「悪魔の美酒」(ダイジェスト版) E・T・Aホフマン原作 その1 副題、カロー風幻想曲の作者によって出版されたカプチン会修道士メダルドウスの手記より。
ウンベルト・エーコの「フーコーの振り子」『薔薇の名前」を愛読したあなた、
シオン修道会やテンプル騎士団について興味のある、あなた、
そしてダン・ブラウンの「ダヴィンチ・コード」が好きなあなたは、
この、長編小説「悪魔の美酒」(『悪魔の霊液』『悪魔の霊酒」とも、訳される)はさぞ気に入ることと思います。
現実の卑近さ、先祖の因果応報、魔女、不倫、姦通、ドッペルゲンガー、殺人、巡礼、棄教、殉死、純愛、そして全編を貫くのはメダルドウスの呪われた血脈。家系というメインテーマであろう。
イギリスゴシックホラーの「マンク」の筋を借用しているとの批判もあるが
内容はこっちのほうがずっと深く、パッショネイトで陰残だ。
この小説は当時としては、破天荒な異常心理小説・犯罪小説、裁判小説であった。
精神分析的な要素あり、性欲の問題あり、異常心理あり、アガペーへの希求と、肉欲の葛藤あり、
近親相姦テーマあり、殺人の心理の深い分析あり、犯罪と贖罪の相克テーマあり、まあ、今でこそこんなテーマの小説はあるにしても、この小説は未だにその、価値を失わないだろう。
メダルドゥスが巌の上からヴィクトリンを突き落として、落下してぐちゃぐちゃにつぶれて死んだときの、あの、殺人者の心理は、そして逃げるメダルドゥスの犯罪者の心理描写はやはり鬼気迫るものがある。
そして誘惑者オイフィーミエの妖しい魅力の描写も魔女的な怖さが描写されている。
メダルドゥスはとっさに毒入りワインを交換して、それをのんだオイフィーミエは悶絶して死んでいく
。
まあ、これは今で言う立派な犯罪小説であろう。罪の意識に怯えるメダルドゥスの苦悩、うなされる悪夢。
その罪をあおるかのような不気味なドッペルゲンガーの出現。そしてローマへの逃亡生活が続くのである。これは、旅行記・遍歴小説でもある。
さあ、それでは、私のダイジェスト版「あらすじガイド」で、
古典的なゴシックロマンス小説の世界へどうぞ、
「悪魔の霊液」ETAホフマン原作。1816年刊行 Die Elixiere des Teufels
★原作は古典小説であり著作権は消滅しています。
以下、、私のダイジェスト版になります。
副題(「カロー風幻想曲」の著者によって出版されたカプチン会派修道士メダルドウスの遺稿)
この長編小説はこんな書き出しで始まります。
「出版者のまえがき」
君よ、親愛なる読者よ、君を誘って私はあのプラタナス繁る、小路に案内したいものだ。
そこは花々も咲き誇りかなたには石造りのベンチもある。
さあ、そのベンチに腰を下ろそうではないか。
私はそこで初めてメダルドウスの手記を読んだのだった。
好意ある読者よ。
君はあのB町のカプチン会修道院をご存知だろうか?
