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魔剣の君  作者: Blood orange
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金の離宮にて 中編 不思議な夢

金の離宮でジャンヌは、不思議な夢を見ていた。

あれはこの世界を支える大きな夢の果実の樹だった。其処には、撓わに実る果実達。

体は竜の様に大きい魔王はその撓わに実る果実の中でも、一際大きく形の良かった果実を一つ選ぶとそれに魔法を掛けてしまったのだ。片方に銀の輝きを持つ果実ともう片方に金の輝きを持つ果実。魔王はそれを見て「傑作だと」笑うと、予言を出した『この果実でこの世界は滅びる』と。


魔王は、一度人間の姿となると、白銀の雪の様に艶やかな長い髪を後で一つに括った男とも女とも言えない中性的な容貌をした人間が立っていた。瞳には光る銀色と血を連想させる鮮やかな紅色の瞳が光っていた。左右違う瞳の色を持つこの魔王は、自分の姿を見た人間を全て虜にしてしまう程の妖艶で美しい。彼が王都を歩く度に魔王の残り香を嗅いだ人達は、男も女も狂った様に魔王を求め、魔王の後について歩いて行くのだ。

魔王が去った後に残るのは、瓦礫に埋もれた人々の屍が山の様に積まれている。屍の多くは、微笑みを残して死ぬ者が多い。それは、魔王の色香に絆されて自ら命を差し出すのだから、恐怖や不安と言う物を感じる事が無いのだろう。

魔王の食事は、人の魂。小さな村に突如として現れた魔王に、村の人々は狂った様に彼に縋り付く。魔王に触れられただけで、騎士であろうとも魂をぬかれてしまうのだ。

魔王に寄って小さな村がまた一つ消えた。

地図を広げたこの世界の王は、地図の中から村の存在を示す名前が静かに消えて行った。それは、シャボン玉が弾けて空に消えるのと同じ様に儚い物だった。

欲深い王は、この世界中の勇者達を集めて魔王討伐を決めた。

魔王の魔力の源は、彼が自分の力の象徴と定めた金と銀の果実だった。それを求めて幾千もの勇者達が魔王の巣窟へと足を踏み入れた。しかし、誰一人として魔王の巣窟から無事に戻って来た者は居なかった。

空が金色染まる時。伝説の勇者が現れて呪われた果実を食べてしまう。

魔王は、呪われた果実の力を無くすと同時に、自分の巨大な魔力でさえも失ってしまう。

その伝説の勇者は、自分の手に魔力を込めて一本の矢を作る。その矢を魔王目掛けて放つと魔王は倒されてしまったのだ。

呪いの言葉を残して。


『また再び我は、復活する。この世界が二つに割れる その時に我は現れる』


勇者は自分の剣で魔王にとどめを刺すと、魔王は黒い霧となって消えて行った。後に残ったのは、魔王の巨大な城とそこにあった巨大な街だけだった。

勇者は、世界の王の元へ凱旋すると魔王討伐が成功した事を告げた。王は、魔王討伐に成功した者には、なんなりと褒美を渡すと言っていた。そこで勇者は王に、「ではあなたの末娘であるクリシャーナ姫を下さい」と申し出る。


王は、勇者の顔を見た時に、なんて醜い顔なのだと思った。鼻は低く横に膨れていて、目は腫れぼったくしている。よくあれで魔王の姿が見えたものだと笑っていたのだった。唇はガマガエルの様に大きく開き、顔中にある出来物を見て王は、眉を顰めていたものだった。

こんな醜い男に、可愛いクリシャーナを渡す訳無かろうと王は勇者の事をそうあざ笑っていたのだ。

クリシャーナは、小顔に大きな瞳、鼻も高く、サクランボを思わせるような可愛い唇、そし金髪の巻き毛をしていた。彼女の瞳はこの世界には希有と言われる銀の双眸をしていた。


王には、2人娘が居たが、まだ嫁の行き手がなく考えあぐね居ていた所に、魔王の襲来があり魔王討伐に成功した者に、自分の娘を娶らせようと思っていたのだった。

しかし、勇者が望んだのは、王が一番可愛がっていた、まだ幼さが残る末娘のクリシャーナだった。王は、仕方無く婚儀をさせることにしたのだが、婚儀が終わった翌朝、勇者が目覚めた時に自分の寝室で見たのは、一番上の娘であるカリーであった。

カリーは、自分の容姿が整っているのを鼻にかけている女で、勇者はカリーの事を避けていた。彼女の持つ魔の要素が漂い、気分を悪くするのだから。魔王討伐と言う生死を掛けた戦いだったのに、それをあざ笑うかの様に自分を平気で騙した王に、勇者は憤りを隠せなかった。


