未来と過去
ワンクッション置いて、その頃別邸の方はどうなっていたのかと言うと…。どんちゃん騒ぎになっていました。
ジャックリーンは、嬉しさのあまり感激して高級酒を飲むと泣き上戸となっていました。その横では、未だに魂を抜かれたような状態で、椅子に座っているベンジャミンが居ました。
ジャンヌが金の離宮に泊まっていると言う情報は、国王夫妻の耳にも届きました。
お二人は、「まぁ!ジャンヌを自分の離宮に泊まらせるなんて、なんて積極的なんでしょうね。アウグストは」そんな事を言っていた。
国王夫妻の耳にも届いていると言う事は、当然青の離宮にいるディートリッヒの耳にも入っていた。
「くそ!どうして、ジャンヌが兄上の所に泊まっているんだよ!」
ディートリッヒは、苛立ちながらも次々と枕を壁にぶつけています。
そんな王子を遠巻きで哀れむ様に見守る侍女や臣下達は、何故今回ジャンヌがアウグスト様の金の離宮に二日も泊まる事になってしまっているのかを色々なツテを使って調べ始めました。
すると、臣下の一人がディートリッヒに耳打ちすると、ディートリッヒの顔色は途端に青ざめた。
「何? ジャンヌのダンスの先生が兄上だと言うのか? ジャンヌ自身が兄上にダンスを教えてくれる様に頼んだだと?」
確かに兄上は、ダンスの名手だ。ならば、私も自分の得意分野を活かせば、ジャンヌの新しい家庭教師として、ジャンヌの側にもっと居る事が出来る。そう考えたディートリッヒは、伝達用の姿見の前に立った。
鏡に映し出されたのは、宮廷魔術師長のガゾロである。
ガゾロに、ジャンヌの魔力の高さはどうなのかと聞くとガゾロは、「個人の情報ですので、それは例え王子様とあってもお答えしかねません」そう言った。
心の中で舌打したディートリッヒは、ガゾロに提案したのだった。
「多分、魔力の使い過ぎとかで倒れたんだろ? あのお転婆娘は。なら、俺もあのお転婆娘を助けてやりたいんだが、ダメか?」
ガゾロは、驚いて姿見の前に佇んでいるディートリッヒの顔を見た。
確かに、ディートリッヒ様程の魔力を持っていて、魔術、魔導師としての腕も技術も高いのは、ガゾロ自身よく知っている。何よりも、ディートリッヒは魔法学校時代では優等生であり、人に物を教える事がとても上手だった。
あの気性の激しいと言うか、やる気があるのか無いのか分からないジャンヌ様に魔術の基礎を教えるのは、自分よりもディートリッヒ王子の方が向いているのかも知れないと思ったガゾロだった。
「あの….実は王子、ジャンヌ様の魔力は有り余る程持っていらっしゃるのですが、使い方に少々問題がありまして....。 今回 倒れられたのでございます。丁度、週末明けから魔法の入門編をお教えしたいのですが…私の方も他に仕事がございますので、誰かジャンヌ様にお教え下さる方をと探していたのです。王子、お願いしても宜しいですか?」
ガゾロは、噓は言っていなかった。東の果ての国から魔導師協会の理事として話し合いや、講義などあるので、本当にこれからジャンヌに付きっきりで教える事が出来なくなるが、どうしようかと悩んでいたのだ。そんな時にディートリッヒ王子自ら、魔力があっても均等に魔術を使うことが出来ない爆弾のような、あのジャンヌ様を助けてやりたいと言ってくれた。
ジャンヌ様が、お二人の唯一の妃候補だと言う事は、城の者全員が掌握している事である。
ディートリッヒ様にも、アウグスト様と対等の条件を付けた方がフェアーと言えよう。ガゾロは、長い山羊のような顎髭を摩りながらディートリッヒを見ていた。
「うむ。承知した。ついては、ジャンヌの魔力測定の結果を知りたいのだが、水晶玉は修理中だったな。ならば、召還魔法でジャンヌの魔力がどれほどの物か、分かったのだろう?教えてくれ。でないと何処からあの跳ねっ返りのじゃじゃ馬に教えれば良いのか迷うからな」
「そうでございますね。ジャンヌ様が本日の魔力測定で召還されたのは、….」
