夢の中へ②
荒涼とした風景が目の前に広がっている。空は、暗雲が立ちこめて、地はダストデビルが舞っている。(竜巻ほど大きくは無いが、大きな旋風である。)足下を見れば、草木は何も生えておらず、皹割れた土からは歩く度に土埃が舞うだけである。
「此処は、一体何処なんだ?」
アウグストが、眉を顰めながら土埃が口や鼻に入らない様に、魔術でマントを出すとマントの裾で鼻と口を押さえながら話しかけて来た。
「さあ? 俺もこんな所に来たのは初めてと言うか、人の夢の中に入ったこと自体が初めてなんだよね。だけどさ、もしジャンヌに俺達が勝手にアイツの夢の中に入って、夢の中身を体験して来たなんて知れたら……」
「叩かれるどころじゃないかもな….。特にアイツ(ジャンヌ)のアッパーカットは、凄いからそこん所覚悟しといた方がいいかもな」
ブーツで乾燥した大地を踏みしめて歩いている3人は、小高い丘へと辿り着いた。
その丘へと続く道なき獣道を歩いて行くと、アウグストが足を止めた。
ふと、考え込むアウグストが後を振り向いた時に、あっと叫んだ。
「どうして….。此処に俺達を連れて来たんですか? 大天使シェスラード様!」
「どうしたんだよ! 俺に分かる様に教えろよ!兄上!」
苦々しく舌打ちをしながら、丘の周りを見渡したアウグストは、地面に片膝を着くと枯れた土を手で掘ると何かに取り憑かれた様に、一心不乱に何かを探し始めた。
土埃が辺り一面に舞い上がるのをディートリッヒは、黙って見ていたが、やがて自分も…と言うと、アウグストの横で同じ様に枯れた土を穿り返していた。
アウグストの指先に何やら、枯れた花らしき物に触れると、それを大事そうに両手で持ち上げた。枯れて色は変色しているが、香りは微かだが分かる。
「やはり…。此処は、ラベンダー草が咲き乱れていたあの『祈りの丘』だったのか」
「祈りの丘? だが、何故ラベンダー草がないのだ?」
ディートリッヒが聞いて来たが、アウグストは、天を仰いだ。歴史書の通りならば、此処にあの欲深い王が治めていた城が在る筈だ。だが、城の瓦礫も何もない。ただの枯れた大地だ。所々に硝煙が立ち上っている。
この世の地獄とも言える不毛の大地を見た2人は、同時に大天使シェスラードを見据えた。
もしかして、ジャンヌの夢の中は大天使シェスラードがクリシャーナ王女を失った後、悲しみのあまりに彼女が愛していたこの城、そしてこの世界の一部を焦土化した後のことなのか。
大天使シェスラードは、眉間に皺を寄せるとただ黙って黙々と前を歩き出した。
彼の後を2人の王子達が着いて行くと、小高い丘の上で何かが光っていた。温かい波動を感じた2人は、顔を見合わせると急いで丘の上へと走って行った。何度か魔術で移動魔法を使ってみようとしたが、何故かこのジャンヌの夢の世界では魔法が使えないのだ。