていたりと多種多様な物だった。

この日の授業では、中々上手く自分専用の水晶玉を作り出す事は出来なかった。

銀の双眸を潤ませながら、悔しそうに楕円形の水晶玉を手にしたジャンヌは自分の魔力のなさに哀しくなった。


「ジャンヌ。誰もがそんなに直ぐに上手になる事なんて無いんだ。実際僕やアウグストだって、初めっから水晶玉さえも上手く作れなかったんだよ。だから泣く事はない。それに、殆どの者が丸く作れないんだ。それは、不安があるからね。先ず心を無にすることから始めるんだ。そうすれば、ジャンヌのことだから、すぐにでも水晶玉を作れる様になるよ。ただし、この魔法をする時は僕の前でやる事。練習にしてもそうだ。でないと、また倒れるよ」


何度も水晶玉を作ったせいか、ジャンヌの体が痺れて来ている。足にも力が入らず、震えて来てる。この魔法ってこんなに体力を奪う物なの?驚いた様にディートリッヒを見つめる。


「君なら簡単な魔法ならすぐにクリアしてしまうからね。基礎編と上級編を織り交ぜてみたのさ。そうすれば、君が飽きる事もないだろう?」


ディートリッヒに自分の性格まで見抜かれているなんて...悔しそうに俯くジャンヌは、溜息をつきながらも、教室を後にした。

この後の授業は、歴史、マナー、馬術、ダンスの順になっている。

溜息が出そうだが、ここまで体力を使う魔法は、初めてだ。

負けたく無い!痛む膝を撫でながら、次の教室へと急いだ。


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