第6話 入籍に向けてパッカーンよろしくと言われた話(後編)
計画は、完璧なはずだった。
期限を決め、準備を整え、演出まで考えた。
あとは、その瞬間を迎えるだけ――
そう思っていた。
これは、そんな僕の「完璧な計画」が、
たったひとつの段ボールから崩れていく話。
そして、
格好悪くて、
想定外で、
それでもちゃんと届いた、
僕なりのプロポーズの記録である。
第6話(後編)。
最後まで、どうか見届けてほしい。
第6話(後編)
バラの造花を頼んだ僕は、渡すシチュエーションを調べた。
「旅行先でサプライズで渡す」
これだ。
日常から少し離れた場所。
穏やかな空気。
非日常。
その中で渡せば、きっと忘れられない思い出になる。
僕は彼女に旅行を提案した。
彼女は少し驚いた顔をしたが、
「いいね」と、問題なくOKをくれた。
行き先は白川郷。
穏やかな町並みの中を歩き、
温泉を楽しみ、
夜、静かな時間に――
そこで渡す。
完璧だ。
そう、計画していたのだ。
計画の狂いは、届いたバラから始まった。
想像以上に大きい。
……これ、キャリーケースに入らないんですけど?
彼女が仕事に行った後の時間に届くよう指定していた。
インターホン。
段ボール受け取り。
開封。
そして固まる。
でかい。
とりあえず、見つかってはいけない。
僕は段ボールからバラの入ったガラスケースを取り出し、
クローゼットへ隠した。
すでにクローゼットの七割は彼女の衣類だ。
残り三割の空間。
そこに、そっと滑り込ませる。
隠すこと自体はできた。
……新しいキャリーケース、買わないとな。
そう思いながら、僕は出勤した。
決定的な証拠を片づけないまま。
仕事の帰り。
電車の中で、ふと思い出す。
――段ボール。
玄関。
放置。
「あ!」
声が出そうになるのを、ギリギリで飲み込む。
僕は駅から全速力で走った。
帰宅。
玄関。
段ボールは――
隅に、きれいに片付けられている。
終わった。
全てばれた。
何がサプライズだ。
僕のプロポーズ大作戦。
時間も、計画も、演出も。
すべて瓦解した。
「どうしたの?」
彼女はいつも通りの顔で聞いてくる。
だが内心では、きっと気づいている。
そう思った僕は、
そのまま、勢いで動いた。
クローゼットを開ける。
バラのケースを取り出す。
彼女の前に立つ。
「ほんとは、旅行で渡そうと思ってたけど、
もう気づいてると思うから、渡すね」
深呼吸。
「僕と結婚してほしい」
なんて格好の悪いプロポーズだ。
計画ゼロ。
演出崩壊。
勢い任せ。
そう思いながら、彼女を見る。
彼女は――
目をぱちくりさせている。
あれ?
沈黙。
数秒。
「うれしい……はい」
笑顔。
成功、した。
無事、プロポーズは成功した。
だが。
彼女があんなに驚いていた理由が、分からない。
僕は恐る恐る聞く。
「……あの、玄関の段ボール、見たんだよね?」
「見たけど」
彼女は首をかしげる。
「何か頼んだんだ、って思ったくらいで、ちゃんと見てなかったよ?」
……え?
その言葉は、
僕の耳に遠く聞こえた。
つまり。
ばれていなかった。
勝手に焦り、
勝手に崩れ、
勝手に自爆したのは――
僕だけだった。
未来の旦那。
最後の最後に、
見事な早とちりをかます。
それでも。
深紅の一本は、
ちゃんと受け取ってもらえた。
「あなたしかいない」
その意味とともに。
こうして僕は、
人生最大級のミッションを、
予定より少し早く、
完了させたのだった。
そして…ここがゴールではなく、スタートであることを僕はこれから理解していくことになる…
(第1部完)
こうして僕のプロポーズは、
予定よりもだいぶ前倒しで、
しかも想像以上に不格好な形で幕を閉じた。
よくよく振り替えれば、アプリで出会ってから告白までの日数より、告白してからプロボーズまでの日数が短いという爆速っぷりだった。
完璧な演出はできなかった。
計画通りにもいかなかった。
でも、
彼女の「はい」は、
どんなシナリオよりもまっすぐで、
どんなサプライズよりも嬉しかった。
きっと結婚も同じだ。
完璧な準備なんて、たぶん存在しない。
予想外の連続で、
思い込みで焦って、
勝手に自爆して、
それでも二人で笑い合えたら、
それでいいのかもしれない。
そして僕は、
これがゴールではなく、
スタートであることを、
これから少しずつ理解していくことになる。
次のミッションは、
“夫”になること。
まだまだ修行は続くらしい。
以降、第2部へ…
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