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愛ふたたび

作者: レモン
掲載日:2026/07/29

 その日は、雨だった。もう二度と恋はしないと誓った、凪子が、1人雨宿りで、たたずんでいた。

 1週間前に、大失恋したばかりの、凪子、29歳。もうすぐ、30歳の誕生日を迎える。

 大手商社に勤める彼、健二とは、3年の付き合いだったが、お互い、仕事が忙しく、すれ違いが、多くなり、けんかも、たびたびするようになっていた。別れは、彼の方から、きり出された。

 凪子は、大恋愛の末の別れだったので、とてもショックを受けていた。でも、別れを受け入れるほか、なかったのである。もう、二度と、恋は、しないし、できないだろうな、と、思っていた。それ程、健二を、愛していたのだ。

 凪子は、自宅で、1人、やけ酒を飲んでいた。味方は、飼い猫のミイコだけだった。それでも、少しは、心強かった。こんな時、なんでも、話せる友達がいたらな、と思いながら、お酒を、あおっていた。

 健二からのプレゼントは、すべて、ゴミ箱に捨てた。捨てる時に、自然と、涙があふれてきた。これは、2人の付き合い、一年目の記念日にもらったブレスレット。これは、誕生日にもらったネックレス。思い出が、たくさんだった。

 でも、プレゼントを捨てたら、なんだか、吹っ切れた気持ちにもなっていた。いろいろ、後悔していることは、あっても、前を向いて、歩いていこうと、心に刻んでいた。

 その分、凪子は、仕事に没頭していった。残業もあり、忙しかったが、その忙しさが、失恋を忘れさせてくれた。

 凪子は、上司に、取り引き先との、商談を、任されてしまった。凪子にとって、荷が重がったが、引き受けざるを得なかった。

 そして、なんと、商談先は、健二のいる会社だったのだ。まさか、健二とは、会わないだろうな、と、思っていた。

 商談の日、当日、健二のいる会社に向かっていた。足が重かった。偶然でも、健二にあってしまったら、どうしようとか、いらないことを考えながら歩いた。

 でも、これは、仕事なのだから、割り切るしかないのだと思っていた。商社に着いて、応接室に、通された。ドキドキしながら、相手を待っていた。健二ではなかった。凪子は、ほっとした。

 商談は、うまくまとまった。商談の相手の人は、五郎といって、凪子と、同じ年だった。

 五郎は、商談終わりに、凪子に、「同じ年のよしみで、こんど、お食事でも、どうですか?」と、誘ってきたのだ。凪子は、社交辞令だと思って、相手にしなかったのだが、連絡先を、渡されて、「気が向いたら、連絡して。」と言って、五郎は、応接室を、あとにした。

 凪子は、連絡先を書いた紙を、捨てようかとも思ったが、そのまま、カバンにいれた。

 自社に戻り、凪子は、商談が、成立したことを、上司に伝えた。上司は、とても、喜んでくれた。上司は、凪子に、「お祝いに、今日、飲みにいかないか?」と、誘った。凪子は、ていちょうに、断った。今日は、1人で、ゆっくり、自宅で、飲みたかったのだ。 

 お酒が、足りないと思った凪子は、お酒とおつまみを、買いに出かけた。その日も、雨だった。通りに面した、レストランで、窓ガラス越しに、健二の姿が見えた。隣には、きれいな女の人が座って、楽しそうに、2人でおしゃべりをしていた。

 凪子は、別れて間もないのに、健二には、もう、彼女ができたのだ、と、ショックを受けていた。何も買い物をせず、自宅に戻り、部屋で、呆然と、たたずんでいた。気持ちを、落ち着かせようと、必死だった。

 そういえば、と、凪子は、カバンに入れてあった、五郎の連絡先を、取り出した。どうしようか、と、迷いながらも、五郎に、連絡したのだ。五郎は、喜んでいた。凪子は、思わず、泣きそうになった。

 同じ年ということもあり、五郎とは、話しが合った。そして、2人で食事に行く約束をしたのだ。

 約束当日、凪子は、このまま、五郎と会ってもいいのかな!と、心が、痛かった。でも、実際、五郎と会って、食事をしたら、とても楽しく、過ごす事ができたのだ。何年も前から、知っている、同級生のように。

 でも、心のなかでは、まだ、健二の事が、ひっかかっていた。

 また、会う約束をして、五郎と別れた。

 2回目のデートで、五郎と凪子は、居酒屋に行った。五郎も、凪子も、お酒が、好きだったので、飲めば飲むほど、いろんなことを、腹をわって、話し始めていた。凪子は、こんなに、話しやすい人は、はじめてだ、と、思っていた。

 五郎も、最初に、商談で会ったときのイメージどうりの女性だと思っていた。最初から、好印象だったのだ。

 凪子は、楽しさに紛れながらも、健二のことを、忘れられるだろうか、と、自分自身の心に問いかけていた。

 健二に対抗したように、五郎に、連絡してしまった自分が、情けなかった。

 でも、五郎のことは、大切にしたいと、思いはじめていた。今までにない、男性のように、思えるからだ。

 五郎は、3回目のデートで、凪子に、「正式に、付き合ってください。」と言った。凪子は、うなずいた。五郎となら、今までのことを忘れて、もう1度、愛する気持ちを、取り戻せるのではないかと、思えたからだ。

 五郎は、付け加えた。「結婚も視野に入れてるから。」凪子は、思わず、泣いてしまった。

もう、二度と恋はしないと誓った日から、こんな日がくるとは、思っていなかったのだ。

そして、今日も、冷たい雨が降っている。


 

 


 

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