以前私がこの修道院を訪れたとき修道院院長は
修道院の書庫から古い手書きの手記を取り出してきて
「これは今の時代にこそ真に読まれるべき魂の遍歴と贖罪と、救済の書である」
といって見せてくれたのがこの「メダルドウスの手記」なのである。
私は一読、深い感銘を覚えて院長に出版させてくれはすまいか?と尋ねた。
始め修道院院長は渋い顔をしていたが私は熱心に説き伏せて
やっと許諾を得たという次第。
今これを出版するに当たり
君よ、
好意ある読者よ。
君はこの原稿を読み進めるにしたがって
あたかも彼自身メダルドウスになりきったかのように
暗い城内や地下牢、等に入り込み
そこでおののきや、恐怖、そして狂気、あるいは滑稽を
味わうことだろう。
一つの悪の種が産み落とされてそれが次第に生い茂り
やがてすべてを悪の深淵に呑み込んでしまう過程をとくと味わうことだろう。
私こと出版者は、この手記を熱心に読み通した結果、
私たちが狂気とか、幻想とか呼んでいる事象は
実は、私たちの現実生活の深い真実を照らし出す象徴、暗喩、シンボルなのではないかということだ。
といってもだからさっそく
現実生活を直くするように、その夢を支配できるかといえばそれは無理だろうが、、、。
さあそれでは読者よ
この物語を読んでどういう感想を持たれるだろうか。
さあ狂気と幻想と贖罪と愛欲と聖愛のこの入り混じった物語、
「メダルドウスの手記」
をお読みください。
「メダルドウスの手記」
第一部
第1章
「幼年時代の日々と修道院生活」
私の父がどんな暮らしをしていたのか私はよく知らない、亦、母も話してくれたことはない。
ポツリポツリ母が話してくれたことによると、
両親は昔、豊かに暮らしていたが悪魔に魅入られてどん底にまで転落し、父はその贖罪のために、
プロシャの聖地、ハイリゲリンデへの巡礼を思い立ったのである。
その巡礼旅の途中母は私を身ごもり、ハイリゲリンデについて父は過酷な贖罪の行をしてすっかり衰弱して
父が死ぬ瞬間に私「フランツ」が生まれたのだという。
父は「この子によって俺の罪も赦免されるだろう」と喜んで死んだという。
その後母と私はハイリゲリンデにとどまって暮らすことになります。
そこには異国から来たという不思議な画家がいて聖画を聖堂の壁面に書いていた、しかしその画家はある日、急にどこかへと、消えてしまったのだそうである。。
子供のころのある日、
老巡礼が来て私たちを見てこんなことを言うのです。
「よいかな、あなたの息子さんは非常に優れた才能を持っておる。が、同時に、この子には父親の数々の罪の血が煮えたぎってもおる、この子はそれらと戦わなければなるまい、だから
この子を聖職者になさるがよい」
その後母は私を連れて故郷へ帰ることを決意します。
その途中父の知り合いであるシトー会の女子修道院に立ち寄ります。
そこで女子修道院長はこの親子を、自分の家族のように世話してくれ、ここへとどまるようにすすめます。修道院長は幼い私を抱きしめ、「フランチスクス、良い子になるんですよ」といってくれました,
その時きつく抱きしめたため彼女の十字架が私の首に食い込みあざができそれはずっと消えることはありませんでした。
こうしてやっと母子は安定した暮らしを得たのでした。
私はすくすく育ち、司祭になる教育を受けた、やがては、少年合唱隊としても奉仕したのでした。
16歳になったある日、私は隣町のカプチン会修道院へ入ることを勧められました。
そこで私はレオナルドウス修道院長から指導を受けることになります。
修道院での暮らしは順調でしたが
修道院付きの楽長の妹のあらわなドレスの胸元に息苦しい思いを抱くのだった。
愛欲の炎は燃えたぎるが、その娘にバカにされたと思ってそれを機に、
完全に俗世と決別しようと、正式に
聖別式を受けて、修道士としての生活に入ります。
フランツの出家を母は心より喜び、
修道名は母が見たという幻覚の「聖メダルドウス」にちなんでメダルドウスとなのることとしたのである、。
修道院に来て5年がたっていた、
老齢のため役目が果たせなくなったチリルス師に変わり、
メダルドウスが聖遺物庫の管理を任されたのだった。
チリルス師は案内してくれながら説明してくれたが、
そこには様々な遺物が置かれてあった、
中でも、チリルス師が一番に不思議に思う遺物が、「聖アントニウス」ゆかりの
『悪魔の美酒』(悪魔の霊液)であった。