それを聞いたディートリッヒは内心とても驚いていたが、そんな事は表情に一ミクロンも出さなかった。
「それは、大変だった。彼女があれでは、時期に魔力に食われてしまうのがオチだろう。うむ。入門編と上級編を織り交ぜたやり方でジャンヌに教える事にする。そうでもしないと、アイツの事だから『つまんない〜』などと抜かして、今日みたいな事態を招きかねん」
ディートリッヒの冷静な分析は、的を得ていた。やはりディートリッヒ様も同じ様に考えられていたのでございますね….ガゾロはそんな事を思いながら、ディートリッヒを見つめていた。
「では、早速来週から宜しくお願い致します。私は、半年程こちらに戻れませんので、その間、ジャンヌ様にビシビシ魔法の基礎を教えてあげて下さい。魔術の講師にも、この事は私から伝えて置きますので。では、失礼致します」
恭しく頭を下げたガゾロは、電通鏡から消えた。
ガゾロの自宅には、書類が沢山並べられていて、来週からの控えている魔導師協会の資料を読み返していた所だったのだ。
ガゾロは、夜空に光る星を見て溜息まじりで、魔導師協会の資料の一番上に重ねて置いていた、召還魔法の資料に目をやった。
過去に大天使シェスラードを召還した者の資料だった。
そこには、かつての自分の愛弟子で、最愛なる息子であるシルベスターの名が記されていた。
シルベスターは、若くして魔術の才能に溢れていた。いずれは自分の跡目を継いで宮廷魔術師長になるのだろうと思っていたが、シルベスターが選んだのは幸薄いアウグスト様の護衛に着く事だった。そのシルベスターがある夜に血相を変えて父であるガゾロの宮廷魔術師長室にやって来た。
「父上、私は今度の春に騎士団に移動させられる事になったのです。そうなりますと、もう誰もアウグスト様を守る事は出来ません。あの方は、本来ならば第一王子として大切に扱われるべきお方なのに…。どうか、父上私がどのような姿になろうとも決して哀しまないで下さい。息子の最後の我が侭だと思ってお願いします」
嘗て今までだって父であるガゾロに対して、忠実に従って来た息子が起こした反抗はこれで2度目である。一度目は、アウグスト様の護衛付きになる為に騎士団に入った事。そして、今回の事だ。並々ならぬシルベスターの言葉に、ガゾロはただ黙って我が息子を抱き締めるしか無かった。
「シルベスター。お前….まさか召還魔法を使うのではないだろうな..。」
震える声で抱き締めている息子に聞くが、シルベスターはもう既に心に決めていたようで、コクリと頷いていた。
「大天使シェスラード様を召還致します。もうそれしか方法が無いのです。失礼します。父上!もう、時間がないのです」
例え我が息子シルベスターの魔力がどんなに魔力が高くとも、大天使シェスラード様を召還すると言う事は、足りない魔力を自分の命と引き換えに召還する事になる。それは即ち死を意味する。走り去った我が子の背中を見つめて涙した日が、昨日の様に思えてならない。
ジャンヌ様が今日の魔力測定で召還された大天使シェスラード様を見た時には、感動の気持ちよりもどうして私の息子の命を取られてしまったのですかと言いそうになった程、ショックだった。
そして、何よりショックだったのは、大天使シェスラード様を召還しても尚、元気にされていたジャンヌ様の魔力の強さには、ガゾロも驚かされたのである。
早く寝なければ….。
壁に架かっているシルベスターの肖像画を見て、「親不孝ものが….じゃが、今のお前がアウグスト様を見れば、誇りに思うじゃろう。全てお前のお陰じゃ」銀縁メガネの奥には、優しい蒼い瞳が涙で潤んでいた。
ガゾロとシルベスターの繋がりを今回の話に混ぜてみました。
前回の話では、ガゾロは、大天使シェスラードを召還した者を知らないと書いてましたが、目の前で召還魔法として大天使シェスラードを召還したのは....と言う意味ですので。
ジャンヌの影はどんな形をしていたかと言う事は、次回のお話にさせて頂きます。