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魔剣の君  作者: Blood orange
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マーサの溜息

今日は、私マーサのお話でございます。

私の朝は早く、早朝まだ男爵家の皆様が夢の中で彷徨っていらっしゃる間に、軽く別邸の掃除をしています。

その後は、朝食の準備ですか….。寝る前に大体な所はやっていますので、ロールパンを竃に入れて焼いておくだけです。ジャンヌ様は毎朝フルーツを山盛り一杯食べられますので、その用意をしています。

家計が苦しい男爵家では、フルーツは高価なのですが、ジャンヌ様の魔法で領地の森にはいつでも鈴なりにフルーツが獲れますので、タダと言うのは本当に有り難いですね。


朝。眩しい太陽の光が窓から差し混んで来る。マーサは覚悟を決めた様にそっとドアを開けると息を殺してジャンヌが寝ているベッドに近づく。


「ジャンヌ様。朝でございますよ。起きて下さい!」


ゆさゆさとジャンヌを揺り起こすマーサ。するとジャンヌは、ベッドの中で大きく手足を広げると伸びをして、起き上がった。間一髪でアッパーカットを避けたマーサは、ほっと溜息をついた。


実は、ジャンヌ様って朝が苦手なんですよ。それもその筈、ジャンヌの様に長い髪の方なら分かると思いますが、特に縦巻ロールが入っているジャンヌの髪は、特に縺れやすい。

毎朝、涙を出すくらいブラッシングをしないと直ぐに縺れてしまうのだ。ブラッシング自体、マーサの楽しみでもある。日頃の鬱憤をそれで晴らしているとでも言いましょうか フフフ。

それに、男爵家では家計節約のため、シャンプー代をケチってます。もちろん、コンディショナーも同じく。シャンプーセットを買うよりもジャガイモや人参、お肉を買った方がお腹も膨れますしね。ウフ。

では、何で洗っていたのでしょうか……。それは、「何でも石鹸です」

この石鹸で頭を洗うと確かに皮脂汚れは落ちますが、乾燥しやすくなりますね。

その為、毎朝ジャンヌ様は髪の手入れとか言われて、私から地獄のようなブラッシングをされてました。ま、日頃の恨みも入っていますから.....!


でも、此処 男爵家に与えられた別邸には、キチンとサロン並みのシャンプー&コンディショナー、さらにトリートメントも用意されていました。

しかし、慣れって怖いですね。私もジャンヌ様もシャンプーには手が届かず、ついつい いつものクセで使い慣れている石鹸を手に取って、髪も体も擦り洗いしてしまったのです。ハイ。

朝になれば、髪の毛はグジャグジャの焼きそば状態か、メデューサでしょう。 まあ、減らず口のジャンヌ様なので香ばしい焼きそばよりも、メデューサの方が、ぴったりですわね。

そこで、朝一から湯浴みをすることになりました。

マーサがシャンプーを使ってジャンヌ様の髪を優しく擦り洗いしています。


「ジャンヌ様。これってどれ位出すんでしょうね?」

「さあ、私も知らないわ、ジゼルコインくらいで良いのかしら? それともモクアミパンくらいで良いのかしらね?」


(ジゼルコインの大きさは、小さなおはじきくらいです。それにしても、縺れているんだから、もっとシャンプーを使った方がよろしいのかしら….これじゃあ獅子の(たてがみ)と一緒だわ。)


でも縺れているので中々上手く泡が立ちません。根気よく優しく縺れた髪を揉みほぐした後は、綺麗サッパリ泡を洗い落として、コンディショナーをたっぷりと使えば良いのですが、どうやらこの男爵家の皆様は、貧乏性が取れないようで…..。

マーサは自分の掌に、ほんの少しだけコンディショナーを垂らすと、それを使ってジャンヌの髪をマッサージしてる。

こんな事を繰り返した後、漸く湯浴みも終わり、ブラッシングへと突入!

いつもなら、ジャンヌは目に涙を浮かべて騒ぐ程、地獄のようなブラッシングになるのだが、今朝は、そんなに痛く無い…。

これって、凄い! ジャンヌは目をキラキラさせてシャンプーセットに抱きつくと、その場で小躍りしそうになる自分を抑えるのに必死だった。

階下から、母親のジャックリーンの声が聞こえて来る。


「もうすぐご飯にしますよ〜」

「はい。ただ今参ります!」


ジャンヌは、そう答えると急いでドレスに着替えて階下へと下りて行った。

いつもは、何となく縦巻ロールの髪も、今日はふんわりコロネみたく軽い。シャンプー&コンディショナーで髪質がこんなに変わるなんて….。ジャンヌは朝からご機嫌だった。

鼻歌を歌いながら、朝食の果物を食べている。

それを見ていた父ベンジャミンは、とうとうジャンヌが壊れてしまったと思ったみたいで、スゴスゴと書斎へ行ってしまった。


ジャンヌの普段の朝は、ご機嫌で始まる事など、決して無いのです。朝は低血圧なので、起こす方も命懸け。いきなりジャンヌを起こしたら、枕パンチが飛んで来るのは当たり前。寝相が悪い時は、もれなくキックもオマケでついて来ます。

たまに私が風邪でダウンしている場合は、旦那様であるベンジャミン様がジャンヌ様を起こしに行かれるのですが、無傷で食堂の椅子に座られた事など一度もありません。

ジャンヌ様の目が完全に覚めるのは、朝食を食べられてからです。それまでは、まるで二王様のような感じで、いつ怒りが爆発してもおかしくないと言う雰囲気を醸し出しています。ですから、朝食が終わるまでの間、男爵家の方々はジャンヌ様の様子見をしています。

魔法でも使われたら堪りませんからね。

お腹も満たされたジャンヌ様は、ようやくお目覚めのようで「オハヨウございます」と天使のような笑顔で言われますが、私あなたの閻魔様の様な顔も知っておりますから。ハイ。


ジャンヌ様は、恋愛ごとにはとてものめり込む方ではないので、昨日のジャンヌ様の爆弾発言には、私も驚きました。

2人の王子様と口付けですか….。人は見かけに寄らないモノですね。ジャンヌ様は、見かけは清純で大人しく可憐っていうイメージを持たれるんですが、本当は勇ましいのです。毒蛇を見つけるなり魔法で毒を全て出させて、その毒を使った薬で何やら妙な薬を作られる事もあります。あまり大きな声では言えませんが、そのー 夜のお供ですね…。つまり秘薬です。

その割には、ジャンヌ様と来たら「赤ちゃんって、神様に祈れば出来るのよ」そう仰っていました。

ならば、どうしてそのような妙薬を作られるのかと聞きましたら、一言「売れるから」でした。ジャンヌ様は薬師としての腕はぴか一なのですが、いつも妙な薬を作られるのはお止めになった方がよろしいかと思いますがね….。

私の溜息は、これからもまだまだ続きそうでございます。


もう少し、殿方にも優しく接してあげれば宜しいのに、ジャンヌ様曰く「私は自分を偽りたく無いの。母様だって言っていたわ。『ありのままの自分を受け入れてくれる人を見つけなさい』ってね」

可愛いお顔でそのような事を言われても、困ります。旦那様の話では、ジャンヌ様がお二人の王子様達の内、どちらかと結婚されると言う事だそうです。既に王様も王妃様もジャンヌ様が選ぶ方を国王にと考えていらっしゃると….。

ジャンヌ様。マーサは恐ろしゅうございます。あなたのような可憐?と言うよりも、無遠慮でお転婆、その上に無鉄砲な少女がこの国の未来を握っていると思うだけで、この世の終わりが来るのではと思ってしまいます。



マーサでございました。

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