チリルス師が語るところによると、
何でもこれは聖アントニウス様が荒野で修行していた時、悪魔めが邪魔をしようとして
近づいてきたそうだ、
見ると衣服のそこかしこに酒瓶がぶら下がっている、
アントニウス様にも『どうだ。飲んでみな」と進めるのだった。
もちろんアントニウス様は断り修行を続けたという。
しかし悪魔が去った後に見ると、草むらにその酒瓶が2~3本置き忘れられているではないか、
アントニウス様はそれを行きずりの旅人が間違って飲んではいけないと洞窟の奥深くに隠したという。
「その中の1本がどこをどう回ってきたのか、ここにあるこれなのだよ。」といってチリルス師は悪魔の霊酒が入っている小箱を見せてくれた、
そうしてチリルス師は聖遺物庫のカギをメダルドウスにあづけたのであった。
さて話変わって、この修道院に雄弁な説教家がいてその人の説教の日には聖堂がいつも満員だった、
ところがどうしたわけかこの人ののどがかれて説教がすっかり迫力がなくなってしまったのである、
当然説教の日も聴衆は居眠り、信者の足も遠のいてしまったのである。
そこで、
レオナルドウス修院長はメダルドウスにその修道士に代わって説教を、やってみないかと進めてくれたのである。
初めこそ声も震えていたが次第に高潮して声は天蓋に響き渡り聴衆も感嘆の涙さえ流すのだった、
説教は大成功だった、
やがてメダルドウスの名声は近隣になりわたったのである、
メダルドウスは有名人になり一目見ようと人々が群がった、
そして次第にメダルドウス自身も自分は、神に選ばれた聖人であるという慢心が芽生えてきたのである。
そんなある日説教をしていると、ふと聖堂の後ろの隅に背の高い老人が立っているのが見えた
それは昔ハイリゲリンデで見た異国の画家だった、
彼の眼は軽蔑にゆがみ、恐ろしい風貌であった、
メダルドウスは次第に冷静を失い、、
言葉につっかえてしどろもどろになり、
惑乱するままに、その老画家に叫んでいた。
「この無頼漢め。失せろ、俺を誰だと思ってるんだ、
俺こそ聖アントニウス様の生まれ変わりだぞ」
そう叫ぶなり、そのまま気絶してしまったのだった。
気が付くとチリルス師が介抱してくれていた。
しかしだれに聞いてもそんな老画家など見ていないというのだった、
数週間後私は再び説教壇に上がったが心は不安でいっぱいで、かつてのような名説教はできなかった。
メダルドウスはすっかりふさぎ込んで部屋に閉じこもってしまったのでした、
そんなある日、一人の若い伯爵となのる人が、旅行中にこの修道院に立ち寄ったのである。
メダルドウスが、聖遺物庫を案内して、例の悪魔の美酒の説明をすると、
伯爵はその小箱を勝手に開けてにおいをかぎ
『やあ、賭けてもいい、これはただのシラクサ葡萄酒だぞ」といってやにわに栓を開けて飲んでしまったのである。
栓を開けるときメダルドウスはポッと、青白い炎が上がるのを見たような気がした。
あたりには怪しい芳香が立ち込めていたのだった。
それはしびれるような快感の匂いだった、
伯爵はメダルドウスにも、飲むように、
すすめたが拒否して、元の小箱に納めたのだった、
伯爵が立ち去った後、自分の小部屋に帰ったメダルドウスは久しぶりに、体がよみがえったような活力を感じたのだった、それは紛れもないあの悪魔の美酒の芳香のせいだったのである、
それからというものあの酒さえ飲めばまた説教ができるようになるのではないかという思いが募るばかり、
ある夜、意を決して聖遺物庫に忍び込んだメダルドウスはあの小箱の戸棚を鍵で開けて
あの芳醇な香りの、悪魔の美酒を飲んだのである。
あわてて部屋に戻ると、ふと鍵に目をやった、それは見たこともない鍵だった、
というのは聖遺物庫の戸棚のカギは別のところに隠してあったからである、
あの伯爵が来た時も、そして今回も、
するとこのいつの間にか紛れ込んでいた見知らぬ鍵で私はあの扉を開けていたのだろうか。
それを知ると、メダルドウスは、ぞっとするのであった。
その2に続く(全15話の予定、)
付記
以下順次長編小説であるこの物語を
私が全15話にダイジェスト化して
提供するつもりですのでどうぞご期待ください。
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なお
原作は古典小説であり著作権は消滅しております。
その2に続く(全15話のうち)