「私はクリシャーナが欲しいと言った筈だ。どうして騙すような事をするのだ。」


勇者は王にそう言うと王は、この勇者なら、クリシャーナ欲しさに色々な物を持って来てるわい彼の心には、魔王に寄って植え付けられた私利私欲が出て来た、


「此処では、妹が姉よりも先に嫁ぐ事は、良しとされていない。勇者よ、もし其方が本当にクリシャーナを欲しいのであれば、世界の果てにある龍の山へ行き、竜が持っている水晶玉を持って来て欲しいのだ。そうすれば、今度こそクリシャーナを其方に渡そう。」


クリシャーナは、勇者を見て縋るような瞳で訴えた。世界の果てにあると言われる龍の谷に一度入って行った者は、二度と戻って来ないからだ。


「どうか、行かないで下さい。父王は、欲深い方です。何を持って来ても、私を手放すような事はされないでしょう。私は、勇者様が傷つかれるのが怖いのです。どうか、行かないで下さい。」


勇者はクリシャーナと結ばれる事を胸に秘め、世界の果てへと向って行った。何ヶ月もの間クリシャーナは勇者の無事を神に祈っていた。姫の祈りが通じたのか竜を倒し、水晶玉を奪うと勇者は水晶玉の力で風よりも早くクリシャーナが待つ城へと帰って行った。

王に、水晶玉を見せると王はとても喜んでいた。そして王は、水晶玉を手に取ると勇者に剣を向けた。


「お前ごときの者に、私の愛娘クリシャーナを渡す訳無かろう!斬れ!」


そう命令すると、王の臣下や家来達は、クリシャーナの目の前で勇者に剣を振り落とし殺害したのだった。城内に響くクリシャーナの悲鳴。その時の勇者の深紅の双眸は、クリシャーナを見ていた。

勇者の屍に縋りついて泣いているクリシャーナは、銀の双眸で父王に懇願した。


「父様!私を愛して下さった方を返して下さい!」そう叫んで泣いていた。


クリシャーナの涙が勇者の頬に落ちると勇者の体が光り輝いた。まるで蝶が殻を脱ぎ捨てる様に勇者の体から眩しい閃光が出ると、そこに立っていたのは勇者ではなく大天使シェスラードだった。

クリシャーナを抱き締めたシェスラードは、王を見ると彼はワナワナと震え出した。大天使シェスラードは、相手に寄って天使にも悪魔にも変わると恐れられていた。クリシャーナにとって真っ白な翼を広げた天使にしか見えないが、王に取ってみれば黒い翼を広げた悪魔に見えていた。

王は、転げ落ちる様に玉座から下りると大天使シェスラードの前に平伏した。


「どうか、お慈悲を下さい!」


「ならぬ。お前は、私を3度も騙した。この世界を塵にさせる。」


それを聞いたクリシャーナは両手で顔を覆った。この大天使を怒らせたのは他でもない自分の父である。クリシャーナは、持っていた短刀を握ると自分の胸、即ち心臓に突き刺した。崩れ落ちるクリシャーナの体をシェスラードが抱き寄せると、クリシャーナは息も絶え絶えに震える声で大天使シェスラードに訴えた。


「ち、父が…あなたに犯した罪を….お、お許し….下さい」


銀の双眸には、もう既に生命の力を宿る影さえもない。ただのガラス玉のようにシェスラードを見ていた。シェスラードは、クリシャーナの亡骸を抱き締めると天へと帰って行った。空は荒れ狂い地上は、悲しみに嘆くかの様に激しく揺れた。それが一月も続くと欲深な王が治めていた世界は、滅びてしまった。

天国で大天使シェスラードは、クリシャーナの魂を転生させる事を決めた。また世界は元のように静かな日々を送れる様になった。

かつて魔王が住んでいた城とその王都には、人々が移り住み、城には新しい王が着いた。

それがレゼンド王の先祖であった。


以来、黄金の髪を持ち、銀の双眸を持つ者は、世界を救うと言われる伝説へと変わって行ったのだった。

ジャンヌは、微睡みに身を任せながらも、自分が見ていた夢は一体いつの時代の事なのだろうかと考える様になった。

魔力測定の時に自分が大天使シェスラードを召還した時、彼は嬉しそうな表情と言うよりも、懐かしんでいたと言った方が早いのだろうか…。自分の手を握ったまま眠ってしまっているアウグスト王子を見てジャンヌは、「ようやく見つけました。私の使命を…。」そう言うとアウグストの手にそっと口付けをした。

魔石で照らされた部屋にはアウグストの影とジャンヌの影が見える。だが、ジャンヌの影は異様な形を象っていた。それは、この世界の破滅へと導く事になるのだろうか。

それとも伝説の少女の様に、この世界を救うのだろうか。

舞おう→魔王に書き直しました。

舞おうだったら、怖くないですよね。

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