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第5話 彼氏、ほこりに敗北する

同棲のお試し期間とは、何だったのか。


気づけば彼女は、本格的に引っ越してくることになっていました。


大人の引っ越しは、自分でやるもの。

そう思っていた僕は――


彼氏としての役割を、少し勘違いします。


今回は、段ボールとほこりと、静かな覚悟の話です。

同棲のお試しとは、何だったのか。


あの一週間は、想像していたより穏やかだった。


ゲームに泣かれた夜以外は、大きな衝突もなく、むしろ静かに、自然に、生活は溶け合っていった。

そして、彼女が本格的に引っ越してくることになった。


幸い、僕の部屋は単身用ではない。

二人で暮らすには十分な広さがある。

理屈の上では、何も問題はない。

ただ——何かが、速い。


大人の引っ越しとは、自分でやるものだと思っていた。

現に僕は、これまで八回の引っ越しをすべて一人で終わらせてきた。段ボールも、手続きも、荷造りも、全部。


だから、今回も彼女は一人でやるのだろうと、どこかで思っていた。

でも、今の僕は彼女の彼氏だ。

「大変なら手伝うよ」

そう伝えたとき、彼女はいつもの調子で言った。

「大丈夫」

その言い方が、少しだけ引っかかった。


進捗は教えてくれる。

今日はここまでやったよ、と写真も送ってくれる。

けれど、どうにも進んでいない気がした。

そして迎えた休日。

「今度の休み、手伝うよ」

今回は“提案”ではなく、“宣言”に近かった。


彼女の部屋に入った瞬間、答え合わせは終わった。

思っていた以上に、進んでいない。

どうやら、僕に負担をかけたくなくて、仕事帰りに少しずつ進めていたらしい。

けれど、仕事の後だ。体力が残っているはずがない。

段ボールは組み立てられたまま積まれ、

仕分け途中の書類がテーブルを占拠し、

棚の奥からは、いつのものか分からない調味料がいくつも出てきた。


僕は袖をまくった。

ここで、もう一度活躍すると誓った。

彼氏とは、こういう時に役に立つ存在だろう。

そう思ったのも束の間。

古い書類をまとめているうちに、舞い上がったほこりが鼻を直撃した。

はっ——

くしゅん。

はっくしょん。

止まらない。


彼女が申し訳なさそうにこちらを見る。

「ごめんね……」

出るものは、仕方ない。

そう言いながら、くしゃみの合間にガムテープを引きちぎる。

ヒーローになるつもりが、ほこりに敗北している。

それでも、日曜日を二回潰すことで、なんとか形にはなった。

最後の段ボールを閉じたとき、部屋はようやく“終わり”の空気をまとった。


帰り道、駅前のケーキ屋に寄った。

特別な理由はない。ただ、甘いものが食べたかった。

フォークを入れた瞬間、疲労がほどける。

「おいしいね」

彼女が笑う。


その顔を見て、思う。

半分は手伝う、なんて言っていたけれど、

結局これは、二人の作業だった。

そして僕は、この先に待っているものを、まだ知らない。


いや、正確には——

知っている。


ただ、見ないふりをしているだけだ。

僕はこれから、人生最大の試練を迎えることになる。


それは、ほこりよりも、書類よりも、ずっと手強い。


プロポーズという名の、静かな圧だ。



読んでいただきありがとうございます。


引っ越しは、荷物よりも覚悟を運ぶ作業なのかもしれません。


あの日、僕はまだ余裕ぶっていました。

「手伝うよ」と言いながら、

本当の意味での“支える”を理解していなかった。


そしてこのあと、

僕は人生最大級の選択と向き合います。


どこまでが創作で、どこまでが実話か。


……引っ越し回数が八回なのは、本当です。

あとは、ご想像にお任せします。


次回。

未来の旦那、覚悟の具象化を探します。


この旦那を応援してくれる方はブクマや評価、コメントを頂けたら幸いです

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