夢の中へ①
昼間の楽しい遠乗りから帰って来たアウグスト王子とジャンヌは、周囲の者からしてみればとても親密そうに見えているようだ。
アウグストが住むこの金の離宮にもう一晩泊まることになっているジャンヌは、白い離宮が太陽の光で金色に変わるのを見て、驚いていた。
驚いているジャンヌに、アウグストがにっこり笑いながら説明してくれた。
「元々は、この離宮は一人娘の為だけに立てられた離宮だったんだよ。だけど、その姫が我が侭だったらしくてね。散財し放題やってくれちゃって、その時の王政の予算まで食い尽くす勢いだったらしいよ。」
「ふ〜ん、よく一揆とか起きなかったわね。」
「起きましたよ。その時の王がこの金の離宮に貼ってあった緊迫を全て剥がさせて、民の為に尽くすと言う事を見せてくれたんですよ。それまで、薬師達は皆 貴族や豪農とか大きな庄屋の所でしか診察してくれなかったんだが、金の離宮に使われていた金ぱくを使って、各街や村に薬師を置ける様に予算を回してくれたんだよ。まあ、それで一揆も沈静化してくれたんだよ。この離宮の呼び名は、その時の名残だな。」
「夕日に映えるこの離宮は、まさしく黄金の離宮に見えるわ。まるであなた(アウグスト)の髪の様に綺麗。」
そんな事を言いながらも、今夜もこの金の離宮に泊まる事になったジャンヌは、太陽が沈んで行くのを見て表情を強ばらせた。
ダメだ….。未だ怖いあの夢をみてしまうかもしれない。そう思っていた時に、篭の中から声が聞こえた。
『大丈夫か?ジャンヌ….?』
スノーがジャンヌの不安をいち早く察知して聞いて来た。
あんな夢さえ立て続けに見なければ…こんなに怖がるような事は無いのに….。震える手でスノーを抱き締めたジャンヌは、弱々しい笑顔を作りながら沈み行く太陽を見ていた。
昨夜は王子の寝室で寝ていたが、今夜はその寝室の隣にある客室寝室で寝る事になったジャンヌ。 ベッドの側にあるソファーでジャンヌとアウグスト王子が横に並んで諏訪って話をしている。 今日2人が遠乗りに出かけた祈りの丘の事を歴史書で調べたりしていた。
寝る直前まで、本を読んだりアウグストとたわいもない話をしたりしていたが、徐々に瞼が重くなり、持っていた本を床に落としていた。
スノーがジャンヌの膝の上に乗っていたが、アウグストはジャンヌを抱き上げるとスノーは、大人しくジャンヌの膝から床へと下りた。
起こさない様に、ジャンヌをベッドに移した後、シーツとブランケットを彼女にかけた。
「スノー。ジャンヌは、どうして夜を怖がるんだ?」
『お前は、それを聞いてどうする? ジャンヌを守れるのか?』
「守りたいから、知りたいんだ。」
『それなら、もう一人の王子を此処に呼べ。さすれば、話してやろう。』
「….分かった。今、青の離宮に使いを出す。」
一刻後、青の離宮からディートリッヒとその護衛であるアルフレッドを伴ってやって来た。
コンコン
少し大人しめのノックの音に、アウグストは、読みかけの本をパタンと軽く閉じた。
「入れ。」
アルフレッドが扉を開けると、後から白銀の髪をした我が双児の弟ーディートリッヒが入って来た。ジャンヌが金の離宮で二晩目を過ごしていると聞いて、難色を示していたディートリッヒだったが、兄であるアウグストからジャンヌの事で話があるから、至急金の離宮に来てくれと言う彼に取っては珍しいくらいに慌てているのだろうか?
「兄上。ジャンヌの事で話があると聞きましたが、一体なんでしょうか?」
アウグストは、ソファに同席する様に、ポンポンと自分の隣のシートを軽く叩いた。
促されるままに兄の隣に座ったディートリッヒは、ソファーの目の前に置かれている猫足のテーブルの上に、奇妙な動物がチョコンと座っているのを見て驚いた。
「兄上!これは、雪豹ではないですか! 例え兄でもこれは大罪になりますよ!」
この世界では、雪豹と言う動物は神の使いと言われている神聖な生き物。それを獲ったり、飼ったりする事は、即ち神を侮辱していると言う意味とされ、神自らの罰が下るのだ。
「この雪豹は、ジャンヌのだ。そして、雪豹自らジャンヌと契約をしたのだ。」
「契約ですか?」
「ああ。それに、俺がジャンヌの事で聞きたい事があってな、それをこの雪豹に訪ねたら、お前も此処に呼べば内容を話すと言って来たんで、お前にも来てもらったんだ。では、スノーよ話してくれ。どうしてジャンヌは夜を怖がるのか。」
スノーの体から白い煙が出て来ると、大きな人影に変化して行った。 大天使シェスラードだった。シェスラードは、ジャンヌの側に寄ると指で空間に円を描いた。
すると、雲のようなものがジャンヌの耳から出て来るとシェスラードは顎で入れと言わんばかりに2人に合図を送った。
ディートリッヒは、チラッとアルフレッドの方を見ると、彼は右手を胸に置くと騎士式のお辞儀をした。
「大丈夫です。私は此処で皆様のお帰りとジャンヌ様の身を守りますので、お二方は安心して行ってらっしゃいませ」
「うむ。では、行って来る。くれぐれもジャンヌを起こさぬ様に頼むぞ」
「はい」
2人の王子達がシェスラード共にジャンヌの夢の中へと消えて行った。